第27工程 「とても、教職者の言うような台詞じゃねぇけどな」
「さぁて、ご飯も食べたし、本題といこうか?」
本題ですか、先生。
「そう、本題だ。あ、源三。夏水に飲み物を出してやってくれ。夏水、カフェオレでいいか?」
あ、はい。大丈夫ですよ。ありがとうございます。
数分後、マスターは僕に暖かいカフェオレを出してくれました。
「源三、例のものを」
「あいよ」
先生が手を差し出すと、マスターが一枚の紙切れを手渡しました。
どれどれ……、何かの番号です……かね?
「科学者に繋がるかもしれない携帯電話の番号だ」
先生はピラピラとメモを揺らしながら得意げに話します。
えー! そんな凄いものを入手したんですか! どんなルートで手に入れたんですか。
「匿名で教えてくれた人がいてな。何でも、科学者と一番親しかった間柄だそうだ」
マスターを先生の食べ終わった後の容器を洗いながら話します。
一番……親しかった……間柄、ですか。その人の匿名の通告。一体、どんな意図があるのでしょうねぇ?
「なんでも、アイツを助けてほしいと言っていたそうだ。具体的な内容は言ってなかったらしく、詳しくは不明だがな」
助けて欲しいですが、なかなか意味深な言葉ですねぇ。ふむ。
で、先生が、その電話番号に今から電話を掛けるというわけですね。
「そういうわけだ」
でも、今から大丈夫なんですかねぇ? 朝の六時半ですけど。
「良い子は起きている時間だから大丈夫だろ」
先生、良い子だって、休みの日はゆっくり寝ていたいと思いますよ。
「休日のお父さんみたいな言い方だな、夏水、お前まだ若いだろうに」
はい、ピチピチの16歳ですよ。
おっと、話が脱線してしまいようになっていました。ささ、先生、思い切って電話を掛けちゃってくださいな。
先生は、自分の携帯を取り出し、メモを見ながらダイヤルをしていきます。
そして、2度ほどの照会をおこなった後、発信ボタンを押しました。
すると、
『おかけになった電話番号は現在使われておりません。恐れ入りますが、もう一度確認しておかけ直しください』
「だめか」
どうやら、紙に書かれていた電話番号は使われていないらしく、機械的なアナウンスが流れるだけでした。
「これで、科学者が電話に出たら、世話ねぇけどな」
「確かにそうだな」
そうですねぇ、これで科学者さんがひょっこり出てきたら話になりませんよねぇ。あ、これはですね、“値打ちがない”と“問題にならない”っていうダブルミーニングから考え付いた洒落ということを付け加えておきましょう、一応。
あ、余りにも場の空気が深刻すぎて、洒落が通じなかったようです。お口直しに頂いたカフェオレを飲むとしましょうか……、あー、ホッとする。夏だけど、クーラーの効いたところでの暖かい飲み物最高です。
「科学者を早くとっ捕まえて、クラップス星人の侵攻を防がなくっちゃならないって言うのに、肝心な尋ね人が出てこねぇ、これはもしかしたら、どっかでアタシ達の様子を観察してるんじゃねぇか」
……!! ゴホッゴホゴホ。
「おい、大丈夫か?」
うっ。だ、大丈夫です。余りにも突然の先生の発言にビックリして、気管に入っちゃっただけですから。
それにしても、何処かで僕達の様子を観察しているですか……、何のためにですか?
「そりゃ、こっちが慌てふためいているのを見て、指さして笑うために決まっているだろ」
えー、なんかそれはムカつくし、嫌ですねぇ。
「だろ? そんなんだったら、見つけ次第、すぐに引きずり出してやる」
ヒィ、先生の顔が本気と書いてマジな感じですねぇ。科学者さん逃げてー! 下手したら死ぬからって言わないと駄目ですね。
「ソレくらいアタシは気が立っているんだ」
そう言って先生はカウンターでうつ伏せになります。
「ここ最近、休み無しだからな。いい加減、エージェントや教師の職なんて放り投げて、遊び呆けてみたいぜ」
先生でも、投げ出したいことがあるんですねぇ。意外です。
「とても、教職者の言うような台詞じゃねぇけどな」
マスターの意見もごもっともですね。
でも、科学者さんもきっと、何かに愛想をつかして逃げてしまったのかもしれませんね。そうじゃなければ、いくら探しても出てこないってこと無いと思いますし。
「愛想をつかすかぁ……。ソイツは何に対して逃げ出したかったんだろうな」
……さぁ、僕には分かりかねますねぇ。
「逃げ出したくなるほど、世界ってそんなに酷くないと思うがな」
「そうだな、まだまだこの世界は捨てたもんじゃねぇ」
「さすが源三。分かってるぅー。さて、そろそろ源三はモーニングの準備があるだろうし、アタシたちはここでお暇させてもらうとしますかね? 代金、ここにおいて置くから」
先生は、カウンターに千円札をおきます。
「ケンちゃん、いつもいいって言っているだろ」
「いいんだよ、アタシが払いたいんだから、有難く受け取れ」
なんだか、先生がとても男前に見えてきますねぇ。ときめいてしまいそうです。
「夏水はこれからどうするんだ?」
んー、今日は大きな動きは無さそうですし、大人しく帰りますよ。
「そうか。じゃあ、源三、ごちそうさまー」
そう言って、先生と僕は、喫茶【ミラージュ・イスト】を後にしました。
***
「あの人は私を売ったのか?」
「どうして私なんだ。私なんか、私なんか」
「もう、誰も関わらないでくれ」
「誰の助けなんて要らないんだ」
「私はもう……消えt……」
【次回予告】
気が付けば夏休みだったんですねぇ。そりゃ、早朝に三琴君待ちしても来ないわけですね。
さて、夏休みを謳歌している三琴君。ちゃんと、モデリング部の活動も忘れていないでしょうねぇ……。
とても心配です。最も、僕も夏休みとなれば遊びたい年頃なんですが。
え、次回予告になっていないですって。なんせ、次回はシークレットですから。
次回もでりんぐ!!第28工程をおたのしみにー
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