第9工程 「敵が多すぎてキリがねぇ!」

 三琴君とクラップス星人。睨み合う両者。

 息さえ出来ないほどの緊迫感に包まれています。


「どこからでもかかって来いよ、相手になってやる」


 三琴君はぎゅっと三叉槍を握り、相手の出方を伺います。


「菜音はさっさと逃げるんだ。此処からだと、第2シェルターが近い」

「でも、それじゃ、三琴君が……」


 三琴君を心配して、なかなか、足が踏み出せない菜音さん。そんな彼女に、三琴君はニカっと笑って見せます。


「俺なら大丈夫だから、な?」

「う、うん。助けてくれて本当にありがとう。三琴くんも気をつけてね」


 菜音さんはそう言って立ち去ります。クラップス星人がそれに気づき、彼女を追いかけようとしますが、三琴君がそれを妨害します。


「おっとぉ。お前らの相手は俺だよ」


 そういうと、槍をブンブンと振り回し、クラップス星人をけん制する三琴君。

 いきなりの攻撃に、相手も後ろに下がり、銃らしき武器を構えました。

 そして、三琴君に向けて、銃弾が発射されます。


「甘いな」


 三琴君は、槍をブンブンと振り回し、発射された銃弾を跳ね返します。

 その光景に、クラップス星人は驚いて、仲間同士で見詰め合っている様子。その後も、何度かクラップス星人の攻撃がありますが、先ほど見事に弾かれた攻撃が、三琴君本人に当たるわけが無く、全て弾かれてしまいます。

 弾切れになった彼らは、銃器を捨て、懐から剣らしき武器を取り出し、三琴君に向けて突撃してきました。


「かかったな!」


 すると、三琴君の持っていた槍がなんと、伸びた!

 予想不能な動きで伸びていく槍は、次々とクラップス星人を投げ飛ばしていきます。


 それにしても、槍の扱いや戦闘技術を見る限り、戦いに慣れているような印象を受けるのですが、三琴君ってサバゲや格闘ゲームとかしていたんですか?


「いや。一時期、時代劇を見ることが家族の中で流行ってて、殺陣を見よう見真似でやっていたことくらいだな」


 敵をバッサバサとなぎ倒しながら、三琴君は答えます。

 見よう見真似でここまでとは……。これが俗に言う、“ハイスペック男子”というものですか。恐ろしいですねぇ。


「まだまだぁ!」


 三琴君の叫び声で、再び槍が伸び、次々と敵を吹き飛ばしていきますが、敵も倒される度に数が増えてきて、なかなか終わる気配がありません。


 三琴君も次第に息が切れていて、動きも機敏さがなくなってきた様子。


 そろそろ、司令室の方へ戻ったほうがいい頃合いかもしれませんね。菜音さんを逃がすというミッションは無事達成出来たわけですし。


「そうだな、しかし、逃げられるものなら……な」


 息も絶え絶えの三琴君が、逃げ道を確保しようと辺りを見回りますが、クラップス星人はあちらこちらから湧いて出てきているので、逃げ道がなかなか見つかりません。


 むしろ、三琴君、お前は完全に包囲されている。的な状態ですね。今現在。


「そんな、呑気なことを言っていないで、夏水も何か打開策を提案しろよ」


 えー。だって僕、ただの語り部ですよ? 台本どおりにしか動けない、この中では恐らく最弱の人間です。そんな僕に一体何が出来るっていうんですか。


「その台本とやらには、何か書いていたりしないのか?」


 書いてないですよ、そんなものは。第一、この台本は、その間近にならないと、何が起こるのか、語り部の僕にでも分からないという不親切な特殊設計の台本なのです。


「使えない台本だなぁ。あーもう! 敵が多すぎてキリがねぇ!」


 三琴君が半ギレになりながらも、敵と対峙していきますが、ついに体力の限界に達しました。

 槍に全体重をかけ、ゼェゼェと肩で息をしながら、へたり込んでしまいました。

 三琴君が疲れきったところを見計らって、敵は、チャンスだとばかりに、再び銃器に持ち替え、こちらに向けてきます。


 このままでは、三琴君が蜂の巣にされてしまいます!


 そんな気がして、僕は台本で目を覆った、その時です。


「ルーキーにしてはよく頑張ったな! 後は任せて走れ!」


 亀山先生の声が頭上でしたかと思えば、上の方から黒い物体、否、あれはクレポンが入ったカプセルですね、それらが三つ落下してきます。

 そのカプセルが生まれたのは、体長三メートルほどの三体の埴輪……、


 ん? 埴輪!?

 

僕は、その埴輪たちに目を奪われてしまいました。


「夏水、奴らが埴輪に気を取られている内に逃げるぞ!」


 三琴君は司令室のほうへと走っていきます。一方の埴輪はポカンと開いた口からレーザービームを放って、クラップス星人を溶かしていきます。

 このえげつなさ、きっと宮前妹の作品でしょうねぇ。そう思いますよねぇ? 三琴く……あれ?

 僕が埴輪に気を取られていると、そこに三琴君の姿はありませんでした。走るのも早いですねぇ。僕が目を話したのはほんの数分ぐらいだったのに。

 ここは埴輪さん達に任せて、僕も、三琴君のところへ行くとしましょう。


「はぁ。疲れた」


 部室へと続く廊下。そこで三琴君はため息をつきました。

 それにしても、凄かったですよ。あんなに、敵をバンバンなぎ倒せて行くだなんて。


「無我夢中だったからなぁ。それに」


 それに、なんですか?


「こうして自分の作った作品で地球を守るっていうのが、なんだかいい気分になったような気がしてきたし」


 おぉ! 心境の変化ですか? 素晴らしいことです。

 そんな事を言ってくださると、僕もなんだか嬉しいです。さぁ、司令室へと帰りましょう。


「そうだな」


 こうして、三琴君の初陣は無事成功したのでありました。




【次回予告!】

無事に初陣を勝利で飾った三琴君。

先生と約束したパンダだらけの作業スペースがいよいよ公開!?

いよいよ三琴君のモデリング部生活が始まりそうな予感!

もでりんぐ!!第10工程をお見逃し無く!?

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