第4部 波乱の夏休み。君はもう必要ない?

第26工程 「よーし、今度それで強請ってやろう」

 んー、ちょっと早すぎましたかね?

 蝉がけたたましく鳴いている朝6時の茶山陣学園校門前。僕は、ぼけーっと突っ立っています。三琴君の入り待ちなのです。


 早朝なので、学校へ向かう人もまばらですねー。朝練へ向かう人がチラホラと。

 青春ですねぇ。部活動で汗を流す。素晴らしいじゃないですか。僕、そういうの嫌いじゃないですよ。

 ただ、僕は運動がからっきしなので、運動部所属にはなれそうにないですけど。


「お、夏水じゃないか。こんな朝早くに何をしているんだ?」


 聴き慣れた声だと思えば、亀山先生じゃないですか。おはようございます!

 僕は見ての通り、三琴君の登校待機なのですよ!

 早く実況したくて、こんなに早くスタンバイしてますが、お気になさらず。


「……夏水、一つ確かめたいことがあるのだが」


 先生、そんなに深刻そうな顔をしてどうしたんですか?


「落ち着いてよく聞けよ?」


 はい。え、一体なんですか。そんなに大切なことなんですか?


「今日から茶山陣学園は、夏休み期間中だぞ。モデリング部の活動も、緊急時を除いて3日に1回のペースに変わっているから、山吹は今日来ないぞ」


 ……な、


 な、


 なんだってーーー!!!!


 ハッ。そうだ、昨日終業式が終わった後の三琴君に、そういえば会いましたね。

 なんて僕は愚かなんだ! 主人公のスケジュールも完璧に把握できないだなんて。


「完璧に把握できたら、それはそれで、ストーカーになるぞ」


 嗚呼、折角の朝の楽しみがー! 台無しだぁ!

 僕はその場へ崩れ落ちます。


「そんなに大事なのか」


 先生が哀れな目で見ていますが、そうなのですよ。語り部という役割が僕の、お仕事、やりがい、生きがいなのです。今の時間に三琴君の家へ押しかけても迷惑でしょうし、どうしましょうねぇ。


「そんなに暇を持て余しているのなら、アタシに付いて来るか?」


 へ? 先生、これから何処かへ行かれるのですか?


「ちょっと腹ごしらえしてこようと思ってな。ずっと、司令室に篭もっていたらお腹は空いてしまってな」


 今の時間まで篭もっていたということは、泊り込みですか。お疲れ様です。


「いやぁ。なかなか科学者の消息が掴めなくてな」


 なんと、先生自ら探されているのですね。


「そんなところだな。どうだ、付いて来るか? 飲み物ぐらいは奢るぞ?」


 え、本当ですか! 行きます!


「じゃあ、付いて来い」


 先生は男らしい台詞を言いながら歩き出しました。



 数分歩いて着いたところは、喫茶【ミラージュ・イスト】。

 先生もここを利用されているんですねー。


「お、来たことあるのか?」


 はい。三琴君と菜音さんのラブラブデートの時に来たことあるんですよ。


「アイツら、もうそんな仲なのか」


 本人達は否定していますけど、アレは誰が見てもラブラブですよ。

 僕のその言葉に、先生がニヤリと笑います。


「よーし、今度それで強請ってやろう」


 先生の目が輝いておりますねー。まるでイタズラをする悪ガキの如く。

 先生に弱味を握られた三琴君、見てみたいものですねー。僕の気分が清々しくなるかもしれません。


 先生、お主も悪ですよのぅ。


「夏水ほどではないぞ。ウッヘッヘ。さて、入るか」


 そうですねー。って、まだ入り口が“CLOSE”って書いてありますけど、もしかして、開店してないんじゃ……。


「いいんだよ。通常オープンは8時からだけど、今は特別枠だから」


 ……特別枠? それは一体。


「それは入ったら分かる」


 そう言って、先生は喫茶店の扉を開けました。


「いらっしゃい」


 店内に入ると、前見たときと同じ格好でマスターがカウンターで何やら作業をしていました。


「源三、朝ご飯食べにきたー」


 なんと先生はマスターを呼び捨て!? その声にマスターの眼光がギラリと光ります。

 ヒィ!! 僕が睨まれたわけでもないのに、体が萎縮してしまいます。


「ケンちゃん、ちゃんと用意してるぞ」


 マスターは睨みを利かせたまま、カウンターに鮭定食を出しました。うわぁ、純和風で美味しそうです。


「ひゃっほー。さすが源三。電話してから直ぐに準備が出来ているだなんて、気が利いているな。いっただきまーす!」

「何年お前のパートナーをしていると思っているんだ」


 先生はカウンターに座って、モリモリと定食を食べていきます。


 なるほど、パートナーだから特別枠で……って、ん?

 んん?????

 今さらっとパートナーって言いましたか?


「あぁ、言ったな」

「そうだ、言ったな」


 マスターと先生ってパートナーだったんですか。


「そうだぞ」

「パートナーと言っても、結婚しているという意味ではないぞ。仕事上でのパートナーだ」


 え、ちょっと、話を整理させてください。頭が混乱してきました。

 仕事上のパートナー、つまり、マスターも政府から雇われたエージェントということになりますよね?


「形式上はそうなるな」


 どうして、喫茶店のマスターをやっているんですか?


「源三は副業がエージェントなんだよ。喫茶店が本業」


 ……普通、逆じゃないですか?


「細かいことはいいんだよ。それで、アタシのサポート役として暗躍してもらっているってわけよ。ごちそうさま。美味しかったよ」


 手を合わせる先生の前には、きれいに完食された定食の空容器がありました。


「そりゃ、どうも」


 そういうマスターの顔は、どことなく嬉しそう。


「さぁて、ご飯も食べたし、本題といこうか?」




【次回予告】

朝ご飯を食べた先生から切り出される本題。

その言葉に僕は戦慄してしまいます。

一体、その内容とは!?

次回もでりんぐ!!、第27工程。乞うご期待

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