第40工程 『5分と言わず、3分で仕上げてやる』
さぁ、この夏水聡、長い充電期間を経て戻ってまいりました!
いやはや、重大な人物としてこのまま語り部業を隠居しようと思ったのですが、三琴君にどうしてもと言われればやらない奴が居るでしょうか? いや、居ない!
ここは僕の精一杯の実況魂を結集させて、クラップス星人との戦いを実況させてみせようじゃないですか!
「途端に元気になったな」
何を言っているんですか、三琴君。クレポンの生みの親の僕なんて、過去の僕なんです。今の僕は、三琴君を最大限に引き立てるために存在している陰の存在。それこそが僕のライフワークなのですよ。
僕の全身全霊を込めて当然じゃないですか!
「そ、そうか?」
おおっと、そんなことで臆してもらっては、この先が心配ですよ。いいですか? これからが奴らとの最終決戦です。三琴君、先ほど渡したクレポンでクラップス星人をギッタンギッタンのボコボコにしちゃってください。
そう。彼らが泣いても、僕は殴る手を止めない!
「……夏水も一週間の間に色々あったんだな」
色々ありましたとも。あんなにムカついたのは久々です。だから、絶対に倒しましょう。こんな、台本に無い茶番は終わらせてしまいましょう。
「台本で思い出したんだが、夏水」
はい。なんでしょう?
「その手に持っている台本、元から何も書いてなかったんだよな」
あ、やっぱり分かっちゃってました? まぁ、正体が分かれば当然のことですよね。
さぁて、僕の語り部の集大成というものを“最後”に見せてやろうじゃないですか。
「最後? 夏水、お前まさか」
えぇ、人間はやはり何処かで決着というものを着けなければならないと思うんですよ。
この戦いが終わったら、僕はあそこに戻ってやろうかと思ってます。
「その言葉を聞くと、何かフラグが立っているようにしか聞こえないのだが」
そんなフラグなんて叩き折ってやりますよ。三琴君が。
「俺が折るのかよ。まぁ、いいか。そろそろ行くぞ」
そうですね。僕の計算が正しかったらあと5分ほどで、クラップス星人が動かしているクレポンの弱体化が始まります。狙うならその時です。
「了解。それにしても、このクレポン。夏水が言うような機能があるのか?」
三琴君は先ほど僕が渡したクレポンを指で触りながら訊ねます。
そうですよ。僕があそこを脱走する前に出来た、唯一の成功作です。先にも後にも、それしか作る気はさらさら無いのですけどね。悪用されたら困りますし、最も、僕はクレポンを兵器利用として使って欲しくないですから。
「そんなのを俺が使っていいのか?」
信頼出来る三琴君だからいいんですよ。
僕が微笑むと、ちょっと照れくさそうに笑う三琴君。そんな中、三琴君のスマホに着信が入ります。発信相手は亀山先生。
「はい、山吹ですが」
『山吹、今何処にいる』
「今ですか、高等部の西棟校舎の端の教室に居ますが」
『OK、監視カメラで確認する……。よし、二人とも元気そうだな。戦闘に戻れそうか?』
三琴君、僕に電話を替わってください。僕に良い案があります。
「ん? ほい」
三琴君からスマホを受け取って、電話に出ます。
先生、夏水です。ご心配をおかけしました。
『お、夏水か。無事そうで良かった』
先生。僕が考えたナイスな案、聞きたくありませんか?
『ナイスな案? それはなんだ?』
ちょっと、塩原君をお借り出来ないかと思いまして。なぁに、ちょっと彼にクレポンを1体作って欲しいのですが。
『塩原にクレポンを? そんな無謀な……おっと、こらっ』
電話の先でバタバタと物音がした後、塩原君本人が出てきました。
『俺がクレポンを作っていいって良いのは本当か?』
えぇ、本当です。己の本気を試すときですよ! さぁ、塩原君のクレポンでクラップス星人をギャフンと言わせてください。5分で作ってくださいね。いいですか、制限時間は5分ですよ。
『うおー! やる気出てきた。待ってろ、5分と言わず、3分で仕上げてやる』
塩原君はそう言って、先生に電話を替わりました。
『いいのか? 塩原にやらせて』
いいんです。さて、本来の作戦は……。
僕は先生に作戦の内容を伝えました。
『ほう。塩原はそんな役割になるわけだな。アイツらしいっちゃアイツらしいが』
はい。最後は塩原君にも花をもたせてあげたいと言う、優しい語り部の心意気なのです。
「どこが優しいだよ、作戦は鬼じゃないか」
三琴君。それは言っては負けというお約束なのですよ。
「左様で」
『兎に角、作戦開始って訳だな。お前ら気をつけろよ? 必ず生きて部室へ帰って来い』
「了解」
了解です。
三琴君が電話を切り、教室の出入り口のほうを見ます。
「行くか」
そうですね。行きましょう。僕らのターゲットは例の性悪女とそのボスです。
「ボスの居場所は分かっているのか?」
いや、さっぱりです。
『ドサッ』
三琴君が壮大にコケて……、コレは実況を……。
「やらんでいい。ってか夏水と初めて会った時にもこんなやりとりあったな」
そういえばそうですね。懐かしいです。
「出会ったときは、何コイツ? とは思っていたけど、まさかこんなことになろうとはな」
そうですねー。思い返すと色んな思い出が蘇ってきますが、今は過去を振り返っている暇はありませんね。向くべきは僕らが勝つ未来のみです。
「そうだな。奴らの親玉はきっと戦ってたら出てくることだろうし、乗り込みますか!」
いざ、参りましょう! クラップス星人の本陣へ。
【次回予告】
僕たちはクラップス星人の本陣へと乗り込みます。
その道中に見た、塩原君にクレポンに絶句。
果たして、そのクレポンとは一体!?
次回もでりんぐ!!第41工程をチェケラ!!
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