第18工程 衛生兵! 衛生兵!
その部屋には、疲れきって倒れていた兵どもが居た。
先ほどまであんなにはしゃいでいた彼らがどうしてこんなに疲れきっているのか、
まさか、襲来者がやって来たのだろうか……。
「いやいや、十中八九、夏水の変な思いつきのせいだろ!」
兵の一人、三琴君が肩で息をしながら僕に言いますが、そうでしたっけ?
果たして、真実とは。さぁ、時計を30分ほど巻き戻してみましょうか?
***
さぁ! 全国、1億……そんぐらい人のモデリング部ファンの皆さん、大変お待たせいたしましたぁー!
モデリング部、一番戦術に優れている男子は一体誰だっ! 茶山陣学園杯、第一回まくら投げ大会を開催したいと思います! わー、パチパチー。
「なんだこの茶番」
おっと、茶山陣学園指定ジャージ姿の三琴君が何か言いたげですが、放っておきましょう。大会進行兼実況はもちろん、もでりんぐ!!語り部担当の夏水聡がお送りしますー!
解説は、モデリング部女性陣である、山菊先輩と宮前妹のお二方です。
「どうもー」
「よっろしくー!」
さてさて、ルール説明ですが、この大会は個人戦で行われる、単純に唯の枕投げです。
しかぁしぃ! 単に枕を投げても面白くありません。ここは、侵略してこようとする宇宙人を食い止めるというモデリング部の役割に則って、枕投げの戦術が一番上手い人を優勝とするという画期的な企画なのです。
皆さん、精々、己の考えうる戦術を編み出してくださいねぇー。
「夏水のやつ、急に上から目線になってきたなぁ……」
こういう機会は滅多に無いですからね! バシバシ注文つけちゃいますよ。
「語り部君の心に焚き付けちゃったみたいだねぇ、でも、これも部活の一環だと思えばやらなくちゃねぇ。海斗、負けないからね」
「学問ではカズ君に敵わないけど、それ以外なら競ってもいいかな?」
さぁさぁ、部長、副部長がお互いに見つめあっている! 山菊先輩、いかがですか?
「いい……、非常にいいですね。男の熱い友情。レベル高いですよー」
山菊先輩の太鼓判をもらったことですし、早速試合と参りましょうか。
時間は今から30分間。かっこよく戦術を繰り出した人の勝ちとなります。
「その審査は誰がするんだよ」
三琴君、良くぞ聞いてくれました! 審査は、僕と解説二人の独断と偏見で決めようと思っています。
「偏見と言っている時点で出来レースじゃねぇか!」
三琴君の言うとおり。そうですね、少なくとも、塩原君の勝ちはまずないでしょうねぇ。なんたって、味方が居ませんから!
「俺、始めから不戦敗かよ、ふざけんな!」
塩原君は他の人が勝たないように、お邪魔虫的な役割をしてくださって構いませんよ。それか、宇宙人の役とか。
後者は思いっきりフルボッコにされかねないので、お気をつけ下さい。
さぁて、それでは、張り切って参りましょう! 己の技術をかけた、枕投げの開・幕です!
「こういう時は先制攻撃が有利なんだよー」
「へぶしっ!」
宮前兄のまるで打ち込むような枕が塩原君の顔面に直撃! あまりの枕の勢いに、塩原君はそのまま倒れこんでしまったー!
「おのれ、桔梗めっ! 許すまじ!」
復讐心に燃えた塩原君は、枕を手に取り、宮前兄に向かって枕を投げ返しますが、おおっと!? コントロールが狂ったかぁ! 投げられた枕は三琴君の方向へと向かっていく。
三琴君は、一体どういった技を見せてくれるのか!
「フッ、そんなヘロヘロな攻撃じゃ、俺には勝てないへぶっ」
塩原君から投げられた枕を一回転しながらキャッチしたと思いきや、なんと、宮前兄からの第二派が待っていたー!
