第15工程 「若いうちは謙遜なんてもんすんじゃねぇよ。素直に喜んどけ」

 コチラ、現場の夏水です。今、三琴君と菜音さんのお二人が校門を出ました。

 おーっと、何やら、会話が弾んでいる。どんな会話が展開されているのか気になりますが、二人の邪魔にならない場所でこうして実況を行っています。

 これから、どうやら二人は喫茶店へと向かうようですね。さぁて、どんなデートになるのか楽しみです。


「だーかーら、デートじゃねぇって言ってるだろ」


 僕の声が聞こえたのか、三琴君が大声でツッコんできますが、その声にビックリして、周囲が三琴君のことを見てくるのでありましたー。



 茶山陣学園から徒歩5分ほどのところにある、喫茶【ミラージュ・イスト】。二人はそこの店内へと入りました。


「こんにちはー」

「おー。山吹んとこのボウズじゃねぇか。いらっしゃい」


 店内に入ると、強面のマスターがカップを布巾で磨いていました。

 マスターの名前は、佐久間源三さん。年齢は男の秘密。

 まるで、何処かの殺し屋を彷彿とさせる鋭い眼光は、防犯の役割を担っているそうです。巷の噂では、昔、裏社会でブイブイ言わしていたとかなんとか。


「ハッハッハ。それは、大した噂だなぁ。ところで、今日は何にするんだ、三琴」

「いつものやつ、2つ下さい」

「はいよ。好きな席に座って待ってろ」


 マスターに言われ、三琴君達はカウンター席へと座りました。


「三琴。そういえば、聞いたぞ。おめぇさん、この間はエライ大活躍したそうじゃないか」


 マスターが作業をしながら、三琴君に尋ねます。


「別に、活躍したってほどじゃ無いけど」

「菜音ちゃんをピンチから救ったって言うじゃねぇか。皆、そのことで、持ちきりだぞ。あと、若いうちは謙遜なんてもんすんじゃねぇよ。素直に喜んどけ」

「はぁ……」


 マスターの言葉に、三琴君はタジタジの模様。


「あいよ。特製パンダパンケーキだ」


 マスターが三琴君と菜音さんに出したのは、お皿いっぱいな位、大きいパンダの顔の焼印が押されている、パンケーキ。

 ここでもまたパンダですか……。


「三琴に作ってくれと頼まれたことがあってな。試しに作ってみたら、今じゃ、ココの人気の裏メニューになっちまったもんだよ。二人とも、今日は俺の奢りだ、気にせず食べな」


 なんと、マスターから奢り宣言。太っ腹ですね。


「あったぼうよ。最近は、襲来があるもんだから商売があがったりなんだ。三琴がこの勢いで、次々と宇宙人を追っ払ってくれるように、精を付けてもらわないとな。ガッハッハ」


 そう、マスターが豪快に笑いました。


「それにしても、このパンケーキ大きいね。可愛い」

「だろ? ちゃんとそこもこだわったんだよ」


 さすが三琴君プロデュースのパンダパンケーキ。力の入れ方が違います。

 そのパンケーキを暫し見つめて、何やら菜音さんが思いついたらしく、パンケーキをナイフで一口大に切り、


「はい、三琴君、あーん」


 ……なんと、その一口大に切ったパンケーキを三琴君の口元へと持っていったぁぁぁぁああああ!!!!


「え? しないとダメか?」

「一回やってみたかったんだー。折角だから、あーんしてくれると嬉しいな」

「……あーん」


 三琴君は、口を大きく開けて、菜音さんから差し出されたパンケーキを口へと運びます。

 三琴君、美味しいですか?


「美味しい」


 そりゃ、美味しいでしょうねぇ。なんたって、女の子からあーんさせて貰ったんですものね。何百倍も美味しいでしょうねぇ!!!


「夏水、何拗ねてるんだよ」


 別にぃ? 拗ねてませんし、二人が甘々な青春しているのだなんて、別に羨ましくもありませんし。


「……、羨ましいんだな」

「カーッ! 青春だねぇ。俺の昔の頃を思い出すじゃねぇか。でもよぉ、宇宙人にもし侵略されてでもしてみろ、こんな青春も出来なくなるかもしれないんだから、三琴、気ぃ引き締めて頑張るんだぞぉ」

「んー、あまりノリ気じゃないんだよなぁ……正直なところ」


 三琴君は、そう言ってカフェオレを啜ります。


「え、どういうことなの?」

「んー、入部したとはいえ、俺に宇宙人を倒せるような技術が備わっているとは思ってないし、それに……」


 それに?


「俺自身があの部で何が出来るんだろうって、そう思うんだよねぇ。本心では」


 ため息をつく三琴君は何処か寂しげな顔をしていました。


「そんな事無い。三琴君の作るパンダとか可愛いもん。絶対、活躍出来るって!」


 菜音さんは、そんな三琴君を励まそうと、微笑みかけます。


「それが、最近までモデリング部の入部を断り続けていた理由か?」

「それも一部あるかなぁ。あと、面倒くさいっていうのもあったけど」

「ガッハッハ! こりゃ傑作だ」


 またもや、マスターは豪快に笑い出します。

 というか、三琴君がモデリング部から逃げ続けているの、ご存知なんですね。マスターさんは。


「コイツから何度も聞かされているからな。というか、何が出来るんだろうって? そんなの、入ってから見つけていけば良いじゃねぇか。少なくとも、部はお前の能力をかったから入部させたんだ。それくらいは誇りに思ってもいいんじゃないか?」


 確かに、マスターの言うとおりですよ、三琴君。これから、ソレを見つけていくのも大事だと思いますよ。


「そこにいる、ボウズも言ってるじゃねぇか。お前の物語は今始まったばっかりなんだ。シャッキリしろ。待ってろ、気合注入のラテアートを作ってやる」


 そう言って、マスターから三琴君へ差し出されたのは、パンダが『元気注入』と言っているラテアートでした。

 これにより、三琴君のテンションがうなぎ上りしたのは言うまでもありません。



「パンケーキ美味しかったね」

「そうだな」


 喫茶店から出て、菜音さんの自宅前に至るまで、そりゃ、甘々トークが展開された訳ですが、諸事情により割愛させて頂きます。

 説明したら、僕の胃が耐え切れないので。

 そんなこんなで、菜音さんを自宅前まで送ってあげる三琴君。


「今日はいきなりつき合わせちゃってゴメンね」

「いや、教室が違うからな。約束取りにくいもんな。また、用事があれば遠慮なく言えよ」

「うん、ありがと。あと、この間、助けてくれて本当にありがとうね。えっとね……」


 菜音さんはなにやらモジモジとしています。


「ん?どうした?」

「ううん、なんでもない。じゃあ、また明日ね」

「おう。ゆっくり休めよ」


 二人は互いに手を振り、菜音さんは自宅へと帰っていきました。

 いやぁ、青春でしたねぇ。見ているこっちのほうが恥ずかしい気持ちになってしまいましたよ。


「嫌なら見なきゃいいのに」


 ダメですって、僕には全てを見て語る責務があるのですから。


「なんだそれ」


 僕とそんな他愛も無いやりとりをしつつ、三琴君も帰路へとつくのでした。




【次回予告】

甘々デートの翌日。何やら先生から重大告知がある模様。

その発表に戦慄するモデリング部。

果たして、一体何が告げられるのか!

次回モデリング第16工程をチェックだ!

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