第28工程 「お前は、美容に煩いオネェか」

「三琴君、いっくよー」


 菜音さんが三琴君に向かってボールを投げます。

 ゴム製の大きなボールがふわりと三琴君へむけて飛んでいきました。


「オーライオーライ」


 投げられたボールを目で追いながら、三琴君は後ろ歩きで進んで行きます。

 三琴君はそのボールを両手でよいしょと掴み、菜音さんへ向けて投げ返します。


「楽しいね、三琴君」

「あぁ、そうだな」


 三琴君は菜音さんに笑いかけます。

 そんな三琴君から滲み出ているものは、幸せとリア充オーラ。

 僕は一体、なんというものを見せ付けられているのでしょうか。

 くっ、これが主人公という勝ち組なのでしょうか!!


 どうして二人がキャハハウフフしているのか、それは遡ること1日前のことです。




「まさか、お前が夏休みの存在を忘れているとはな」


 モデリング部活動日。僕は、3日ぶりに学園へ登校した三琴君に抱きつきたい感情をグッと堪えて、夏休み初日にあった出来事を説明してあげました。

 夏休みなんてすっかり忘れていましたよ。それも、モデリング部の活動も3日間隔に空いていたなんて、完全に盲点です。


「最近は襲来ないからな。それに、毎日登校なんかしてたら宿題をする暇がないだろ。茶山陣学園の課題はただでさえ多すぎて、泣き出す奴が続出するっていうのに」


 泣き出す奴が続出? それって、どれ位なんですか?


「過去最高の総重量が確か20キロ」


 にっ、20キロ!?

 既に何冊っていう問題じゃなくて重さなんですね。


「第二美術科の夏季課題だから、立方体の石とかも含まれていたらしい」


 さすが、造形分野。石まで渡されるんですねぇ。ビックリです。


「まぁ、俺は夏休み初日と2日目徹夜して、課題が残り半分になったけど」


 三琴君、勉強というものはコツコツをするもんじゃなかったんですか?


「夏季課題だけは別物だよ。あんなもの、コツコツと終わらせたら絶対に終わらない」


 なんとなく、夏季課題の恐ろしさを察しました。


「それにしても、マスターと亀山先生がパートナーだったとわなぁ……。まぁ、どこか似ている雰囲気の二人とは思った……あ!」


 ……! 三琴君、いきなり大声出すからビックリしたじゃないですか。

 何か、思い出したことでもあるんですか?


「そういえばマスターに、モデリング部勧誘されていたときに愚痴っていたことを思い出したんだが、あれはつまり、先生にも報告されていると思っていいんだよな?」


 まぁ、パートナーが顧問の部活ですからね。その部活に対する愚痴を言っていたら報告するかもしれませんが……、でも……。


「でも?」


 マスターは三琴君を貶めるようなことは言わないと思いますよ?

 根拠はないですけど、そんな感じはします。


「確かに、マスターは口が堅いからな。だから、愚痴を聞いてもらってたわけなんだが」


 なら、きっと愚痴の内容は言っていないと思いますよ。恐らく、“勧誘で参っている”っていう程度のことしか言ってないと思います。


「それを聞いてても、勧誘を止めなかった先生の根性は凄いと思うけどな」


 そうですねぇ。僕もそれには苦笑しか出ません。


「何が苦笑しか出ないの?」


 僕と三琴君が歩きながら話している間に、菜音さんが割り込んできました。

 菜音さん、おはようございます。


「夏水君、おはよー。三琴君もおはよ」

「菜音、おはよう。お前も登校か? 部活は入ってないハズだよな、確か」


 菜音さんは帰宅部だったんですねぇ。


「図書室で借りた本を読みきっちゃったから、新しいのを借りようと思って」


 菜音さんの持っていたトートバックの中には、百科事典レベルの分厚い本が3冊ほど入っていました。タイトルも難しいものばかり。

 菜音さん、そんな難しい本を読んでいるんですねぇ。


「ちょっと興味本位で借りてみたら、ついつい読み更けちゃって。おかげで寝不足なんだ」


 ダメですよ。女の子はキチンと睡眠をとらなきゃ。お肌のノリが悪くなっちゃいますよ。


「お前は、美容に煩いオネェか」

「フフッ。夏水君ありがとう。今度から気をつけるね」


 菜音さんに微笑まれると、なんだか幸せな気分になりますねぇ。

 それにしても、菜音さんが読み更けるほどの面白い本ですか。興味ありますねぇ。


「今日これを返すから、今度は夏水君借りてみたらどう?」


 え、僕は、この学校の貸し出しカード持ってないので借りれないんですよ。


「あー、そっか……。そうだよね」


 菜音さんが僕の言葉にしゅんとなりました。

 あ、借りれなくても、図書室には入れるので、その時に読ませていただきますよ。


「ホント!? 面白いからオススメだよ」


 はい、ありがとうございます。


「あ、そうだ」


 菜音さんは本の入っている鞄とは別の鞄を漁ります。


「この前お父さんから遊園地のチケットをもらったんだけど、この三人で遊びに行こうよ」


 そう言って菜音さんはチケットを3枚取り出して見せます。


「おー、パンダーランドか、懐かしいな」


 おー、遊園地をこの三人で……、

 んん? 三人?


「うん、三人だよー」


 その三人ってもしかして、僕も含まれてます?


「当然だよー。他に誰がいるの?」


 えっ、えっ、でも……、僕は。


「遊園地、嫌い?」


 いや、嫌いってわけじゃ。僕はこの話の登場人物じゃないですし、


「まだそんな事拘っていたのか」


 こだわりますよ。だって、大事じゃないですか。


「言っておくが、チケットがなかったら恐らく園内に入れないし、俺達の様子も実況出来ないぞ」


 うっ、痛いところを突いてきますね。


「実況が出来ないのはツライだろ?」


 はい、ツライです。


「ということで、夏水も遊園地行き決定な」

「わーい。三琴君ありがとー。じゃあ、2日後に行こうね」

「その日は部活もないから大丈夫だぞ」


 うー、まんまと三琴君に乗せられてしまったような気がします。

 こうして、僕は二人に混じって遊園地へ行くことが決定したのでありました。



【次回予告】

なんだか乗せられて遊園地行き決定が決まってしまいましたが、

これで、三琴君たちのデートを余すことなく実況出来ます!

うわっ、まぶしっ。主人公とヒロインが生み出す空間が眩しすぎて眩暈がおきそうです。

次回、もでりんぐ第29工程。サングラス装備で待て。

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