第29工程 パンダじゃなくて、牛柄じゃないですかねぇ
遊園地へ行く当日。茶山陣町から電車を乗り継いで揺られる事1時間半。そこから路線バスに乗って30分で、目的地、【パンダーランド】へと辿り着きました。
道中、三琴君たちは学校のことや部活動のことを話していたが、あまりにも二人が眩しすぎて全然話が頭に残りませんでしたよ。今度から二人の会話を聞くときは、サングラス装備でメモ書きするとしましょう。
「サングラス着けたままじゃ、書きにくいんじゃないかなぁ」
た、確かに。言われてみればそうですねぇ。ぬわー、僕は一体、どうすればいいんでしょうか。
「何回も言ってるが、そのまま大人しくしておけばいいんじゃないか」
三琴君は口を開くたびにそれですね。悪いですけれども、それに関しては仕事がなくなってしまうので、お断りします。
「ダメだよ三琴君、夏水君の仕事を取っちゃ」
そうですよ。仕事を奪うだなんて鬼畜の所業ですよ。
「夏水にムカつく言葉言われたけど、菜音の手前じゃ怒るに怒れないな」
なんと!? 菜音さんには、三琴君のツッコミストッパーになる効果があるのですねぇ。実に有難いです。
「有難いと言ってもらえて嬉しいよ」
これから二人協力して、三琴君のツッコミストッパー頑張りましょうねぇ。
「ねー」
「あぁもう! 園内はいるぞ」
「あ、待ってよー!」
ツッコミが出来なくてイライラしているらしく、三琴君はそそくさと園内の入り口へと入っています。フフフ、たまには三琴君で遊ぶのもいいかもですね。
「そんなこと言うと、置いていくぞ」
あ、嘘ですって。置いていかないで下さい。待って下さいよー。
チケットで無事園内に入り、僕の目に飛び込んできた光景は……、
まぁ、皆さんお分かりのように、パンダパンダパンダ……。
パンダのゲシュタルト崩壊が既に起こっている、そんな光景です。
パンダ、パンダって一体なんだっけ? と脳内が警告を発しているような気がします。
「やっぱり此処は最高だなぁ」
「三琴君が喜んでくれたようでよかった」
パンダ好きの三琴君は案の定テンションが高くて、まるで子どものように飛び跳ねています。
その様子を優しく見守る菜音さんが、なんだか母親に見紛うばかりです。
「あー、久々に童心に返ってみようかなぁ。ひゃっふー!」
今さっき飛び跳ねていたのは、童心に返っていなかったんですか。
「三琴君のいつも通りの行動だよ。パンダの密度が高くなったら飛び跳ねちゃうんだ」
菜音さんの説明に、何故か妙に納得してしまいますね。
さすが幼馴染というわけですね。
「引っ越してきて早々、学園内で迷子になっちゃって、泣いていた所を助けてくれたのが三琴君なんだ。それからの仲良しなんだよ」
あぁ、確か三琴君は迷子の子を捜す、捜索係を担当していたとか言っていましたねぇ。
それほどの長い期間だと、好きになっちゃいますよね!
「もう、ヤダっ。夏水君ったら」
そう言って菜音さんは、僕の肩をバシッっと叩きます。
……っ、……え?
僕は肩に残る微かな痛みに疑問府を浮かべます。
「ゴメン、強く叩きすぎちゃった?」
……いえ、大丈夫ですよ。
あれ? あれ?
