仕上げ 形成で形勢逆転!? まだまだ行ける!

第39工程 「俺を選んでくれて、ありがとう」

「三琴君! 三琴君!」


 誰かが俺の名前を呼ぶ声がした気がした。

 そういえば、さっきまで俺は何をしていたんだっけ?

 そうだった。菜音に夏水が屋上から落とされて、俺はそれを追って落下して……。


「というか、夏水大丈夫か!」


 と、勢いよく俺が起き上がった瞬間。



 ゴチン。



「……っつー」

「いってー……」


 夏水の頭を思いっきり頭突きしてしまい、お互いに額を抑えて悶絶する。


「三琴君、結構な石頭ですね……。頭の中がガンガンしてますよ」

「そっちこそ、同じ様な感じだって……、え、おい!」


 俺はある点に気が付いて、額を押さえて悶絶している夏水の体をペチペチと叩く。


「どうしたんですか、急に」

「触れる……、夏水に触れられるぞ」


 夏水に初めて触れられた衝撃で、額の痛みが一瞬で飛んでしまった。


「赤い点線に閉じ篭ってないで出て来い、って言ったのは何処の誰ですか? それと、僕たち屋上から落ちたのに、よく助かったとか思わないんですか? いくら三琴君が主人公といえども、無敵な訳じゃないんですよ」


 夏水にそういわれて、確かにと頷いてしまった。

 4階建ての校舎から落ちたら、複雑骨折どころの騒ぎじゃ済まない筈だ。でも、俺達は擦り傷程度で済んでいるのだ。


「一体、どういうことだ?」

「三琴君、下を見てください。下」


 夏水が指で地面を指差す。俺が下を見ると、地面がもぞもぞと、う、動いた!?

 そして、つぶらな瞳がコチラを凝視して、


『ケモケモー!』


 と鳴いた。


「なっ、モケリス星人がなんでこんな所に。お前ら、星に帰ったはずじゃ……」


 あの後、部室を見学した後に星に帰ったはずなのに、なんでこんな所にいるんだ?


『実は、ちょっと寄り道してから星に帰ろうとしたのですが、交通規制にかかってしまって……。あ、もう降りていただけませんかね?』

「あ、悪い」


 俺と夏水は、モケリス星人のベッドから降りる。


「それにしても、宇宙にも交通規制があるなんて」

「驚きですねぇ……。それにしても、貴方たちが居なかったら僕たち2人とも死んじゃっていたところでした。ありがとうございます」


 夏水はそう言って、モケリス星人の頭らしい部分を撫でた


『結構宇宙でも交通マナーは煩かったりするんですよ。そんなことは置いておいて、その規制に引っ掛かっているときに、クラップス星人が地球を攻め入るという情報がラジオで流れて来たので、皆さんのところに飛んできたというわけです。ぼくたちが着いたときに丁度、貴方達が校舎から落ちるところを目撃したので、助けに参りました』

