第25工程 「パンダみたいな宇宙人かぁ。見てみたかったなぁ」

 パンダの鬼、三琴君の降臨に放送室の空気が張り詰めます。


「なんだ……コレは」


 三琴君はうつむき加減でプルプルと震えだします。これはやばい気がします。

 おおっと、ここで三琴君がクラウチングスタートの構えを取り出したぞ。モケリス星人は今すぐ避難する体勢を取ってください。さもないと……、


「パンダァァァアアアアアアア!」


 三琴君が陸上選手顔負けのスタートダッシュで、モケリス星人を捕らえたーーーー! 早い、早すぎるぞ。スピードカメラで使わないと三琴君の姿が認識できないほどのスピードでしたよ。

 それでは、ここで、スピードカメラの映像をご覧下さい。


「え、そんなものがあるの?」


 副部長さんナイスツッコミです。カメラは無いのですが、ちょっとそんな雰囲気を味わってみたかったのですよ。はい。


「あぁ、モフモフ」


 僕がそんなボケをしている間に、三琴君は存分にモケリス星人をモフり始めました。モフられている本人達はカタカタを小刻みに震え、恐怖の感情に支配されています。


 三琴君。一応彼らも宇宙人なので、何をされるか分からないですよ。


「パンダが悪さをするわけ無いだろ」


 いや、だから、パンダじゃなくて宇宙人なんですって。


「え、どこからどう見てもパンダだろ」


 あーもう、パンダっぽい生き物を見つけたら、何でもかんでもパンダ呼ばわりする面倒くさい人だ! 全く。

 三琴君。彼らはモケリス星人といって、宇宙人なんですよ。パンダじゃないです。


「ぱ、パンダじゃないだと!!!」


 そう、パンダじゃないんですよ。だから、解放してあげてください。怯えてしまっているので。

 三琴君は僕の説得に、大人しく解放してあげるのかと思いきや、


「でも、抱き心地サイコー。パンダのぬいぐるみのようだ」


 さらに、抱きつき、仕舞いには頬ずりまでしてる始末。

 さらに、モケリス星人が恐れおののいているのは言うまでもありません。

 三琴君、モケリス星人にトラウマが植えつけられる前に早く解放してください。


「ちぇー。せっかく大きなパンダをハントできると思ったのに」


 数分後、やっとモケリス星人を解放した三琴君は、放送室の椅子へムスッとした様子で座り込みました。


『こ、怖かった。地球人ってこんなに恐ろしいものだったんですか』


 モケリス星人は怯えて、三琴君と1メートルの間隔をあけて座ります。

 もう、完全に埋められない溝が出来ちゃってますよね。コレは。

 大丈夫ですよ。今の貴方たちの模様がそもそもの原因なわけでして、普通はそんなに恐ろしいものじゃないので。安心してください。


「そもそも、どうして君たちは、この茶山陣学園に侵入しようとしたの?」


 副部長さんの問いに、モケリス星人さんはいそいそと何かを探している様子。


『僕達、こういうものなんです』


 モケリス星人は副部長さんにカードサイズの紙を差し出します。

 そこには、【モケリス学園修学旅行隊】とわざわざ日本語で書かれていました。


「修学旅行隊?」

『はい。モケリス学園では、修学旅行の時期になると各グループで行く星を自由に決められるのです。それで、僕達の班は地球を旅行先に決めたんですよ』


 モケリス星人の一人が鼻息荒く答えます。


「で、どうして、ここに? 観光地なら他にもあるでしょう」


 そうです。地球は広いですし、海外へいけば世界遺産もぼんぼんありますのに。

 どうして、茶山陣学園に来たのですか?


『それはですね……コレです』


 モケリス星人は一冊の本をバーン!と見せます。

 その本には、茶山陣学園の校舎などの写真が載っているようですが、どのような紹介がなされているかは、文字が読めなくて分からないですね。


『これはですね。地球防衛隊、秘密結社茶山陣学園って書いてあるんです』


 あ、ご丁寧にどうもです。

 って、ちょっと待って下さい。


「秘密」

「結社」

「だってー!?」


 見事にモデリング部の三人の声がハモリました。


『はい。日夜、悪者をバッサバサと倒しているんですよね? 記事にもそう書いてありますし。憧れだったんですよね。秘密結社のアジトを探検するのが』


 そういって、モケリス星人は本を抱きしめます。


『でも秘密結社にしては、普通の地球様式の学校なんですね。あ、秘密結社ですもんね。内緒にしなきゃ意味がないですよねぇ』

「いや、秘密結社っていうわけじゃなくて、普通の学校なんだよ」

『え……?』


 副部長の説明に、モケリス星人の動きが固まります。


「うん、茶山陣学園は普通の学校だよ?」

『そんなぁ、モケリス星人の心のバイブル、【ケケぶ】情報なのになぁ』


 日本にも売ってそうな、旅行誌のタイトルっぽいですね。

 どっちかというと、学園が秘密結社じゃなくて、学園内の部活が秘密結社の仮の姿っていう感じはしますけどね。


「あ、コラ。夏水」

『え、部活の中に秘密結社があるんですか!』


 モケリス星人さんは、目を輝かせて僕を見ます。


 あ、いらないことを言ってしまったでしょうか?


『是非、そのアジト教えてください!』

「ほら、言わんこっちゃ無い」


 三琴君がギロっと僕をみるので、僕は同時に目線を逸らします。


「一先ずは、避難警報を解除してからだね。モデリング部を案内するのは」


 副部長は苦笑まじりに答えました。



「結局、今日のテストは中止になっちゃったね」


 避難警報が解除されて2時間ほどで、生徒には一斉下校が命じられました。

 当然、本日の残りのテストは明日に順延するという運びに。

 三琴君も部活は今日無しになったので、こうして菜音さんと一緒に下校しているので。ヒューヒュー、お二人さんともお熱いですねー。


「茶化すな、夏水。お前のせいで大変な目にあったぞ」


 あの後、モケリス星人にモデリング部の部室を案内してあげたのです。もちろん、国家機密に入りそうなものは見せなかったのですが、亀山先生に事情を説明するのには骨が折れましたね。


「パンダみたいな宇宙人かぁ。見てみたかったなぁ」


 菜音さんが少し悔しそうに、言います。

 あの後、彼らは部室案内に満足して、学園を去っていきましたからねぇ。今は何処にいらっしゃるのやら。


「大丈夫だ。抱き心地は覚えてるから、今度似たようなぬいぐるみ持って行く」

「ホント!? 嬉しい」


 全く、この二人は熱すぎて、僕が溶けてしまいそうになりますよ。全く。


「そういえば、夏水君だっけ? 夏水君はテスト受けなかったの?」


 え、僕ですか? 僕はこの学校の生徒じゃないので、テストを受けないですよ。


「いつも、三琴君の横にいる気がするから、勉強は大丈夫なのかなぁ。って思ったの」


 勉強のほうなら大丈夫ですよ。恐らく。


「曖昧な答えだなぁ」


 三琴君。僕のプライベートなことは全くこの話には関係ないので、しないだけなんですよ。


「あ、ゴメンね。余計なことを聞いちゃったみたいで」


 そう菜音さんは、僕に謝ります。いやいや、誰だって気になることだと思うので、大丈夫ですよ。


「なんか、俺と態度が違わなくないか?」


 気のせいですよ、三琴君。





【次回予告】

 次回は特別編。いきなりキャラ紹介のコーナーを開催します。

 さて、伏線回収の準備はよろしいですかな?

 次回もでりんぐ!!

 とんでもない爆弾を設置してお待ちしております。

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