第22工程 「結構干渉してる気がするけどぉ?」

「おまたせー」


 数分後、副部長が作業室から出てきました。

 副部長の周りには、何やらフヨフヨと浮遊している10センチほどの物体達が。目測する限り、50匹近くいますね。

 蝶のようなキレイな羽を携えているようですが、虫ですか?


「僕の作ったクレポンの妖精さんだよ。可愛いでしょ?」


 副部長はそう言ってニッコリと笑いました。

 そういえば、部長さんは美少女の造形が得意で、副部長さんはファンタジーに出てくるような幻想生物の造形が得意でしたね。

 本当に、ファンタジーの世界から飛び出てきたような妖精さんばかりで、目を奪われそうな感覚にとらわれてしまいますね。


「物理的に目玉奪われちゃうかもよぉ? この子達、敵の前じゃ容赦しないから」


 山菊先輩はそう言って、ニシシと笑いました。さらりと怖いことを言わないで下さいよ。怖くなってきたじゃないですか。


「ウフフ」


 その妖精さんは一体どう使うんですか? クレポンはいくら万能とはいえ、クレポン自体の視覚機能は備わっていないはずでは?


「ソレについては、この子達の背中を見てみてよ」


 ん? 背中ですか?

 副部長に言われて、妖精さん達の背中を見ます。すると、背中には、虹色に輝く爬虫類が妖精さんの背中にすっぽり隠れるように潜んでいて、ギロリと僕の顔を見ます。

 怖っ。なんですか、この生き物。


「宇宙トカゲモドキという地球外襲来種だよ。地球でいうカメレオンみたいなやつで、皮膚の色が変わるんだよ。この間、戦闘中に卵を見つけて、試しに孵してみたら、結構増えちゃって」

「一説には、宇宙トカゲモドキを1匹でも見つけたら、その周囲に30匹ほどいると思えとかいうらしいねぇ」


 よりにもよって、何故家庭内害虫扱いなんですか、その爬虫類。というか、卵がある時点で、地球は既に宇宙トカゲモドキに征服されているのと同じなんじゃ……。


「そこらへんは大丈夫。こいつらの食料はちょっと特殊で、地球上にはないものだから、もし、野生で孵っても、餓死しちゃうから増えないんだー。僕は、特殊ルートから頼んで食料を調達して貰っているけどね。見る? 馬の顔をした芋虫」


 そう言って、真っ白の保存容器を開けようとする副部長さん。

 なんですか、想像しただけでも悪寒しかしない生き物は、いや、いいです。遠慮します。実況するまえに失神しそうなので。

 コホン。話は戻しますが、そのトカゲを背中に背負った妖精さんで、一体どのように監視をするんですか?

 副部長は僕の話を聞くと、妖精さんたちを各種モニターの前に配備させました。


「この宇宙トカゲモドキは特殊能力があって、光学迷彩などで隠れている宇宙人を見つけることが出来るんだ。見つけると、皮膚の色が虹色から赤色の警告色に変わるんだよ。見てごらん」


 副部長は、校庭の南側が映し出されたモニターを指差します。そのモニターのまわりを飛んでいる妖精さんの背中が恐ろしいくらい真っ赤になっているではありませんか!

 なるほど、妖精さんの背中を見て判断することで、僕達の監視の負担を減らそうとする作戦ですね。


「そういうこと。でも、結構沢山のクレポンを操作しているから、結構頭使うのが難点なんだけどね。僕と紗蓮ちゃんで分担したとしても20匹以上も操作しなきゃだし」


 あ、確かに、大量のクレポンを操縦させるのは脳みそ使うみたいですね。三琴君が前にゾンビパンダを大量に動かしていたときに発覚しましたが。

 僕もお手伝いしたいのは山々なんですが、いまして、お力になれないです。


「結構干渉してる気がするけどぉ?」


 うっ。それを言われると痛いので、ツッコまないでください。


「なんとか、僕達二人で操縦は大丈夫だよ。だから、語り部君は、時折、監視カメラの切り替えをして、妖精の背中をみてくれると嬉しいな。それなら、山吹君のテスト実況にも集中出来るでしょ?」


 おぉ、なんという有難いお言葉。僕がテスト実況に勤しめるように配慮して頂けるなんて、感謝感激ですよ。


 そういえば、三琴君のテストのことをすっかり忘れていましたね。今の三琴君はどんな様子なんでしょうか。

 現在、テスト終了まで残り10分。三琴君はすでに筆記用具を置いて、うつ伏せになっているご様子。余裕の構えですね。流石です。

 一方、前方の渉少年は、あ、コチラも動きが止まってますが、コレは余裕という意味ではなく、どうやら、魂が抜けていますね。


「ふぅ、1時限目は何事も起きなかったか」


 どうも、三琴君。テストの状況は如何ですか?


「うわっ。夏水。お前、モニタリングで監視していたんじゃないのか?」


 おや? 僕がモニタリングで忙しくて来ないと思ってました? 残念でしたー。ちゃんと、三琴君が暇そうなときはやってくるのが僕なのですよ。


「暇じゃないし、来なくていいし」


 まあまあそんなこと言わないで下さい、三琴君。テスト、応援していますよ。


「応援なら、渉にしてやれよ」


 そう言って渉少年の旋毛を人差し指でぎゅむと押さえる三琴君。渉少年は、ぐえっと声をだします。

 モニタリングしていましたが、渉少年はきっと一夜漬けを折角やったのに当日でキレイさっぱり記憶から飛ぶタイプだと思いますね。


「え、なんで分かったの!?」


 あの放心具合からみてすぐに分かりましたよ。一夜漬けもいいですが、忘れないように、日々の暗記も大事だと思いますよ。

 おっと、そろそろ次のテストが始まる時間になりますね。僕は再びモニタリング作業に戻りますよ。

 三琴君、例の監視は僕と副部長、山菊先輩の三人体制で行っているので安心してください。今のところ、目立った行動はしないないですよ。


「わかった。もし、万が一のときはちゃんと押すんだぞ」


 分かっていますって。では、お互いに健闘を祈ります。



【次回予告】

テストと謎の物体の監視は2時限目に突入。

三琴君のクラスの試験は英語みたいですねー。

そして、学園をのさばっている透明な影。

いったい、どうなってしまうのか?

次回もでりんぐ!!第23工程。心して待て。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る