「本当に助かった、ありがとうな」


 俺も、夏水に倣ってモケリス星人の頭を撫でた。何回撫でても手触りが良くて、ずっと撫でていたい触り心地だ。


「ずっと撫でていたいけど、ここは危ないからお前らは避難してろ。ここから北に暫く行けば簡易シェルターがあるはずだ」


 俺は、モケリス星人に進行方向を指差してやると、モケリス星人は頷く。


『ありがとうございます。お二人とも、ご武運を!』

「おう」

「モケリス星人さん、ありがとうございます」


 俺らは避難場所へと向かうモケリス星人に手を振って見送った。



「僕らもココでは何時見つかってもおかしくないですから、ちょっと隠れましょうか」


 落下した地点が校庭の隅っこで死角とは言え、戦いが激しくなっているので、いつ攻撃が飛んできたり見つかったりしたりしてもおかしくない状況だ。


「そうだな。とりあえず、校舎の中に入るぞ」


 俺達は見つからないように、そっと校舎の中へと入り込んだ。

 誰も居ない校舎を、俺達は腰を屈めてゆっくりと進む。


「まるで、コソ泥みたいですね、僕達」


 夏水の言う通り、まるで不法侵入している泥棒みたいな感じだった。

 校庭から一番遠い教室を選んで、俺達は中に入った。


「それにしても、本当に例の赤い点線がなくなってるな」


 俺は夏水の足元を見る。前まであった赤い点線はきれいさっぱり無くなっていた。


「あれは、僕の周りに誰も近づいてこないようにする、ある意味“心の壁”を実体化したものですから。僕が心の壁をなくせば消えちゃうんですよ」

「んー、よく分からないけど、俺のことは信用してくれていると捉えていいのか?」

「一応、そういうことになりますかねー」


 夏水は照れくさそうに笑う。


「三琴君こそ、僕が勝手に主人公に選んで、トンでもないことに巻き込まれたことに対して、本当に怒らないんですか?」

「怒っていいんだったら、怒るが?」

「ヒィッ」


 俺がそういうと、夏水は顔面蒼白になって俺から離れる。

 それと同時に、例の赤い点線が出現した。なるほど、こういう仕組みなのか。


「怒らない、怒らないから、帰って来い」


 俺が苦笑しながら手招きすると、夏水は戻ってきて、例の点線も消えていった。


「怒るよりも、色んなことが起こりすぎて目が回りそうなくらい楽しい気持ちでいっぱいなんだ。だから、夏水に感謝してる」


 俺はぽんと夏水の頭に手をのせて、


「俺を選んでくれて、ありがとう」


 と、感謝の言葉をやっという事が出来た。


「……もう、三琴君は、僕を泣かせる天才ですね。こちらこそ、僕を助けてくれて、ありがとう」


 夏水は号泣しそうなのをぐっと堪えて、俺を見て笑った。



「さて、言いたいことは言えたし、どうしようかねぇ」


 相手は強化したクレポンを使っている。現状のままでは勝ち目が殆ど無いような気がする。

 実際問題、先輩達の戦いは苦戦を強いられている様子だった。


「専門家として、この状況どう思うんだ」


 俺は夏水に話を振る。


「いつから僕は専門家に? まぁ、一応、生みの親ですけど。そうですねぇ、この状況は非常に危ないですねぇ。ある2点を除いては」

「ある2点? それは一体?」


 すると、突然夏水はフフフと悪役風に笑いだした。


「その1、クラップス星人は僕が差し出したレシピを、強化型クレポンのレシピだと勘違いしている模様ですが、全くの別物なんです。なんと、最初は凄く強い威力を発揮するんですが、動かし続けると途端に弱くなるクレポンのレシピを差し出してやりましたとも! ハッハッハ!」


 な、なんというレシピを敵に投げやがったんだ、コイツ。夏水がなんだか、一番の悪役に見えて仕方なくなってきた。


「その2、真のレシピなんてものはありません。でも、クレポンの最終形態なら僕が今、この手に持っているのです。それがコレです!」


 夏水はズボンのポケットから10センチ角のクレポンを取り出す。パッと見、いつも見ているクレポンと変わりは無い。


「特に変わっている様子がないとは思いますが、これが最強クレポンなのです! 実は……」


 夏水は俺の耳へそのクレポンの秘密を暴露する。


「な、なんだと、そんな事が出来るのか」

「はい。そろそろ、クラップス星人のクレポンが脆くなってくる頃です。殴りこみに行きましょうか。反撃開始です!」

「そうだな。あ、あと夏水。一つ頼みがある」

「なんでしょう?」

「アレはやっぱり夏水しか適役がいないから頼む」



 そう。アレはお前じゃないと勤まらない。



【次回予告!!】

帰ってきました次回予告!

え、そんなの期待していない、またまたぁ?

さて、僕と三琴君でいざ反撃開始!

その驚くべきモノとは!?

次回もでりんぐ!!第40工程を要チェックだ!

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