第31工程 「うーん、女の勘ってやつかなぁ」

「え! モデリング部の内部情報を漏らしている人がいるの?」

「しっ、声が大きい」


 モデリング部活動日。また、事典サイズの分厚い本をトートバックに入れている菜音さんと遭遇。学校までの通学がてらに、先日、先生から言われたことを菜音さんに話す三琴君。


「あくまで仮定の話らしいが」

「うーん、女の勘ってやつかなぁ」


 深刻そうな三琴君とは正反対に、菜音さんはのほほんとした様子で聞いています。

 二人に温度差がありますねぇー。

 ちなみに、先生はこう仰ってました。


 “あのアンテナがクレポンのコントロールを補助するものだということは、襲来者は本来知らないはずで、知っているのは茶山陣学園にいるヤツだけだ。あのアンテナで宇宙人たちが唯遊んでいたという訳ではないだろう。恐らく、どこかに内通者が居て、モデリング部の秘密を漏らしている可能性が高い”と


「モデリング部の中に居るっていう可能性は無いの?」

「一応、入部したときに、誓約書を書かされるからな。喋ったらコロスって書いてあるし」

「それは……、すごくストレートだねぇ……」


 三琴君の説明に菜音さんは苦笑します。

 それに、あの異質な集団であるモデリング部に、敵に情報を横流しして利益を得ようとする人がいるとは思えません。


「異質な集団って、俺も含まれているか? もしかして」


 もしかせずとも、含まれているに決まっているじゃないですか。


「俺の何処が異質なんだ」


 ……異様なパンダ愛に決まってるじゃないですか。


「プフッ」


 僕の言葉に、菜音さんが吹き出します。僕、何かおかしいこと言いました?


「あぁ、ごめんね。夏水君の説明が余りにも的確すぎて笑っちゃっただけ」

「菜音も何気に酷くないか」


 噴き出す菜音さんをふくれっ面で見る三琴君。


 そう言えば菜音さん、今日も本を返しに行くのですか?


「うん、図書室の開館日って夏休み中って限られちゃうからさ、読んだら直ぐに返そうと思って」


 確かに、夏休み中って図書室が開いてない時もありますもんね。


 それにしても前に本を返しに行くって言って、まだ5日しか経っていませんけども、それだけの厚さの本を読むだなんて。もしかして、また夜更かしでもしたんじゃないですか?


「ちゃんと、夏水君の言いつけは守っているよ。……最近、早く読む方法を編み出したんだ」


 ほう、そうなんですか。時間を有効的に使っているのは良い事ですね。


「夏休みの目標で、本を30冊読むっていうのを目標にしてるから頑張るんだー」

「読書もいいが、課題もちゃんとしろよ? 俺と違って普通科所属とは言え、課題の量多いだろ?」

「ふみゃ!」


 三琴君に痛いところを突かれて、ビックリする菜音さん。ちょっと、叫び声が可愛らしかったです。


「そうなんだよねぇ。現国の課題がなかなか消化できなくて」


 はぁ、とため息をつく菜音さんに、三琴君が意外そうな顔をします。


「高校になって現国が苦手になったのか? 中学の頃は、世界史のテストのたびに落ち込んでいたのに」

「世界史は、中学でやったところを反芻するだけだし、本を見たら覚えられるもん。現国はちょっとレベルが上がった感じでちょっと苦戦中なんだ」

「まぁ、言われてみればそうだな」


 確かに世界史は、中学校でやったところがそのまま出題されることもありますからねぇ。重大な出来事とか特に。


 もしかして、現国は“作者の気持ちになって述べよ”みたいな問題が苦手ですか?


「そうなんだよ。作者の気持ちだなんて分からないよーという感じかな」

「まぁ、分からなかったら、俺か夏水に聞けば教えてやるよ」

「え、本当に? ありがとう!」


 三琴君、さらっと僕の名前も加えないで下さい。名誉毀損で訴えますよ。


「別に、名誉を毀損してるわけじゃないだろ?」


 うー……、そうなんですけど、安易に僕を出そうとしないで下さい。僕はあくまで、この物語の語り部なんですから。


「夏水君って、出たがりさんじゃないんだね。意外」


 えっとその、僕が出たがりっていう認識は何処から来たか、ご教授願いたいのですが。


「だって、結構目立っているし」

「だろ? やっぱり、一般人から見ても目立ってるんだよ」


 そ、そんな馬鹿な。僕、こう見えてもお淑やかに振る舞っているつもりなんですけど。


「お前は女子か」

「フフッ。あ、楽しくお話してたら、あっという間に着いちゃったね」


 そうですねぇー。あっという間の通学風景でしたねぇ。

 ふと思ったんですけど、菜音さん。今日は始終嬉しそうにしていましたよねぇ。何かいい事でもあったんですか?


「え、やっぱり夏水君分かる?」

「え、嬉しそうだったのか? 全然気づかなかった」

「えー、三琴君酷いー」


 そうですよ三琴君。女の子の表情の変化に敏感になっておかないと、モテませんよ。


「余計なお世話だ」

「えっとね、すっごく嬉しい報告があったんだー。これから毎日が楽しくなりそうなの。今はまだ言えないんだけど、三琴君たちにもいつか報告するね」


 ほー、嬉しい報告ですか。それはおめでとうございます。是非、聞かせてくださいね。


「嬉しい報告か、良かったな菜音」

「うん。二人ともありがとう。じゃあね」


 菜音さんは元気良く僕達に手を振って、図書室のほうへと掛けていきました。


「さぁて、俺達は部室へと向かうか」


 そうですねぇー。



『――――……』



 ん?

 僕は、誰かに呼ばれたような気がして、後ろを振り返ります。


「夏水、どうしたんだ。いきなり後ろなんか振り返ったりして」


 誰か僕の名前を呼んだような気がしたんで。恐らく気のせいでしょうねぇ。

 


「あの名前?」


 いえ、こっちの話ですよ。




【次回予告】

 少しずつ何かが動き出しているような気がしますねぇ。

 ん? 何ですか三琴君。変なことを言うんじゃないって?

 いやぁ、こう言った方が、食いつくじゃないですか。

 え、何がって、色々ですよ色々。

 次回もでりんぐ!!32工程をお見逃し無……ガガッ

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