第33工程 お願いだ、やめてくれ!

【クラップス星人】

 とても知能が高いとされるクラップス星の住人。

 知能の向上のために、他の星の文献を読み漁り、そこで得た知識は完璧に暗記できるらしい。

 しかし、本に書かれていないもの、特に“心情”というものは読み取れない。

 クラップス星人は、身分により特殊能力を備わることが出来、

 上級階級の者はなんと、他の星の生物に擬態化出来る。

 これによって他の星に潜伏し、征服する機会を伺っているのである。

(宇宙人Wikiより)



***

「私が、そのクラップス星人の手下だって言ったらどう思う?」


 菜音さんが、不気味なほどの笑顔で僕達に笑いかけます。

 え、ちょっと待って下さい。余りにも突然のことで状況が掴めないのですが。


「どういうことだよ、それは……」

「どういうことって……」


 菜音さんはニッコリと笑います。


「私が倒すべき“敵”ってことだよ? そんなことも分からない?」


 菜音さんはまるで子どもに諭すような声。


「もしそうだとしても、いつから菜音と入れ替わったんだよ! 菜音を返せ」


 そうです。菜音さんが敵サイドだったなんて、未だに信じられません。入れ替わったのなら、さっさと、彼女を解放してください!


「入れ替わったとか返せだなんて心外だなぁ。私は最初から、スパイとして潜り込んだんだよ。この地球を侵略するためにね」


 最初から、一体どうやって。菜音さんにも家族がいるでしょ? まさか、ご家族も仲間!?


「お父さんとお母さんは地球人だよ。ちょっちょっと洗脳してね、私を愛娘として育てて貰ったんだ。二人は子どもが出来にくい体質だったみたいだから丁度良かったの」


 親御さんは、菜音さんがスパイだと知らずに育てたって訳ですが……。


「酷い話だな」

「酷くないよぉ。ゆっくりと侵略のチャンスを伺う為には、小学生くらいが丁度良かったし」


 菜音さんは、悪びれた様子も無くニコニコを笑い続けたまま。


「で、俺達を呼んだのは、侵略の邪魔になったから消そうとでもいうのか?」


 け、消す!? そんなの、困ります。


「大丈夫だよぉ、消さないよ。だって」


 菜音さんは、パチンと指を鳴らします。すると、中庭の周囲をクラップス星人がいきなり取り囲んできたではありませんか。

 うわっ、結構いっぱい居る。クラップス星人は銃器を持っており、コチラに向けて構えています。下手したら撃たれそうです。


「二人は重要な駒だから」

「駒?」


 駒とは一体どういうことですか?

 僕が一歩前に出ると、武器を持った彼らが僕に標準を合わせます。

 いつでも攻撃する準備は整っているということですか。


「君達がクラップス星人を勝利に導く鍵ということだよ」


 勝利に導く……鍵?


「そう、君達の協力無しには我々の勝利はありえない」

「一体どういうことだ」

「そうだなぁ。まずは三琴君が必要な理由でも言おうかなぁ?」


 菜音さんは悪戯っぽく笑って見せます。


「三琴君は、凄く造形の技術力が凄いと思うの。あのモデリング部の中で一番、いや、地球上で一番かもしれない。クレポンとの相性もいいから、最強の武器が作れる。だから、私達の仲間に入って一緒に地球を掌握しよ?」

「断る」

「なんだぁ。つまんないのぉ」


 菜音さんは残念そうに答えます。


「じゃあ次は、夏水君だねぇ」


 僕は唯の一般ですし、造形のスキルもありません。何故、僕を捕らえようとするのですか?


としてるの? 寒いよ、そういうの」

「一般人の皮を被り続ける? 一体何の話を」


 ……っ! 貴女やっぱり気づいていたのですか。


「三琴君は気づいてなかったみたいだけどねぇ。私は全てお見通しだよ」


 これ以上喋らないで下さい! 


「嫌。もう、シナリオは崩壊したと同然だもの」

「おい、一体、何のことを」

「夏水君はねぇ……」


 やめろ!

 お願いだ、やめてくれ!


「皆が必死に探している科学者さん。そして、

「え」


 ……三琴君は、僕の顔を見ます。


「ソレは本当か! 夏水」


 ……。


「答えろ、夏水!」


 ……答えたくありません。


「そうだよねぇ。必死に逃げて語り部としてカモフラージュして、のに、バレちゃオシマイだよねぇー」


 もう、やめてください。僕は唯の一般人なんです。


「夏水……」

「あらあら、強情な人だねぇ。でも、君は我らに協力して貰わないと困るんだよねぇ。真のクレポンのレシピは君の脳みそに眠っているんだもの。今すぐに、そのデータだけ引っこ抜いてもいいんだよ?」


 やってみるならやってみ……あ。


「思い出したかなぁ? 君の固有結界である、その赤い点線は私には効かないってこと」


 あれも布石だったのですか。


「ご名答。ちょっと試したかったからねぇ。君のその点線は地球人には効くけど、それ以外には何の効果も無い。ただの印にしかない。というとは」


 クラップス星人2人が僕の腕を掴んで拘束します。


「こういうことも可能なんだよ」

「夏水!」

「おっと、動かないで。三琴君も大事な駒なんだから。抵抗したら撃っちゃうよ?」


 菜音さんは夏水君に向かって銃を突きつけます。


「二人とも味方になってほしいけど、どうしても嫌っていうならどちらか片方でもいいよ? 特別にもう片方は見逃してあげる」


 なんか、よくアクション映画にありそうな悪の集団とのやり取りですねぇ。胸糞が悪いです。


「じゃあ、俺がそっちに行けば、夏水は解放してくれるんだな」

「そういうことだね」


 ま、待って下さい。三琴君。君がそっちに行ったら誰がクラップス星人の野望を止めるって言うんですか。


「そりゃ、皆が止めてくれるだろ。だって、俺は地球を救うことなんて出来ない」


 今、そんな謙遜を言うのはやめて下さい。君は救うことが出来るはずなんです。


 だって、だから!


「夏水、お前」

「認めたね。自分が物語を作った科学者だって」


 そうですよ、僕がその科学者だ。

 でも三琴君は違う。君は逃げない。だから、僕は主人公に選んだんだ。君なら、僕の願いを叶えてくれるって!

 君が僕の代わりにそっち側に行くなんてダメです。

 ……ここは、僕が行きます。


「夏水、ダメだ!」

「へぇ。熱い友情ってとこかな?」


 さぁ、連れて行きなさい。その代わり、三琴君は解放しろ。


「片方だけって言うのは、本当は不本意だけど、いいわ。夏水君だけ連れて行くわ。三琴君は解放してあげる。ホラ」

「なっ」


 三琴君が急に倒れたかと思うと、背後にはスタンガンを持っているクラップス星人が。三琴くん! 起きてください。


「大丈夫よ。気絶しているだけ。さ、連れて行きなさい」


 クラップス星人は僕を強引に引っ張って、何処かへと連れて行きます。

 僕は倒れている三琴君を見ているだけしか出来ませんでした。





 ごめんなさい三琴君。僕が君を選んでしまったばかりに……。

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