第44工程 もしかして逆鱗に触れちゃいましたかね、僕?
「夏水、15分耐えろよ。俺は、こっちで忙しくなるからな」
三琴君はそういうと、クレポンを持っている右手を黒い影に向かって振りかぶります。
手の中から飛び出てきたのは……。
あー、やっぱり三琴君らしいですね。何十体ものパンダの軍団です。しかもパンダたちは大剣を装備しているようです。
「実況もいいけど、周囲には気をつけろよ」
大丈夫ですって。段々動きのパターンが読めてきたので、避けやすく……。
ヒュン。
ヒィッ。いきなり変則的な動きでコードが迫ってきたと思うと、僕の左頬を掠めました。
「言ったそばから」
し、仕方ないことですよ。油断は誰にだってあるのです。
先ほどの攻撃で頬を切ってしまったようですね。流血の勢いが凄いです。
「大丈夫か?」
大丈夫です。元々顔の部分は毛細血管が集中しているので、血が結構出てくるものですから。
「なら、いい。気を抜くなよ、夏水」
そういうと三琴君は更にTRICYに向かって走り出します。
三琴君に向かってくる黒いコードはすべて、パンダ達が木っ端微塵に切り刻んでいきます。
『何故、我の復讐の邪魔をするんだ』
TRICYは攻撃の手を緩めることはなく、更に僕達に問いかけてきました。
「そんなの決まっている」
三琴君は束になって襲い掛かってくるコード達をバク宙で交わします。それはもう、アイドル級の綺麗さでしたね。ポニーテールも華麗になびいていましたし。
「お前の個人的な復讐で、勝手に地球を掌握されちゃ困るんでね」
そうだそうだ!
「パンダを大繁殖してくれるのなら、掌握するのを賛成するがな」
そうだそうだ! ……ん? いや、ソレはダメですって三琴君。
ええっと、TRICY。貴方の復讐っていうのは成し遂げられたとしても無意味だと思いますよ? 貴方は今や人間の英知の結晶として生み出された偉大な人工知能としてではなく、唯の宇宙からの襲来者としての扱いです。更に煙たがれる存在と成り果てているのです。
自らの運命を恨んでいるのなら、こんな馬鹿げた計画なんて白紙にして、他の方法を……、
『お前らに何が分かるというのだ!』
耳を劈くような大音量のTRICYの音声が流れたかと思うと攻撃がさらに激しくなり、しかも、で、電流まで流れていらっしゃる?
もしかして逆鱗に触れちゃいましたかね、僕?
「あーあ。やっちまったな」
ど、どうしましょう三琴君。僕の残る体力は僅かなので、コレがもし避けられなかったらお陀仏ってやつですかね?
「だろうな。でも、逆にこれはチャンスかもしれないぞ」
チャンス? それは一体どういうことですか?
僕の疑問に三琴君はTRICYの中心部分を指します。どうやら、AIが怒りに任せて上手く制御が出来てないようで、画面には多数のエラーが表示されていました。
つまりは、TRICY自体が上手く自身をコントロールできてないということ。
「今、中心を叩けば倒せるはずだ。あ、そうだ夏水」
はい、なんでしょう?
「例の赤い点線出せるか?」
え、あの点線ですか? まぁ、一応出せますけど。どうするんですか?
「点線を出現させた状態で、中心に突っ込む」
そう言って、三琴君はニヤリと笑います。
えぇっ。アレはシールドという意味合いで使っている訳じゃないんですけど。それに、クラップス星人には効果なかったので、TRICYにも効かないかもしれませんよ?
「やってみなきゃ分からないさ。ホラ」
三琴君はそう言って僕に向けて手を差し出しました。
手を繋いで突撃ですか? 何かヒーローとヒロインの最終局面的な構図で恥ずかしいんですけども。
「いいから、行くぞ」
有無を言わせず、三琴君は僕の手首を掴みました。
仕方ないですね。こうなったら一か八かです。やってみましょう。
僕は前方に赤い点線を出現させます。これで、一般的な干渉は出来ないはずです。
「ところで、この点線の仕組みは一体なんだ?」
ソレを訊くのは野暮って言うやつですよ。少しくらい、夢のあるモノは夢のままでもいいでしょう。
「なんだよ、ソレ。まぁ、いいか。行くぞ」
そう言うと、三琴君は僕の手首を掴んだまま全速力でTRICYへと突っ込んでいきます。
は、早い早い! 三琴君早すぎます! ギャー!
黒い物体が前方から向かってきますが、点線から先は攻撃出来ない様で僕らを避けるようにコードは二手に分かれました。
どうやら、三琴君の読みは当たっていたようですね。
さて、全力で駆け抜けてTRICYの中心へと辿りつきかけたときに、
「今だ夏水。解除しろ」
三琴君の合図をともに、僕は点線を消滅させます。
次の瞬間、三琴君はあちらこちらに散らばって戦っていたパンダ達を右手に集結させ、パンダたちが持っていたような大剣と作り上げました。
「お前の復讐も、コレで終わりだ!」
そう叫ぶと三琴君はスパッとTRICYの中央部分を一刀両断しました。
TRICYはブツンという音とともに攻撃を止め、辺りは静寂に包まれました。
お、終わった?
「コンピューターも動いていない様子だから、そのようだな」
や、やった……。
僕は安堵により、一気に体の力が抜けてその場へへたりこみます。
「おいおい、俺の方が頑張ったっていうのに、お前が腰を抜かすのかよ」
そういわれましても三琴君。僕だって僕なりに頑張ったんですよ。そこを褒めてほしいくらいです!
腰を抜かしつつプンプンと怒る僕の隣に三琴君は座り、僕の頭を撫でました。
「はいはい、夏水にしてはよく出来ましたよっと」
“僕にしては”というのは余計ですよ、全く。
それにしても、ボスを叩いたですから流石に終わりですよね?
「さあ? どうだろうな。もしかしたら2周目からしか出てこない隠しボスという存在も居たりして」
三琴君、怖いこと言わないで下さいよ。僕のシナリオからは既に外れているのですから、何が起きたって不思議じゃないのですから。
「まぁ、終わりってことでいいんじゃないか? ボスを叩いたってのに、クラップス星人がココに戻ってきていないところを見ると」
それもそうですね。これで、地球は救われたってことになりますね!
「実感ないけどな」
確かにそうですね。まぁ、これが僕らの物語らしいってことでいいんじゃないでしょうか。
ということで、僕の役割はこれで終わりってことになりますね。
「やっぱり戦いが終わったら戻るんだな」
はい。言ったことはちゃんと実行させないといけないですからね。
三琴君、本当にありがとうございました。君が居なかったら僕、あのまま閉じ篭っていたままだったかもしれません。本当に感謝しきれないくらいです。
「別に、俺は特に何をしたわけでもないからな。それに、まだ仕事が残っているぞ」
ん? まだ、何かありましたっけ?
「人質、探しに行くんじゃないのか?」
あ、そうでした。ボスを倒した感動に酔いしれてて、すっかり忘れてました。
「いいのかそれで」
あの人は、あー見えても強い人ですし、少し危険に晒されても多少は大丈夫でしょう、多少は。
それでもいい加減探さないと怒られかねないので、三琴君お手伝いお願いできますか?
「あいよ。ついでに出口を探さないといけないからな」
そう言って僕達は立ち上がると、この部屋を出て行くのでありました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます