第42工程 「あーあ。折角君たちとは地球を征服しても仲良くできると思ったのになぁー」


「今一番遭遇したくない奴に出会ってしまったな、菜音」


 通路で出会った彼女に、三琴君は睨みをきかせます。


「何? 今度は大人しく仲間にして欲しくて投降してきたって言う訳?」


 性悪女も彼女らしく、いつもの口ぶりで応戦する。

 投降だって? 冗談はやめて下さい。僕達は貴方たちを倒しにきたのですから!


「へぇ? まだ、私達の計画の邪魔をしようとしているのかな?」


 そうです。貴方たちの野望は食い止めてみせる! 僕と三琴君の二人で。


「フッ、二人揃って救世主ごっこだなんて随分と滑稽ね。そんなことはさせないわ」


 性悪女が指を鳴らすと、クラップス星人の手下どもがぞろぞろと僕達の前に現れました。

 三琴君、例の使い方はまだ覚えてますよね?


「おう。大丈夫だ」

「何を二人で内緒話をしているのかな? ここで無残に散りなさい」


 彼女は手下どもに指示をすると、一斉にクラップス星人達は僕達に向かって攻撃を始める。

 三琴君。いきますよ!


「あいさ!」


 僕と三琴君は敵に向かって走り出します。


「これが、俺と夏水の連携プレーってやつだ!」


 三琴君は握り締めていた右手を敵に向けて振り下ろすと、次の瞬間、

 クラップス星人の手下が3体ほど、スパッと斬られているじゃないですか!


「なっ」


 その様子を見た性悪女は、今起きた出来事を把握できずに目を見開きました。


「今、何が起きたって言うのよ!」


 彼女の動揺した顔に、三琴君がニヤリと笑います。


「クラップス星人にとびっきりのマジックを披露してやっているんだよ」


 三琴君はさらに敵の中へと駆け込んでいく。そして縦横無尽に腕を振り回し、敵をバッサバサとなぎ払っていくのである。まるで、戦国時代の武将のように。

 いけそこだ三琴君! やってしまえー!


「夏水。俺の応援もいいけど、自分の身は自分で守れよ?」


 はいはい、わかってますよっと。

 といっても僕は、三琴君がなぎ払った敵達を自分の身に当たらないように、懸命に避けるくらいしか出来ませんがね。


「なんなのよ! 一体全体何がどうなって……」


 用意した手下達が皆倒されて、彼女の顔がドンドン青くなっていくのが分かりますね。

 三琴君、そろそろネタばらししちゃいますか?


「えー、もうバラすのか? 折角、マジックを堪能してたというのに」


 三琴君はすごく残念そうな顔。

 性悪女もあんなに目を白黒させている姿を見られたんですから、もういいでしょう。


「それもそうだな。さっきの手品のタネをコレだよ」


 そう言って三琴君は彼女に握っていた右手を広げて見せます。

 そこにあったのは僕が三琴君に渡した、例の10センチ角のクレポンでした。


「このクレポンは願えばその通りになる、最強のクレポンだ」


 三琴君はドヤ顔で性悪女にマジックのタネを説明しました。

 さぁて、ここからは僕が解説しましょう!

 このクレポンは僕が開発した最初にして恐らく最後の最高傑作!

 その名も、【CL―PONマーク2】!


「ネーミングセンスダサいな」


 うっ。そんなこと言わないで下さい。

 話はもどして、このクレポンはわざわざ造形の作業をしなくても、脳内で思い描くだけで造形・色塗り・動きまで出来てしまうという夢のクレポンなのです!

 そして、僕があの人にも貴女にも隠し通していたモノですよ。貴女にくれてやったのはダミーです。


「よくも人質が捕まっているというのに、ダミーをつかませてくれたわね。人質の命がどうなってもいいってわけね?」


 そんなの貴女とここに居るであろうボスを倒して、助けにいくのみです!

 いきますよ、三琴君!


「おう、夏水!」


 僕達二人は彼女へ向かって走ります。

 彼女はなにやら端末のボタンを押しました。すると、通路の下から壁がせりあがってくるではありませんか!


「壁なんて、こうだ!」


 三琴君はクレポンで透明な鞭を作り出し、スパスパと飛び出る壁を切っていきます。


「おー、こわい」


 彼女はすこし焦りの表情をしながら、身軽に飛びながら後ろへ引いて行きます。

 逃がしませんよ。今度は貴女が追い込まれる番です。

 三琴君。彼女の動きを封じましょう!


「あいよっと」


 ぴょんぴょんと飛ぶ彼女の背後に向けて、三琴君はクレポンで鎖と作り、彼女を拘束します。


「あら、捕まっちゃった」


 彼女は捕まったのにも関わらず、逃げる様子はなく、大人しくしていました。


「無駄な抵抗はやめるんだな。菜音、いや、クラップス星人」

「もう、三琴君は私の名前を呼んでくれないのね?」


 彼女は少し寂しそうな表情をします。


「当たり前だろ? 俺達はお前に酷いことをされたからな」

「それもこれも全ては命令だからね。仕方ない、私達のボスのところへ案内してあげる」


 その言葉、本当でしょうね?


「えぇ、本当。君たちの戦いに完敗した私が捕虜としてボスのところへ案内する。そんなシナリオでいいんじゃないかしら?」


 それが語り部の夏水君らしくていいんじゃない? と彼女はそう笑った。

 彼女はそういうと、鎖に巻き取られたまま何処かへと歩みを進めます。

 三琴君。何が起こるか分かりませんが、ついて行きましょう。


「そうだな」


 三琴君も頷き、彼女についていきます。


「あーあ。折角君たちとは地球を征服しても仲良くできると思ったのになぁー」


 道中、彼女は残念そうに呟きます。

 仲良く出来る訳ないでしょう。貴女はこの地球の敵なんですから。


「敵だから、仲良く出来なくなのものなの? 味方だからって全部が友達恋人っていうのもありえないでしょ?」


 うっ。それは……。


「お前は何を言いたいんだ?」

「……。こうして長い間地球に住んでたら、やっぱり情は移るものなんだよ。だから、こうして私達がこの地球を掌握したあとも、良い友達で居たかったってことだけ。でも、もう遅いんだよね」

「あぁ、遅いな」


「……」

「……」


 重い、重いぞこの空気は! 聞こえるのは僕の声だけじゃないですか!

 貴女も懺悔するくらいなら、最初からこんなことをしないでいただきたかった!


「命令だから仕方ないよ。ボスの演算プログラムには誰にも逆らえない」


 ……? なんで演算なんですか、それじゃまるで、貴女方のボスは……。


「さ、着いたよ」


 いかにもボスが居そうな扉の前で彼女が歩みを止めます。


「さぁ、ボスのごたいめーん」


 彼女が指を鳴らして重そうな扉を開けると、そこには。



 重厚そうなコンピューター達が部屋一面に密集していた。

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