「本当に大丈夫?」
大丈夫ですよ、この通り元気ですから。
そんな事より三琴君が消えてしまったのですが、
「あ、本当だ。三琴君、何処に……あ、居た!」
菜音さんが指を指します、その先で、パンダの噴水に見とれている三琴君が確認できました。
それからなんやかんやあって、今のボール遊びに至るわけなのですが、本当に二人が楽しそうで、僕嫉妬しそうですねぇ。
混ざりたいですけど、混ざれない、これこそジレンマというやつですかね。
「はー、運動したらお腹空いてきたネ。フードコートでご飯にしようか」
「そうだな。ここにパンダお好み焼き好きだったんだよなぁ」
フードメニューまでパンダとか、どれだけ拘っているんですか。
「たしかパンダドッグとかあったよねぇ」
「あったな。白いパンに黒い不規則な水玉模様が入っていた奴」
それはパンダじゃなくて、牛柄じゃないですかねぇ。
そんな話を三人でしながら、僕達はフードコートへと向かうのでした。
「美味しかった」
フードコートでパンダお好み焼きとパンダドッグを食べて、満足そうな二人。
ちなみに僕は普通に焼きそばを頼みました。レジャーでは焼きそばがやはりテッパンでしょう。鉄板焼きだけに。
「誰が上手いことを言えと」
おっと、ついつい上手いこと言ってしまいましたね
「本当に二人を見てたら楽しそうで羨ましいな」
「どこが」
三琴君と同意見ですよ。僕から見たら、お二人さんの様子の方が仲がよくて微笑ましいくらいですよ。
「でも、私はモデリング部には入ってないからさ、部活中の三琴君を知っているのはモデリング部の人たちと夏水君くらいだもん。ねぇねぇ、三琴君って部活ではどんな感じなの?」
どんな感じですかって、いつも通りパンダを量産しているような感じですよね。
「パンダを量産って、アレはだな、例のヤツに向けてのストックとして」
「ん? 例のヤツってなぁに?」
菜音さんは三琴君の話で引っかかった点を聞いてきます。
「んー、機密事項に引っかかりそうだから言えない。ゴメン」
「ううん、大事なことなら聞かないよ。あそこは国の機関にも属しているもんね。でも、三琴君はやっぱり凄いよなぁ。なんでも出来るから」
「ほ、褒めたって何も出ないからな」
菜音さんの言葉に三琴君の顔が真っ赤になります。ウブですねぇ。僕はニヤニヤが止まりません。
「そうだ、三人で観覧車乗らない? 夏水君とももっとお話したいし」
三人で観覧車ですか。いいですけど……、
キャストさんから、歪な三角関係とか疑われないですかね?
「んなことあるわけないだろ」
「フフッ、夏水君ってやっぱり面白い」
うー、僕は思ったことは言ったまでなのですが。
パンダ柄の観覧車に乗り込んだ僕達三人、中もやはりパンダ仕様で、三琴君がテンションの余り荒ぶります。
三琴君、大人しくしておかないと、観覧車が揺れてしまいます。
「あ、ごめん」
三琴君はしゅんとした様子で静かになりました。
「本当に三琴君が子どもみたい。そうだ、夏水くんのことをもっと聞かせてよ」
僕の話ですか。特にないですよ。だって僕は……、
「ん?」
いえ、この話は止めておきましょう。折角の楽しい雰囲気が台無しになっちゃいますからね。
僕のテンションとは逆に上昇していく観覧車。窓からは街中の景色が一望できるようになりました。
「茶山陣にも観覧車があればいいのに、そしたら町が一望できるのになぁ。あ、話を戻さないとね。自分で語るのに気が引けるのなら、私の質問に答えてくれると嬉しいな。夏水君はどうして、語り部なんてしているの?」
何故語り部をしているのかですか? んー、話せば長くなりそうなんですが、簡潔に。僕が作者からそういう役割を任命されたからですよ。
「でも、作者やらなんちゃらが気に食わないとか言ってたよな」
そんな事も話しましたねぇ。忘れてくださいって言ったのに。
でも、役割が与えられなかったら、僕はただの……ですから。
僕の言葉は途中、観覧車のゴトンという音に遮られました。ナイスタイミングです、観覧車のゴンドラ。
「上手く聞き取れなかったらもう一回言ってもらえる?」
フフフ、秘密ですよ。これ以上話したら三琴君に弱味を握られそうですし。
「三琴君ダメだよー、夏水君の弱み握っちゃ」
「……わかりましたよ」
菜音さんに注意されてギロリとコチラを睨む三琴君。これで反省してくれそうにはないでしょうねぇ。
「楽しかったね。私は凄く満足だよー。夏水君のことも知れたし。また三人で来ようね」
また三人でですと!? なんとも嬉しいお言葉ですねぇ。
しかし、三琴君とラブラブのところを一緒に居るのはなんだか気が引けちゃいますねぇ。
「そんな事ないよ。楽しいからいいの!」
そんな事を言う菜音さんの目はキラキラと輝いていました。
【次回予告】
無事、三人での遊園地が終わったのですが、なんだか不穏な雰囲気な予感がします。
それにしても、アレは一体どういったことでしょうねぇ……。
アレが効かないことがあるだなんて。
まぁ、その話は置いておいて、次回もバシバシ行きますよー!
次回もでりんぐ!!第30工程お楽しみにー!
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