第21工程 「語り部の仕事、増えるぞ」

「山吹、それは本当か?」


 職員室。亀山先生に校門にいた謎の生物について三琴君が説明します。


「はい、この眼でちゃんと見ました。なぁ、夏水」


 はい。僕もその場所だけ背景が歪んでいるような物体を見ました。結構、範囲広かったですよ?


「襲来予測は出ていないんだが、警戒用の人工衛星も気づかないような特殊な何かで来たのだろうか……。しかし、そうなると、テストを中止して、学生を避難させないといけなくなる」


 ええっ。テスト中止ですか! それは困ります。僕が折角別室でモニタリング実況しようと思っていたのに。


「いや、テストは続行させましょう」


 ここで、三琴君が先生に意見を言いました。


「続行させる? どういうことだ?」

「校門にいた奴らは、わざわざ姿を見えなくしていた。つまり、自分達が完全に姿を隠していると思っている。それなのに、テストを中止にして、生徒を避難なんてさせたら、相手に姿が気づかれたということを察知され、攻撃を開始される可能性があるんじゃないかと思うんです」


 さらに、三琴君は話を続けます。


「そこで、テストはいつも通り行って、相手方に俺達が全く気づいてないように装うんです。相手の出方を伺いましょう。もし、奇襲目的なら、警報を鳴らせばいいんですよ。夏水が」


 あー、はいはい、なるほど……って、僕がサイレン鳴らす役なんですか!?


「当たり前だろ。別室でモニタリングするということは、どうせモデリング部の司令室から行うつもりだったんだろ? あそこには、全教室に設置してある監視カメラの映像が見れるし、実況しながら、奴らの動向を見張れば、語り部の仕事、増えるぞ」


 え、三琴君。今、なんと仰いましたか!


「語り部の仕事、増えるぞ」


 そう仰っていただけるのなら、やりますとも、サイレンの一つや二つ、押すのなんて、お安い御用ですよ!


「いや、サイレンを鳴らすのは何かあった時の最終手段だからな。いいか、それ以外は絶対に押すなよ?」


 何やら、三琴君が芸人みたいなことを言っていますね。押すなって言われたら押せって先生に習ったんですが、


「どんな授業でだよ。とにかく、最終手段だからな」


 はい、分かりました。


「ということで、先生。このままテストは続行ということで、お願いします」

「あぁ、いいだろう。周りの先生たちにも極秘で伝えておく。あと、モデリング部のメンバーにも、一応準備だけはしておくように伝えておくよ」


「先生、ありがとうございます。これで、俺の夏休みの日数は守られたも同然です」


 三琴君。実は夏休みの日数、結構気にしていたんですね。


「当たり前だろ。夏休みが減らされたら、泣くぞ」



 さてさて、謎の物体の動向を伺いつつ、テストが始まりました。

 僕は現在、モデリング部の司令室から、テスト風景をモニタリングしております。

 そんな僕の手元には、三琴君のテストの日程表と、1日目のテスト問題が勢ぞろいしております。

 え? どうやって入手したかって?

 フフフ、大人の事情って奴ですよ。実況する為にも必要ですし、


 1限目は世界史みたいですねぇー。テスト範囲はルネサンス期の西洋史ですか、ここら辺はテストに出てくる人物が山ほどいるので、なかなか覚えるのが大変じゃないのでしょうかねぇ? 問題用紙を見ていますが、人物当ての問題結構ありますねぇ。この人、一体誰だ?っていう人もちらほら……。


 あぁ、謎の物体の動向も伺わないといけないのに、テストの実況なんてしていたら、僕の2つの目じゃ、とてもじゃないけど、追えません。

 こんな時に、眼が4つぐらいに増殖しないかなぁと考えますけど、なんだか想像したら気持ち悪い生き物になってしまいますね。


「おやおや、お困りのようだね?」


 おっ、その声は、

 司令室の入り口に立っていたのは、静流副部長でした。

 副部長さん、こんな僕に助け舟を出していただけるのですか! なんと、お優しい。


「やっほー、語り部君が困っているって聞いて」


 副部長の背後から、山菊先輩も出てきました。

 おー、二人で手伝ってくれるとはなんとも心強いです。

 ところで、お二人さん。テストはどうしたんですか?


「前にも言ったけど、三年生の美術科学生は課題だけだから、テストは参加自由なんだよ。本当は三年全員で手伝おうかと思ったんだけど、カズ君はいろいろと忙しいから、僕達二人だけだけど」


 二人でも大変嬉しいです。ありがとうございます。


 とりあえず、僕はテスト実況をしつつ、真ん中のモニター群の監視をするので、お二人さんは左右のモニター群の監視をお願いします。


「それでも、結構見る箇所あるねぇ」


 そうなんですよねぇ……。全部で48台もモニターありますから、目もどんどん疲れてきちゃいます。


「そうだよねぇー。あ、ウミくん、ウミくん。例のヤツを使えばいいんじゃない?」


 山菊先輩は副部長さんに耳打ちをします。


「あー、アレを使えば楽だね。。ちょっと待ってて」


 そう言って、副部長さんはモデリング部の作業室へと入っていきました。


 数分後、副部長が持ってきたものは、とんでもないものでした。



【次回予告】

副部長の持ってきたもの、それに僕は驚いてしまいます。

その、驚きのものとは。

そして、僕達三人で謎の生き物の監視は出来るのか。

次回、もでりんぐ!!をお楽しみに!

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