第11工程 「え? パンダオアシスってなぁに?」

 三琴君、そろそろ授業始まりますよ?


「授業なんていい。パンダオアシスに浸っていたいんだ」


 いやいや、ダメですって。こんな僕がいうのもアレですけど、勉強は大事なんですから。

 僕の説得も効かずに、三琴君はパンダルームから一切離れようとしません。


 くっ。かくなる上は、最終手段に出るしかなさそうですね。


 三琴君、なんと臨時速報です! 今SPクラスにパンダ型の宇宙人が攻め込んできたようです! 早く行かないと、宇宙人が殲滅されてしまいますよ!


「えっ、その話本当か!」


 先ほどまで僕の話を聞かなかった三琴君が、パンダの話題になると、一気に食いついてきました。

 はい、どうやら三体いるとの情報が入ってきました。早く行かないと行けませんね。


「そいつは大変だ。早く行って保護してあげないとだな。コレクションにしないと」


 そう言って、三琴君はまるで光のように部室から出て行きました。


 ……。あとで、問い詰められたら謝っておきましょうかねぇ?



 昼ごはん休憩。むっすーと膨れた三琴君が、じっと僕のほうを睨めつけています。


「……フン」


 三琴君、機嫌直してくださいって。あれは、やむをえない嘘だったのですって。


「嘘にやむを得るもやむを得ないもあるものか。折角パンダオアシスで幸せだったのに」

「え? パンダオアシスってなぁに?」

「渉には関係ないから、黙ってろ」


 いつもと違う三琴君の威圧感に、縮こまる渉少年。

 あー、これは。三琴君、本当に怒っていらっしゃる様子。

 すいません。そんなに怒るとは思っていなかったのです。この通りです、許してください。


「もう、こんな嘘はつかないと誓うか?」


 ど、努力はします。という僕の言葉に、三琴君はため息を一つつく。


「今回は許してやるけど、今度やったらマジで許さないからな」


 はい。心の中に留めておきます。


「よし、許す。あー、怒っていたらお腹減ってきたなぁ、ご飯を食べるか」


 三琴君は、鞄からお弁当箱を取り出そうとしたその時。


『キャー!』


 教室で女子生徒の甲高い悲鳴が響きます。

 一体どうしたのでしょう?

 悲鳴が聞こえたほうを見ると、女子生徒が椅子から落ちてしりもちをついています。カメラアングル次第では見えてしまいそうですね。


「そんなこと言っている場合か」


 ついつい健全な青少年の心理が働いてしまいました。

 気を取り直して、彼女に一体何が起こったのでしょうか?


「一体どうしたんだ」


 三琴君が女子生徒のもとへ駆け寄ると、女子生徒は机の上を指差しました。


「いきなり小さい生き物みたいなものが飛び込んできて、私のお弁当を食べて逃げたのよ」


 三琴君が彼女のお弁当箱を見ると、おにぎりが一つ無くなっていました。

 それにしても、小さい生き物ですか、リスか何かですかねぇ?


「リスなんて、茶山陣辺りには確か生息していないぞ」

「うわっ」


 今度は、渉少年の悲鳴みたいな声が聞こえました。


「渉どうしたんだ」


 その声を聞きつけて、三琴君が駆け寄ります。


「みこちゃん、コレ見て……」


 渉少年が震える指先で自らのお弁当箱を指差します。そこには……、

 緑色のグラデーションがキレイな長い耳、そして目はくりくりしていて、蒼玉サファイアのような色の体長15センチほどの未知の生命体がそこに居ました。

 その生命体は渉少年のお弁当に入っていたから揚げを、行儀良く座って食べていました。


「なんか、可愛くない!?」

「えっ、そこかよ!?」


 渉少年はすっかりこの生命体の虜らしく、メロメロのご様子。確かに、可愛いかもしれませんね。


「夏水もかよ!? ってか、コレ、そんなに可愛いかぁ? パンダのほうが何百倍も可愛い気がするが」


 三琴君はそういいながら、から揚げを食べてご満悦の生命体をひょいと摘み上げました。

 攻撃されるかもしれないという危険を顧みず、易々と未知の生命体を摘み上げる三琴君、彼の心臓は剛毛なのかもしれません。


「というか、コイツ、見るからに地球外生命体だよな? 一応、先生に報告するべきだな」


 そうですね、侵略者かも知れませんので、報告は大事だと思います。

 すると、いきなり、SPクラスのドアが勢い良く開けられ、タイミングよく亀山先生が入ってきたではありませんか!


 まるで、先ほどまで様子を伺っていたような感じですね。


「長老! ここにいらっしゃったんですね!」


 なんと、亀山先生は三琴君が摘んでいた未知の生命体に向かって、長老と呼びました。

 長老ということは、偉い人(?)なんですね、きっと。


「長老? コレが?」


 三琴君は、摘んでいる生命体をまじまじと見つめますが、どうやらイマイチピンときていない模様。


「詳しい話はまた放課後する。一先ず、山吹、長老を解放してくれないか」


 すっと亀山先生は両手をお椀型にして差し出すので、三琴君はその中に、長老を放します。


「探しましたよ、長老。お話は別室にて聞かせて頂きますので」

『@mgklsdfgnsdnl;al ,rkkmgf,d』


 長老の言っている言葉が地球上の言葉なのかそうではないのかの見当が全くつきません。


 つまり、何を言っているのか、さっぱり分からない!


「はい、今回もちゃんとお茶菓子、ご用意していますよ」

『bngjknfgj;s;d,fskgnuhjkndasnl;』


 先生にはどうやら通じているらしく、二人、長老を人として数えても良いものか悩みますが、SPクラスから出て行きました。


 それにしても、三琴君。


「なんだ?」


 亀山先生の敬語を言っているところって初めて見ませんでしたか?


「そういえば、そうだな」



【次回予告!】

謎の長老登場で物語が動く!?

長老の目的や如何に!

次回もでりんぐ!!第12工程をDon't miss it!

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