第43工程 「15分か、インドアの夏水にしては十分だな」

 部屋一面に埋め尽くすコンピューター群。機械的な音が響いてはいますが、この部屋の中には人の気配はしませんね。

 本当にボスがココに居るのですか?


「えぇ、もちろん居るわ。ここに。ちゃんと見えているじゃない」


 彼女はクスクスと笑いながら部屋中をフラフラと歩き回ります。


「それは一体どういうことだ、あ、……もしかして!」


 三琴君は一つの答えに辿りついたようです。

 僕も三琴君と同じ答えにたどり着いたハズなのですが、そんなまさか……。

 クラップス星人のボスは


「ごめいとーう。私達クラップス星人のボスであり、父はこのコンピューターなの。私達の革新的な技術発展も侵略計画もこのコンピューター、TRICYの演算ですべて実行しているのよ」


 TRICY……、んー……、何処かでその名前を聞いたことがあるのですが。


「夏水、何か知っているのか?」


 知っているような知らないような、喉まで出かかっているのですが、きっと何処かで見たことがあるんですよ、僕が名前を覚えているような気がするのは……。


「まぁ、忘れ去られたモノに対する反応はそんなものよね?」


 彼女はそう言って、そのコンピューターの中心部分らしきところへと近づきます。

 忘れ去られたモノ? その言葉の意味は?


『我は、捨てられた存在』


 いきなりその中心部分から機械的な低音ボイスが聞こえました。というか、コンピューターが喋った!?


「今、喋るロボットも主流の時代に何を驚いているんだ、夏水」


 いや、それはそうなんですが、こんなに古い型のコンピューターが喋るだなんて思いもしな……あー!!


「うわっ、ビックリした。何か思い出したのか?」


 古い型っていうので、思い出しました。TRICY計画のこと!


「と、TRICY計画? なんだそれ」


 僕らが生まれる30年も前のことです。とある国が人工知能、つまりはAIを搭載したコンピューターを宇宙に飛ばしたんです。

 計画の目的は太陽系以外の惑星の発見と、その惑星の生物の有無について宇宙を漂いつつ観測をし続けること。当時は今後の宇宙産業に素晴らしい功績を残せることが出来るとして注目を浴びていたようです。

 しかし、その計画は資金難に陥り、コンピューターを発射してから1年後、途中で放棄されることになったのです。

 その結果、飛ばされた人工知能TRICYの消息もそれから分からないままになっていたのですが、まさかクラップス星人の手に渡っていただなんて。


「ここからは昔話でもしましょうかねぇ? ある日、私達の星に大きい塊が降って来た。その塊は星に根を張り、私達に文明というものを与えた。元々、知能指数の高かった私達は空からの来訪者から教えられた文明に順応し発展していった」


 つまり、クラップス星にTRICYが乗った宇宙船が墜落して、クラップス星人たちに文明を与えた結果、クラップス星人達は高い技術力を手に入れることが出来たということですか。


「一体、なんでそんな事になったんだ。TRICYは宇宙の観測が目的のはずなんだろ?」


『これは我の地球に対する復讐である』

「復讐?」

『お前たちは自分達の都合で自我を持った我を生み出し、そしてまた自分達の都合で我を捨てたのだ。ソレに対する復讐。その為にコツコツと準備を進めていったのだ』


 コンピューターが人間に復讐ですか。これだから、中途半端に自我を芽生えさせたAIなんて作ると面倒くさいんですよ。いつか、AIから。

 それにしても、三琴君。これはまさかまさかの展開ですね。


「あぁ、そうだな」


 まさか人間が生み出したものが、こうして回りまわって地球を攻めてくるだなんてね。


 これは、一段と面倒くさいことになりましたね。こんなことを作り出した当事者達は今すぐジャパニーズDOGEZAして欲しいくらいです全く。


「そうだな」

「あらあら、そんなに悠長に構えていてもいいのかな? ここから凄いっていうのに」


 彼女はクスクス笑ったまま、TRICYの操作盤を操作し始めました。

 あ。ここに連れてきたのはまさか罠だったのでは?


「菜音。何をする気だ」


 三琴君は性悪女のもとへ駆け寄ろうとしますが、途中、なにやら見えない壁のようなものが三琴君と彼女の間に出現し、三琴君は彼女のところへ行くことが出来ません。


「クラップス星人なりの最後の足掻きってやつね。それじゃ、二人とも……」


 そういう彼女の後ろに黒い何かが迫っていました。


「バイバイ」

「え……」


 あ……。

 彼女は別れの言葉を告げた瞬間、黒いモノに飲み込まれていきました。

 そして、彼女を飲み込んだ黒いモノが更にこっち向かってきます!


「避けるぞ、夏水!」


 僕と三琴君は二手に分かれて黒い影から逃げます。迫ってくる瞬間かすかに見えたのは、これは……コード?

 つまりは、TRICY自ら攻撃を行っているってことですか!

 ってか、今度はあちらも二手に分かれてコードが延びてきているじゃないですか! ヒィ!


「クラップス星人も結構無茶苦茶なことをするな。これはその人工知能さんを破壊するしかないな」


 そうですね。っと、でも結構この部屋広いですし攻撃したら弾かれそうですし、どうしますか。うわっ、あぶねっ。


「夏水、体力は持ちそうか?」


 え、僕ですか。んー……、こんなに追いかけられてはもって15分くらいが限度ってところですかね。


「15分か、インドアの夏水にしては十分だな」

 ちょっ、それ、どういう意味ですか! おっとっと。答え次第では名誉毀損で訴えかねませんよ! うわっ。もう、コードがしつこい!


「フフッ。冷静な語り部が台無しだな。さて、最終決戦と行こうか!」


 そう言って三琴君は楽しそうに、TRICYに向かって走りだしたのでした。

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