第35工程 「あ゛ーーーーー」
病院を無事に出て、俺は先生に連れられ、喫茶【ミラージュ・イスト】へとやってきた。
扉を開けて、マスターを見ると、ちょっとギョッとした顔になっていた。
「酷ぇ顔だなぁ、坊主。ボロボロだぞ」
「……えへへ」
苦笑交じりの俺に、マスターが何やら白いものを俺の顔面目掛けて投げてきた。反射でキャッチすると、それはオシボリだった。
「とりあえず、カウンターに座って顔を拭け。そんな顔じゃ親御さんが心配するだろ」
「うん、ありがと」
俺はカウンターに座って顔をゴシゴシと拭く。その後、オシボリを顔全体にかけて、上を向く。蒸されているタオルの熱がなんだか体に沁みた気がする。
「あ゛ーーーーー」
「お前はオッサンか」
先生は、顔にかけてあったオシボリを取ってツッコミをいれた。
「お。さっきよりはマシな顔になったな。ほれ、リクエストのカルボナーラだ。パンケーキはこれから焼く。ケンちゃんは、これな」
マスターはカルボナーラと肉じゃがをそれぞれのカウンターへと置く。
「源三の肉じゃがだなんて久々」
「ちゃんと食べて力つけて貰わないと困るからな。宣戦布告もされたわけだし」
「……」
俺は黙って手を合わせ、カルボナーラを口へと運んでいく。
「おい、どうした。本当に元気ないな。本当に、脳波とか異常なかったんだろうな?」
マスターは心配そうな顔で、手を俺の額に当てて熱を測るような動作。
「山吹にも山吹なりの悩み事があるってもんだよ。根掘り葉掘り聞くのは野暮ってもんだろ? なぁ、源三」
「そりゃそうだ。でもよぉ」
マスターはコーヒーメイカーの方を向き、俺に背を向ける様な感じで語る。
「一人で墓場まで抱え込むよりは、皆で分け合ったほうが、心の負担が軽くなるんじゃねぇか。そんなに話したくない事なのかもしれねぇが。たまには、大人も頼っていいんだぞ。なんせ経験値が違うからな。特に俺達はな」
「確かに、経験値だけは一丁前だな」
そう言いながら、先生は肉じゃがの“じゃが”の部分を口に運びます。
「お子ちゃまがマネしちゃ駄目なようなこともジャンジャンやったなぁ。若かったなぁー、あの頃は」
「あー、SPの奴らに喧嘩を吹っかけた時のことか。アレは盛り上がったなぁ」
先生たちはガハハと笑いながら盛り上がっている。どんだけ、ヤンチャなんだよ。この人たちは。
「アタシたちがこんなに過去のことを笑い話に出来るのは、周りに相談できる仲間が居たからだ。夏水のことがもし心配で、一人で抱え込んでいるのなら、アタシと源三も協力してやるよ。アタシたちはそう簡単に潰れたりしない」
「そうだな」
先生にそう言われて、ちょっと気持ちが軽くなった気がした。
すると、止まっていた涙がまた流れ始めた。
「ううっ……」
「あー、源三がアタシの教え子泣かせたー! いーけないんだ、いけないんだ。せーんせいに言ってやろー」
「ケンちゃん……」
先生たちは、ちょっとしたギャグで俺を和ませようとしているみたいだ。
この2人ならきっと夏水のことを救ってくれるはずだ。だから、言ってもいいよな?
「先生、このことは誰にも口外しないって約束してくれますか?」
「誰にもということは、上にも報告はダメってことだな」
先生はそういうと、マスターに何やら合図をする。マスターはバックヤードへと向かい、数十秒後に戻ってきた。
「政府から盗聴されていては困るからな。ジャミング装置を発生させておいた」
この喫茶店、他にどんな機能が備わっているのか気になる。
その話は置いておいて、本題へと戻す。
「実は、夏水が行方不明だった科学者だったんです」
その言葉に、コーヒーを飲んでいた先生が咽た。
「ゴホッ……はぁ? あんなに必死こいて探してたのに、あいつがその科学者だったのか? そりゃ、電話にも出るわけ無いわな。それで、彼は今何処だ」
俺は目線を逸らす。
「……分かりません。俺の代わりに菜音に連れて行かれて。俺はそのまま気絶されられて……」
「で、気が付いたら病院だったと」
問いに俺は黙って頷いた。
「ということは、科学者はすでにクラップス星人の手中というわけか。参ったなぁ……。真のレシピとやらが、あっち側に渡った以上。結構キビしいぞ?」
「すいません、俺が夏水の代わりに言っておけば……」
俺がボソッと呟いたその時、
バシン。
「え?」
いきなり、頬に痛みが走った。よく見ると、先生が俺の顔を叩いていた。真剣な眼差しで。
「馬鹿も休み休み言え。お前があっち側に行っても、キビしいに決まっているだろうが。誰がお前以上にあのパンダ型クレポンを巧みに操れると思うんだ? 誰も居ないだろ! お前のパンダ愛で作ったクレポン達だろ? あっち側に行ったら、パンダを愛でることだって出来なるんだぞ。だから、簡単に自分を捨てるようなことはするな」
俺は、熱を発しだした頬をさすりながら先生の言葉を聞いていた。
「すいません、俺、ちょっと自分を見失いかけてました」
三度涙が頬を伝う。
「分かっていればいいんだ。スマン、ちょっと強く叩きすぎたな。源三、冷たいタオル出してやってくれ」
「はいよ」
マスターは僕に冷たく濡らしたタオルを差し出してくれた。それを叩かれた部分にあてる。
「奴らの作戦決行日まであと1週間。時間はたっぷりある。夏水を助けるために頑張ろうじゃないか。な?」
「はい!」
こうして、夏水を救い出す計画が、この三人の中で発足した。
モデリング部も政府にも秘密の計画。
夏水。お前を助けられたら、お前が俺を選んだことを感謝してるって伝えるよ。
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