第12工程 まさか、僕の心配をしてくれるんですか。

 放課後、部室に集められた三琴君達。

 司令室では、亀山先生と例の長老が待ち構えていました。


「「わぁ、何その生き物!?」」


 入った途端に宮前兄妹のハモリが木霊します。

 兄妹は目を輝かせて、司令室の机にいた長老をまじまじと見つめます。


「紹介しよう。この方は、宇宙中立連邦議会の最高位長老である、カクバッタ・ザイモーク氏だ」

『ngenfjhew;pa;sdl』

「よろしくと仰っている」


 先生は、易々とカクバッタ長老の通訳をやってのけますが、僕を始め、部員達は全く長老の言葉が理解できません。


「先生、よく言葉が分かりますね、僕にはさっぱり」


 楓原部長がそう言うと、先生は大層自慢げに自らの耳を見せ付けます。そこにはイヤホンらしきものが見えます。


「これぞ、宇宙語翻訳装置だー! これで、何処の星の言葉でも手に取るように分かるのだ!」


 あー、なるほど。通訳装置ですか。だから、瞬時に言葉が理解出来ているのですね。すごい。


 ところで、そんな凄いモノ、一体何処で手に入れたのでしょうか?


「これか? 何処かの国で襲来してきた宇宙人を捕虜として捕らえたときに、身に付けていたのを発見したらしい。それを、人間向きに開発したのが、コレだ」

「先生だけずっるーい。俺たちにも頂戴!!」

「そーだそーだ!」


 またもや、宮前兄妹が仲良く、先生に通訳装置を要求します。


「そう言うだろうと思って、ちゃんと人数分用意してあるぞ」

「「わーい!!」」

「ただし、今からミーティングをちゃんと聴くと約束する奴にだけ配布する。とっとと席につけぇ!」


 先生の合図で部員全員が各々の席に着きます。それから、先生からイヤホン型の通訳装置が配られ、各自耳に装着しました。


「なんだか、スパイ映画みたいだね」

「スパイ……。ボスと下っ端とのロマンス。最高だわー」


 静流副部長の言葉を何故か湾曲して、山菊先輩は萌えていますねぇ。

 この人、何でもそういう風に働くフィルターでもあるのでしょうか?


「大事にしろよ。これから長老のありがたい言葉がある。心して聞くように」

「ちょっと待った」


 長老が話そうかと思ったその時、三琴君がソレを止めます。


「どうした、山吹」

「長老の話を聞くにしても、俺たちは今配られた通訳装置があるから、困りはしないけど、夏水は持ってないから困るんじゃないかと思って」


 えっ、三琴君、まさか、僕の心配をしてくれるんですか。

 僕は、唯の語り部なので、このミーティングを聴いているだけでなのに。


「そろそろ、夏水もこの部の部員も当然になりつつあると思うけどな」


 僕は……ません。


「今、何か言ったか?」


 あ、いいえ。何でもないですよ。三琴君の優しさに泣きそうになってきますねぇ。

 でも、ご安心ください。先ほど、僕にも通訳装置が手渡されましたので、これで、心置きなく長老の話に集中できますので。


「そうか?」

「おい、始めていいか?」


 あ、僕なんかで手間を取らせてすみませんでした。長老さん、有難いお話をどうぞ。

 そして、小さい長老は話し始めた。


『宇宙中立連邦、最高位長老のザイモークです。今回は、友好協定を結んでいる地球人へ、警告をしに参った次第です。我々が仕入れた情報によると、クラップス星人が宣戦布告してきます』

「宣戦布告だと……」


 宣戦布告、つまりはクラップス星人が全力で地球へと攻めて来るということでしょうかねぇ。この長老の衝撃発言に、部室の中がどよめきます。


「前回、攻めてきたじゃねぇか。その時は、逃げるようにして撤退して行ったが、それは違うのか?」


 塩原君の質問に、長老の答えはNO。


『それは唯の調査に過ぎないと思われます。恐らく、貴方たちの力を調べていたのでしょう。彼らはとても頭がいい。地道に調査を重ね、その結果から強力な武器を生み出していく。その武器で侵略された星は少なく無いのです』


 長老の言葉に、ゴクリと三琴君は生唾を飲み込みました。


『クラップス星人のやり方は、中立連邦でも問題視されています。そこで、クラップス星人に対する我々が出せる限りの情報を、貴方たち地球人に提供します。ですから、お願いです。クラップス星人の侵略を止めて頂けないでしょうか?』


 え、連邦でも困っているクラップス星人を三琴君たちで倒せということですか?


「そんなの、無茶だろ」


 三琴君の頬に冷や汗が流れます。

 三琴君の言うとおり、そんなの無謀過ぎます。またいつ、クラップス星人が攻めてくるか分からないですし。


「いや、まだ攻めてこないハズだ」


 先生は、そう啖呵を切ります。

 その根拠は一体なんですか?


「長老の話によると、彼らは今必死に探しているものがあるそうだ。ですよね? 長老」

『はい。我々の調べによると、彼らは貴方たちの使っている“クレポン”を作った科学者を探しているようなのです。その科学者が持っている、クレポンの真のレシピを狙っているみたいなのです。そのレシピを手に入れ次第、彼らは行動するようです』

「クレポンの科学者って確か、クレポンが兵器利用されてから直ぐに謎の失踪を遂げていますよね?」


 部長さんの言うとおり、クレポンを作った科学者は、クレポンが兵器として採用され、兵器利用されて後に失踪して、現在行方が分かっていないのです。


 その科学者が持っている真のレシピですか……、気になりますね。


「そのレシピを手に入れたら、どうなるんだ?」


 三琴君の質問に、先生と長老の顔が青ざめます。


『レシピには恐らく、クレポンの弱点が書かれているのではないか、という我々の見解なのですが。その真偽はわかりません。しかし、貴方たちが圧倒的に不利になってしまうのは確かなのです』

「肝心の科学者の行方は政府の方へ任せるという話になっている。モデリング部としては、クラップス星人の完全襲来に備えて鍛えておかないといけないという方針になった。ということで、今後はビシバシとクレポン制作に勤しむこと。皆、いいな」


 先生の一言に部員達は、『はい!』と元気良く返事をしました。

 それにしても、クラップス星人を倒す。なかなか骨が折れそうですよね。語り部の僕としては、皆さんの活躍を実況できるのがとても楽しみではありますが。


 ん? 先ほどから、長老が僕の方をじっと見てくるのですが、僕、何か変なことでも言いましたでしょうか?


『そこの貴方、何処かで見たような気がするのですが。気のせいでしょうか?』


 え、僕のことですか? 僕は、唯の一般人、恐らく人違いですよ。




【次回予告!!】

長老の発言から発覚した、クラップス星人の宣戦布告計画。

そして、クレポンの真のレシピ。

僕達の知らない間に、物語はどんどん進んでいきます。

そんな中にいる、三琴君に次回降りかかってくるものとは!

次回、もでりんぐ!!第13工程をお楽しみに!

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