その攻撃をまぁ見事にくらった三琴君は、先ほどの塩原君と同じ様に倒れこんでしまったぞぉ。
「フフフ、敵の攻撃は一度限りではないんだぞー。覚えておいてくれたまえー」
ムカつくくらい、天狗になっている宮前兄の攻撃を食い止める人間は居ないのかー!
「止められるかどうか分からないけど、そろそろ先輩の威厳をみせないとダメかなぁ?」
楓原部長はポンポンと枕を叩きながら、宮前兄と対峙します。
「先輩と言っても容赦はしませんよぉ。パシリ部長」
「んー、その称号は亀山先生の前だけにしたいんだけどなぁー」
宮前兄の精神攻撃に、部長はタジタジだぁー!
「精神攻撃は基本でしょ!」
「そんな事言ってもいいのかなぁ?」
楓原部長の不敵な笑みに何かを察知した宮前兄。いきなり背後を振り返った!
「遅いよ」
いつの間にか、宮前兄の背後には静流副部長が枕を持って立っていたー。
「えいっ!」
静流副部長は、枕を宮前兄にぐいっと押し付けます。宮前兄は『ふぐっ』と息苦しそうな声を発します。
「海斗、あまり強くしちゃうと、桔梗君が息出来なくなっちゃう」
「お兄ちゃん、まだまだだなぁー」
ジタバタする宮前兄を見てオロオロしてる部長。その様子を見て、やれやれと呆れている宮前妹。一方の山菊先輩は……、
あれ? 山菊先輩が先ほどから静かなんですけど……、ん?
なんと、鼻血を出して先輩が気絶している! もしかして、先輩の脳内のキャパをオーバーしてしまったのか!
「朕は幸せナリ」
一人称までおかしくなったぞー! 大変だ、衛生兵! 衛生兵!
「衛生兵なんて居るわけないだろ! これでも、食らえ!」
三琴君はツッコミの意味で、僕に枕を投げつけてきます。
しかし、僕に枕の攻撃が届くわけありませーん。
お忘れですか? 僕には攻撃が効かないんですよー。通称、語り部ガードです。
「ドヤ顔でいう事か!」
ドヤ顔でいう事ですよ。もちろん。ニヤニヤ。
僕に呆れ果てた三琴君は、塩原君へ枕を使って往復ビンタを始めた。もしかして、これは……、八つ当たりだぁぁぁああ!
「なんで、俺で八つ当たりするんだよ!」
「ムカついているに決まってんだろ!」
三琴君は一応先輩にあたる塩原君に向かって容赦ないタメ口。あー、これは、よっぽどムカついていますね。
いやぁ、枕投げ白熱してきましたね。只今、開始してから15分経過していますが、各々が戦術を駆使して戦っていて面白いですねぇー。
でも、少しばかり暴れすぎですかねぇ? このまま暴れ続けてたら……、
そんな事を僕が考えていると、いきなり大広間の襖が開けられました。
現れたのは、亀山先生。しかし、何やら目がいつに無く怖いですねぇ。
「お前ら……」
襖を今にも破壊しそうなくらい強く握り締めて、先生は息を大きく吸います。
「ちょっとは大人しくしろーーーーー!」
先生の怒鳴り声はまるで学園中に響き渡るかの様な通りの良い声でした。
全員、亀山先生に10分ほど説教をくらって今に至るのであります。
いやぁ、でも、枕投げ楽しかったですねぇ。僕、久々に大興奮しましたよ。
「無駄に汗をかいただけだ、あー、汗を洗い流してこよ」
気だるそうに起きた三琴君は、合宿場の浴場へと歩いていきました。
【次回予告??】
さぁて、三琴君のサービスカットでも、実況しましょうかねぇ?
ゲヘヘ、これで僕の株も大きくアップするってもんd……
む、何処かから殺気がっ。
げ、三琴君。いつから僕の話を聞いていたのですが、
それは、三叉槍! い、いや、冗談ですって。そんな覗きをしようとした訳j
ギャーーーーー!
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