第8工程 「彼女を助けたいと思うのなら覚悟を決めるんだな!」

 三琴君はクレポンを掴んで、空いている椅子に腰掛けました。

 それにしても、珍しいですね、三琴君がこんなにもやる気になるだなんて。


「アイツには、中学校の時に、ジャイアントパンダの等身大ぬいぐるみを誕生日プレゼントとしてもらった恩があるからな」


 あ、やっぱりパンダ絡みなんですね。そこらへんは歪み無い三琴君は、手際よくクレポンをこねていきます。


 すると、始めは20センチ角だったクレポンが徐々に大きくなっていきます。まるでパン生地のように柔らかくなったものを、三琴君はなにやら棒状に形成していきます。

 この形、もしかして槍ですかね?


「出来た」


 三琴君が作ったのは、先端が三つに分かれた三叉槍さんさそう。まるで神話に出てきそうなフォルムの武器です。


「いちいち物体を作る余裕は無いから、コレくらいでいいだろ」


 三琴君は槍をブンッと振り回します。いつの間にかクレポンは固まっていて、しっかりとした作りの槍が出来上がりました。



 コレがクレポンの凄いところで、初期段階のクレポンは20センチ角の物体なのですが、こねて空気を入れることで何十倍も大きくなり、好きな大きさに調整することが出来ます。そして形成が終わって、水を数滴かけると、数秒で瞬時に固まります。



 おっと、。三琴君、僕がクレポンの機能を説明している中で、そんなに振り回したら危ないですって。当たったら、宮前兄の棒人間が如く、スパッと切れちゃいそうです。


「さて、行くぞ」

「ちょっと、待った」


 槍を構えて司令室を出ようとした三琴君を、亀山先生が引き止めます。


「戦うなら、この入部届けにサインしろ」


 先生はまた入部届けを三琴君に突きつけます。


「今はそんな悠長なこと言っている場合ですか。人命が最優先なんだぞ」

「最優先だからこそだ。現段階で正式に入部していないお前が、彼女を助けることに失敗した場合。モデリング部は一切責任を負うことが出来ない。山吹一人で、その責任を負わないといけないんだぞ」


 先生は、すうっと息を吸い込んだ。


「つべこべ言わずサインをしろ! 彼女を助けたいと思うのなら覚悟を決めるんだな!」

「っ……」


 亀山先生の剣幕に、三琴君はたじろぎます。

 確かに、一人で無謀に突っ込んで自爆しても、今の状態だと三琴君一人で全責任を負わないといけない感じですねぇ。ここは、入部届けにサインして、モデリング部の一員として戦ったほうが、負う責任は最小で済むと思いますよ。


「チッ。分かったよ、サインすればいいんだな。ただし、条件がある」

「なんだ? あー、コレが終わったら直ぐ退部するという相談なら……」

「俺の作業スペースをパンダグッズで埋め尽くしておくことが条件だ、それなら、今後もモデリング部の活動に参加してやる」

「は?」


 三琴君、そっちの相談なんかーい! あまりにも唐突な要求で、先生はポカンと口をあけたまま、口が戻らなくなってしまったじゃないですか!

 あれ、もしかして、三琴君。クレポンを触って、再び、造形の楽しさに目覚めちゃったんじゃないですか?


 僕の指摘に、三琴君はそっぽを向いて耳を赤くします。あ。図星ですね、これは。


「プッ。分かった。お前が腰を抜かすくらいのパンダグッズを作業スペースに配置しようじゃないか」


 先生は吹き出しながらも、三琴君の条件をのむと、三琴君は先生から入部届けをぶん取り、サラサラと自分の名前を書いて、先生に手渡す。

 この間わずか5秒。さすが、パンダに関するとなると行動が早い。あ、いや、今は人命が関わっていましたね。急いで当たり前です。


「山吹、コレを耳の上に付けろ」


 いざ、菜音さんを助けに行こうとドアノブに手をかけたところで、亀山先生が何やらヘッドセットみたいな機器を三琴君に向けて投げます。


「これは?」


 三琴君は貰った機器をクルクルと見回しながら訊ねます。


「クレポンのコントローラーだ。脳波を検知することで自由自在に動くぞ」

「じゃあ、あそこで必死にコマンド入力しているのは?」

「アレは、それっぽい雰囲気をかもし出すためのフェイクだ。通常は、念じるだけで動く」


 そう、クレポンのコントロールは脳波に同調して動いちゃうのです。

 でも、やっぱり、コマンド入力とか男のロマンですよねぇ。ついついやっちゃいますよねぇ。


「いや、そのロマンは全く理解出来ない」


 そう言いつつ、三琴君はコントローラーを耳の上へと装着します。

 すると、先ほどまで無地だった三叉槍に見る見るうちに色が付いていくはありませんか。

 これも、クレポンの機能の一つで、コントローラーを装着した瞬間、作ったクレポンに想像通りの色が付くのです。これで、見た目もかっこよくなりました。


 さぁ、菜音さんを助けに行きましょう、三琴君。


「言われなくても、分かってる」


 三琴君は、司令室から意気揚々と飛び出していきました。


「ルーキーの戦いが、どんな戦いか見せてもらおうかね」


 先生はそう言って、司令室のモニターに注目していました。




「来ないでよ。一体、何者なのよアナタたち」


 モデリング部部室から50メートルほど離れた渡り廊下。菜音さんは、クラップス星人に武器を構えられ、ズリズリと後ろに下がっていきます。

 しかし、背中に硬い感触が当たります。なんと、背後は行き止まりだったのです。


「嘘っ」


 逃げることも出来ない絶体絶命の大ピンチ。菜音さんは、どうすることも出来ず、ぎゅっと目をつぶります。


 その時です。


「待て!」


 三琴君が菜音さんのもとへと駆けつけます。間に合ってよかった。


「えっ、三琴君。何で、ここに。それに、その武器は……」


 突然の三琴君の登場に、菜音さんは目を丸くします。


「俺がこいつらを引き止める。菜音は早く逃げるんだ」


 三琴君は先ほど作った三叉槍をクラップス星人に向けて突きつけます。


「さぁ、来いよ。俺が残らず倒してやる」


 三琴君は不敵な笑みを浮かべました。





【次回予告!】

いよいよ、三琴君VSクラップス星人の戦いが開戦。

高度な文明を持ったクラップス星人に、ほぼ生身の三琴君はどんな戦闘をするのか。

また、亀山先生はちゃんと約束通りにパンダだらけの作業スペースを用意してくれるのか。

次回もでりんぐ!!第9工程をお楽しみにー。

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