第30工程 「さぁ、そろそろ決行の狼煙をあげようではないか!」

『いい知らせがあります』

「なんだ」

『ついに彼を発見できました』

「それは本当か」

『はい。彼はバッチリ此方側の罠に引っかかっていました』

「そうか、ついに、我々の悲願の日だな」

『そうですね』

「さぁ、そろそろ決行の狼煙をあげようではないか!」

『かしこまりました』



***


 突然ですが、只今緊急事態です。

 学園から1キロほど離れた茶山陣町の町役場で、宇宙人が襲来しているとの情報をキャッチしたモデリング部は、副部長作の妖精さん、宮前妹作の埴輪が遠隔操作で宇宙人との交戦をしているのですが、なんだか此方側が押されているような気がします。

 相手は、どんな宇宙人なんですか?


「んー、緑色の肌で得体の知れない腰つきから見れば、グットヨワイー星人のハズなんだけど」


 グットヨワイー星人ですか、なんだか名前から察するに、すっごく弱そうな気がするんですけど。


「名前の通り、弱いハズなんだけどなぁ。前に戦ったことあるんだけど、一発KOを勝ち取りましたともー」


 宮前妹そう言いながら、ゲームのコントローラーを乱暴に扱っています。

 一回勝った相手なんですよね? 何故、こんなにも手こずっているのでしょうか?


「なんかねー、クレポンたちの動きが少し遅いような気がするんだー」

「確かに、少し動きが鈍いような気がする」


 副部長さんと宮前妹がモニターを指差しながら同じ様な意見を述べます。

 動きが遅いですか? 確か、クレポンは脳波でコントロールするんでしたっけ?

 距離があって、命令の伝達に遅延が見られるんじゃないですか?


「いや、伝達にラグが出ないように、増幅器が校舎にある……あ!」


 先生が何か思い出したようで、司令室にあるモニター機器のあるボタンを押します。

 大型モニターに大きなアンテナらしきものが映し出され、そこには、

 町役場で交戦している宇宙人と同型の宇宙人が、5人ほどアンテナの周囲で遊んでいるではありませんか。

 もしかして、あれが、クレポンが苦戦している理由ですかねぇ。


「あの野郎……。引き摺り下ろしてやる。山吹!」

「へぇーい」


 先生にいきなり指名され、やる気の無い返事をする三琴君。


「今すぐ出撃できるな」

「一応。発射いつでも出来まーす」


 やる気の無いまま、三琴君が手元にある赤いスイッチを押します。

 すると、何処かからボンッという音が鳴り響き、やがて、映し出されているモニターにカプセルが現れました。

 そのカプセルが開かれると、中から三琴君の大好きなパンダ……じゃない!?

 なんと、中から現れたのは、なんともゆるくて可愛らしい熊さんではありませんか。


 三琴君、今回はパンダじゃないんですか?


「毎回パンダを戦闘に出したら可哀想だろ!」


 そんなに力説されましても、確かに、可哀想ですけども。


「だから、今日は熊さんだ。さぁ、始めようか」


 三琴君は一呼吸置いて、目つきの色が変わりました。


「フルボッコタイムだ」


 不穏な響きです。誠に不穏です。

 その言葉通りに、クレポンで作られた熊さんは、グットヨワイー星人をフック・アッパー・ストレートの三拍子でフルボッコにしていきます。

 この宇宙人は特殊な訓練を受けているので、よい子は真似しないでね。と注意書きを書きたいくらいの惨さです。さすが、哺乳類でも強者に分類される熊さん。やることがえげつないです。


 熊さんのおかげで、アンテナで悪さをする宇宙人が居なくなりました。攻撃するなら今です!


「あいよー! いっくぞー。ハニワパーンチ」


 宮前妹が嬉々として、必殺技を繰り出すと、グットヨワイー星人が一人、彼方へと飛んで行きましたねぇー。たまやー。


「それは、花火のやつじゃないのか?」


 あれ、違いましたっけ。

 ともあれ、これで此方側が有利になったわけですね、先生。


「……」


 先生? 考え事ですか?


「あ、あぁ、有利になったからには、たっぷり可愛がってやろうじゃないか」


 先生ははっと我に帰って、ニヤリと笑います。


「さぁ、処刑タイムだ」

「あいあいさー!」

「物騒なネーミングですね」


 宮前妹はノリノリで埴輪を動かし、副部長はやや苦笑まじりでした。


「俺のクレポンはそろそろ回収しておこ……ん?」


 三琴君はあるモニターをじっと見ます。どうかしました?


「いや、モニターに一瞬、菜音の姿が見えたような気がしたのだが」


 菜音さんですか? 流石に今回はきちんと避難していると思いますよ。そんな毎回毎回宇宙人の襲撃の被害に遭うわけ無いじゃないですか。それに、今は夏休み中ですよ? 帰宅部の彼女が今学校に居るわけ無いですって。


「だよな、俺の気のせいだろう、きっと」


 そうですよ。気のせいですって。

 あ、そうだ三琴君。僕の顔を殴ってください。


「……夏水、お前、ついに頭がおかしくなったのか?」


 三琴君、そんな冷ややかな目で見ないでください。ちょっと確かめたいことがあるんですよ。


「確かめたいこと? まぁ、いくぞ」


 三琴君の右ストレートが僕の顔を目掛けて飛んできます。

 僕は反射で目を瞑りますが、三琴君の拳は僕の顔の前でピタリと止まります。


「……殴れないぞ?」


 ホッ。殴れないのは当たり前なんですよ。普通は、この赤線から三琴君たちは侵犯することが出来ないんですから。

 あー、良かった。そのままだった。


「さっぱり意図が掴めないんだが」


 いいんですよ。僕が納得すればそれで。


「変なヤツ」

「おい、ちょっと話を聞いてくれないか」


 僕と三琴君の会話は先生によって中断させられました。


「大事な話がある」



【次回予告】

先生の大事な話とは一体。

そして、モデリング部に何が起ころうとしているのか。

次回をお……うわっ。

今、いきなり悪寒が襲いました。

あれぇ、夏風邪でも引いたのですかねぇ。

とりあえず、頓服でも飲んでおきましょうか。

次回もでりんぐ!!第31工程。お見逃し無く。

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