第24工程 『ケモ。ケモケモー!』

 おはようございます。僕は只今放送室の前にいます。今、中に謎の物体が侵入したとの情報が入り、監視をするところでございます。


「なんだか、寝起きドッキリみたいな感じの喋り方だね」


 いやぁ、憧れだったんですよね。こういう感じの話の入り方。

 さて、放送室の中はどうなっているのか、覗いてみましょうか?


「ゆっくりね。見つかったら大変だよー」


 山菊先輩の言葉に副部長さんが頷き、ゆっくり扉を開けると、

 ソコには、茶色いモコモコした壁が。


「放送室にあんなモコモコした壁あったっけ?」

「無かったハズなんだけどなぁ」


 すると、壁がモゾモゾと動き始めました。


「わっ、何かうごい、フガッ」


 いきなり動き出した壁に驚いた山菊先輩は大きな声を出しそうになりましたが、副部長がすかさず先輩の口を塞いで、物陰に隠れます。僕も、見つかったらヤバイので、隠れて様子を伺うとしましょう。

 モフモフとした壁は声に気づいたらしく、ぐるんと放送室の入り口の方向を見ます。10秒ほど周囲の様子を確かめ、また先ほどまでのように壁になりました。

 振り返った時に見えた瞳の数を見る限り、相手の数は五体のようですね。


 それにしても、本当にモフモフですねぇ。彼らの体。抱きついたら気持ち良さそう。

 そんな事を僕が考えている中、副部長さんはスマホで何やら探している模様。何か、お探しですか?


「光学迷彩を解いて、姿を現しているようだし、どんな宇宙人か検索できないかなぁと思って探しているんだ。宇宙人Wikiで」


 最近はWikiで宇宙人を検索できるんですか? いやぁ、スマホで宇宙人を検索する。便利な世の中になったものですねぇ。


「夏水君もこの時代の人間だよねぇ。オッサン臭い台詞だよソレ」


 僕はどうも流行に乗り遅れてしまうのですよ、精神年齢はもう初老なのかもしれません。


「初老って。あ、あった。彼らの名前はモケリス星人だ」


 モケリス星人? なんともラブリーな名前ですねぇ。


「確かにリスっぽさあるね。茶色い部分とか」

「紗ちゃん、リスって名前がついているからって、リスの仲間じゃないからね。結構友好的な人種みたいなんだけど、なんで地球なんかに来たんだろうか」


 モケリス星人は何やら放送機材の前でゴソゴソとしているみたいですね。そろそろ、三琴君の学年のリスニングが始まってしまいますが。


「ここは彼らに退室をお願いするしか無いかなぁ」


 そう言って、副部長が立ち上がり、モケリス星人のもとへと向かおうとしました。

 その時です。



『ピンポンパンポーン』



 モケリス星人の誰かがボタンを押した瞬間、校内放送のチャイムが鳴り響きました。

 すっごく、嫌な予感が放送室に漂います。

 嫌な予感を抱いているのは、僕達三人だけなんですけどね。


『ケモ。ケモケモー!』


 モケリス星人は器用にマイクのスイッチを押して、話し始めます。

 そんなの何処で教わったんだ。校内放送で声を届けるには、マイクのスイッチを押しながらじゃないといけないということを。というツッコミをしたいのですが、今はそんな余裕はありません。

 副部長、サイレンのスイッチ押しちゃっていいですか?


「こうなったら仕方ないよ。押さないと校内が色んな意味で混乱する」


 副部長の許可を得て、僕はサイレンのスイッチを押します。



『ウオォォオオオオオーーーーーン』



 久々のけたたましい音が校内に響き渡ります。


『ケモ!?』


 モケリス星人も突然の音に慌てふためいて、ドシンドシンと地響きを鳴らしながら大暴れします。


「大丈夫だよ。君たちに危害を加えるつもりは無い」

『ケモモ?』


 暴れているモケリス星人に副部長が優しく話しかけます。

 言葉が通じているようですが……、あ、通訳装置を耳にはめていますね。僕も装着するとしましょうか。


『本当に危害を加えない?』


 モケリス星人は若干震えながら、副部長に訊ねます。


「大丈夫だよ。ここにいる僕らは少なくとも、君たちの味方だよ」

「そうだよ。取って食おうとはしてないから大丈夫」


 三年生の二人に説得されて安心したモケリス星人は、ホッとした様子で落ち着きを取り戻したようです。

 と、その瞬間、いきなり茶色いモコモコした物体が剥がれ落ち、ソコには。

 白と黒のコントラストがキレイな物体が。そう、まるで、パンダみたいな……。


『いやぁ、安心したら脱皮したくなりまして』


 いやいやいや。安心したから脱皮って前代未聞ですよ。やはり、地球外の方はこちらと感覚が違うんでしょうか。

 しかし、この状況はまずいですよ。非常に。


「パンダの鬼が」

「やってくる……」

『パンダの鬼ですか?』


 そうです。パンダの鬼こと、三琴君です。

 でも、司令室に置いてある、僕らの書置きをみるまではまだ時間があるので、今の内にその剥がれ落ちた茶色い毛皮を再び着ていただけたら、セーフかなと思いますが。

 さぁ、モケリス星人さん、今の内に毛皮を纏うのです!

 今の姿を見られたら、恐怖体験が始まってしまいますよ!!

 僕の言葉を真摯に受け止めた、モケリス星人は急いで落ちていた茶色の毛皮を身に纏おうと大慌てになります。


「夏水君って、山吹君のことをパンダハンターみたいな扱いをしていることがあるよね」


 当たり前じゃないですか。あんな重いパンダ愛は類を見ませんよ。

 さぁ、早く。

 モケリス星人はドタバタと地響きを鳴らしながら、毛皮を身に着けようとしています。

 その時。


「大丈夫か!」


 ……あ。

 いきなり、放送室の扉が勢い良く開け放たれ、ポニーテールの貴公子、三琴君がやってきました。

 クッ。遅かった。



【次回予告】

 パンダの鬼、三琴君に見つかってしまったモケリス星人。

 絶体絶命の大ピンチを彼らはどう切り抜けるのか。

 なんだか、主人公なのに悪役っぽく思えてしまうのは、僕の気のせいでしょうか?

 次回もでりんぐ!!第25工程をお楽しみに。

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