第66話

特に、日本のここでしか暮らした経験がない蘭にはそう感じられただろう。都会好きな彼女に、8歳まで育った台北は打ってつけの好環境だし、台湾には台湾の同級生がいて、まったくゆかりの無い日本の何処かに越すのとは雲泥の差があるだろう。

「じゃあ、台湾か日本か、どっちかにしよう。ママ、しばらく待つから考えてみて。」

と、選択権を娘に渡した。


これは、のちに、‘まずかったかなあ…’と反省したやり方である。

せっかちで、早く白黒つけたい私は、再三彼女に選択を迫った。

そのうち蘭は、

「あ〜あ〜、もう言わないで。考えてるから、もうすぐ決めるから言わないで!」

と、私の問いかけを遮るようになった。

母と娘の間では、「じーちゃんとばーちゃんの事はひとまず置いといて考える」取り決めを交わしていたが、12歳になるかならないかの子供に決められる重さの事柄ではなかったのかもしれない。私だって迷って迷って右往左往していたんだから……

ただ、離婚して、海外転校させてしまった負い目があった。離婚までの経緯とか、私の七転八倒を鑑みれば、そんな負い目、感じなくてもいいのかもしれなかったが、日本の卒園式や、友達と一緒に園の斜め前に立つ小学校に入学できなかった無念を思うと、蘭の意見は尊重してやらねば、と思ったのだ。

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