第4工程 「間違いなく俺のストライクゾーンだな」

「はぁ、やっと抜け出せた」


 三琴君はぜぇぜぇと息切れをしながら、自分の教室である特進SPクラス、略して特Sクラスに辿り着きました。

 なんと、三琴君は文武両道の才能溢れる特別な生徒だったのです!

 パンダに対する歪んだ愛情が玉に瑕ですけど。


「歪んだとは失礼な。というか、よく追いついたな。部室から此処まで結構あるのに」


 そこらへんは演劇でよくある唯の場面転換と考えて頂ければいいですかね。三琴君はダッシュで結構な距離を走ったかもしれませんが、物語の外にいる僕はパッと場面が変わっただけなので。


「そっちの方が便利じゃねぇか。まぁいいか」


 そう言って三琴君は特Sクラスの扉を開けました。


「あー、朝から疲れた」


 髪をボサボサにしてゲッソリとした様子の三琴君は自分の机の横に鞄を掛けるや否や、机にグッタリとうつ伏せになります。


「みこちゃんおはよう。とは言っても、もう三限が始まりそうなんだけど。いいよなぁ、モデリング部って、何もかも免除なんだから」


 三琴君の前の席に座っている男子生徒が、三琴君の旋毛を人差し指でツンツンと突きながら話しかけます。


 そうなのです。モデリング部は、部活動であり、国家プロジェクトでもあるので、学園から様々のことが免除されています。例えばですが、今朝の様に、いきなり亀山先生に部室へ強制連行されて、授業へ遅刻したとしても、内申点は悪くならないのです。

 プロジェクトなのです。


 おっと、三琴君にスキンシップをしている男子生徒の名前の紹介を忘れていました。彼の名前は新咲渉にいざき わたる君。三琴君と同じ特Sクラス在籍で、三琴君とは幼稚部からの付き合いという大の仲良しさんでございます。


 その証拠に、三琴君のことを『みこちゃん』と、クラスの誰一人、この僕でさえも恐ろしくて呼べない愛称で呼んでおります。


「渉。俺のこといい加減、みこちゃんって呼ぶのを止めろと言っているだろ? 小学生の時までならまだしも、高校生男子にその呼び方はイタいぞ」

「いいじゃん、呼びやすいし。この方が愛嬌あっていいだろ? みこちゃんが女の子なら間違いなく俺のストライクゾーンだな。髪の長い女の子大好きなんだぁ」

「は? さらっと何言ってるの? 俺がもし女だったとしても、お前とは出会いたくもないし、付き合わない。あと、お前の好物なんて知るか」


 三琴君の氷のような一撃が渉少年にジャストミート! 恐らく、七コンボくらい攻撃食らいましたね。痛そう。


「ひっどー。俺みたいな運動神経も良くて、且つ、成績優秀でイケメンな男って人生の中でなかなか出会わないと思うぜ? 機会を逃すと今生逢えないぞ」


 渉少年は三琴君に向けてウインクをします。ゾクッと寒気をするほどの殺傷能力です。


「そんなことより、例のブツは持ってきたかね? 俺の子猫ちゃん」


 渉少年は、前髪をふぁさっとかき上げ、三琴君に向けて手を差し伸べました。どうやら何かを要求しているようですね。


「何が成績優秀でイケメンだ。成績優秀者が他人の宿題を写させてくれとは頼まないぞ、普通は。ほれよ、昨日の生物の宿題と数学のワークだ。有難く受け取ることだな」


 三琴君が出したのは、高校数学Aのワークと右下にシルクハットを被っているパンダが描かれているノート。その表紙には生物と書かれてあります。


「そんなツッコミはノーサンキューさ。でも、この宿題は俺のトレスの匠と称されるレベルの模写技術で有難く写させてもらおうじゃないか。持つべき者は“友”とかいて優秀な助手だよね。ねぇ、みこちゃん」


 渉少年は三琴君に無邪気な笑顔を振りまきます。一方の三琴君からは禍々しい殺気。こっ、これは、見ている方にお見せできない程の顔をしているぞ。主人公のする顔じゃない!

 その殺気に満ち溢れた三琴君から、なんと、右ストレートが放たれたぁ! 抉りこむように打ち込まれたパンチが渉少年の右頬に命中。

 そのパンチを受け、スローモーションで渉少年の顔が歪んでいくー!


「渉よ、ツッコミしたい箇所が多すぎる。あと、殴っていいか? 思いっきり」

「……殴ってから言わないで下さい。あと、すいませんでした」


 渉少年は机に仰け反るような格好で倒れました。

 プロレスの実況では、ここでゴングが鳴り響きそうな感じです。

 はーい、試合しゅーーりょーーーーー!!



【次回予告!】

 試合終了のゴングが鳴り響き、燃え尽きて倒れる渉少年。

 その彼の姿に三琴君は何を見出すのか。

 え? 関係ない?

 突如、教室に謎の音が響き渡る。

 一体何が起ころうとしているのか!?

 もでりんぐ!!第5工程。ご期待ください。

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