第16工程 「そうそう、しっげきてきぃ!」

「突然だが、中間考査も近いことだし、今週末、合宿しようと思う」


 部活が始まって開口一番に亀山先生が言い放った一言に、部室中に衝撃が走ります。

 本当にいきなりのことで、部員達はぽかんと口を開いたままです。


「いや、本当にいきなり過ぎるでしょう。中間が近いなら、部活を無しにして家で勉強させてくださいよ」


 三琴君の冷静なツッコミに、部員達も頷きます。


「何を寝ぼけたことを言っているんだ、この部は政府の防衛機関でもあるんだぞ。簡単に休止にさせてたまるか。それに、テスト期間だから合宿をするんだよ」


 ニヤリと何やら企んでいる様子の先生。三琴君は“嫌な予感しかしない”と言いたげな様子です。

 一体、先生にどんな意図があるのでしょうか?


「いいかお前ら、どんなに必死こいてテスト勉強してもな……」


 先生は、息を大きく吸い込みます。


「襲来警報が鳴ったら、その日のテストは中止だからな! 一夜漬けしようと思っても無駄だからな!」


 先生の一言に、部員達にまた衝撃が走ります。落雷に打たれたかのように。


「そ、そうだった!!」


 そうなのです、いくらテスト勉強をしたとしても、襲来警報が鳴ってしまえば、避難しないとならず、その日のテストは中止になってしまいます。

 ちなみに、避難しているときに問題を持って行けば覚えられると考える方も、いらっしゃるかもしれませんが、受けていたテストの問題は作り直されるため、その日の問題用紙は覚えても無駄なのです。


「今のところ、地球へ襲来しようとしている宇宙人の存在は確認できていないが、いつ何時、攻めてくるかは分からないからな。そこで、モデリング部強化合宿兼、勉強会を開こうと思う。ちゃんと、学園の合宿場の許可も降りたしな」


 なんと!? この学園には合宿場まで併設されているのですか!!


「普段は運動部が大会前に使う、暑苦しい場所なんだけどねー」

「いいよね、筋肉と筋肉のぶつかり合い!」


 静流副部長の説明に割り込みで入ってくる、山菊先輩。なんか、先輩が言うと、全てが意味深に聞こえてしまうのは何故でしょうか。

 それにしても、そんなものまで用意されているとは、なんでもありですね、この学校。


「無駄に広い学校だからな。無いモノはATMくらいじゃないか? 小等部の時は、あまりにも広く感じて、冒険に行ったきり帰ってこない遭難者が絶えなかったな」


 三琴君は明日の方向を見ながら話します。もしかして、三琴君も迷子になったクチですか?


「違うし。俺は、捜索係っていう係活動で迷子になった奴を見つけにいく役割だったんだよ。今思えば、あの時は、平和だったなぁー。今じゃ、色々ありすぎて、目が廻るくらいだ」


 ちょっと呆れたような表情で笑う三琴君。


「目が廻るくらいちょうどいいよー、刺激的で」

「そうそう、しっげきてきぃ!」


 宮前兄妹は体をクネクネさせながら、三琴君に指差して笑います。

 宮前兄妹の場合の刺激的の意味は、劇物級というか猛毒だと思います。個人的に。触っても神経毒でやられてしまうくらいのキツイ奴。

 でも、まぁ、目が廻るくらいのハチャメチャの方が学園生活楽しいと思いますよ。そっちの方が僕の仕事が沢山ありますから!


「今すぐ夏水をこっちに引きずり込みたい気分になってきた」


 ダメですって。僕なんて、このお話には相応しくないんですから。


「毎回思ったけど、夏水ってさ……」

「はいはい、お前ら余計なお喋りはそこまでにしろー。ということで、持ってくるものは各自考えて持って来いよ。勉強会も兼ねているのだから、勉強道具も忘れんなよー。金曜日の放課後、合宿場へ集合だ。はい、ミーティング終わり!」


 先生はそう言って部室を出て行きました。


「さてと、パンダゾンビの試運転でもしようかなぁ。部長、何処かで試運転できるところありますか?」


 んーっと背伸びをする三琴君。昨日のアレ、試しちゃうんですか。


「それなら、司令室の奥に性能テスト室があるから使うといいよ。コントローラーもその部屋においてある奴を使ってねー」

「はーい」


 部長さんは、何やら山ほどの紙の束を整理しながら答えます。しかしながら、結構量が半端ないですねぇ。モデリング部関連の奴ですか?


「いや、今度個展を開くんだけど、ソレに出すモノを選んでいるんだよ」


 部長はまたもや、コチラには目を合わさず、紙の束と睨めっこしながら答えます。

 あの美少女フィギュア達の個展を開くんですか!? それは、ニッチなファンが沢山来そうですねぇ。是非、その時は実況をさせてください。


「いいけど、山吹君放っておいていいの? 彼、テスト室へもう向かっちゃったけど?」


 部長が指差す方向を見ると、三琴君が居ない!?

 もう、三琴君ったら、すぐに僕を置いていってしまうんだから。僕は寂しいと死んでしまう繊細な人なんですよ!


「聡っち、兎さんなの!?」

「ウサギウサギ!!」


 おっと、宮前兄妹が興味を示し始めましたね、厄介な絡み方される前に、僕はテスト室へと向かいます。



「コレでいいかな?」


 性能テスト室。三琴君は中央に昨日出来たゾンビパンダを5体ほど置き、コントローラーを耳付近へ装着します。すると、パンダゾンビが気だるそうにムクリと動きます。

 それと同時に、天井から何やらファンシーな宇宙人らしきクッションが降って、中央に着地します。

 どうやら、この“くんにゃり”としたクッションがターゲットみたいですね。


「夏水、Zパンダの恐ろしさを心に刻むがいい」


 そういう三琴君の目の色は完全にダークサイドに落ちたような人です。要するに、怖いということです。

 あー、また変なスイッチ入っちゃいましたねぇ。コレじゃ、三琴君が悪者っぽく見えてしまいますね。

 パンダゾンビは中央のターゲットに向かって飛び掛り、唸り声を出しながら、クッションに噛み付き、引きちぎります。


「アーハッハッハ! 喰らえ喰らえ! 残らず喰らいつくせ!」


 高笑いをする三琴君がラスボスにしか見えないのは僕の気のせいでしょうか?

 パンダゾンビに襲われたターゲットは、見事なまでにボロボロになってしまっていました。このパンダ達がもし、人間に襲い掛かるとなると、想像するだけでゾッとします。


「なかなか、複数操作をするのは脳みそを使うな」


 一段落終わって、正気に戻った三琴君がコントローラーを外します。


「正気に戻ったとはなんだ、俺は元から正気だぞ」


 三琴君のその言葉が僕にとって、衝撃だったかもしれません。



【次回予告!】

モデリング部の合宿兼勉強会がいよいよ開催。

しかし、そこに待ち受けていたのは、襲来者? それとも……?

無事に部員は合宿を完遂することが出来るのか!?

次回、もでりんぐ!!第17工程。須く、見よ!

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