第14工程 「俺たち兄妹は二人揃えば無敵なのだー」
三琴君が作業部屋に篭もって、一時間が経過しました。
他の皆さんはというと、作戦会議は終了して、各々の作業に没頭している最中でございます。いやぁ、静かだから、作業が捗りますね。
僕は、今、三琴君がどんなことをやっているのか気になって仕方がないんですけど、邪魔したらコロスといわれていますからねぇ……。どうしたものやら。
「じゃあ、私達が見に行って来ようかー?」
宮前兄妹が二人そろって立ち上がります。
え、様子を見てきてくれるのですか? 何をされるか分かりませんよ?
「だぁいじょうぶだって。俺たち兄妹は二人揃えば無敵なのだー」
「なのだー。シャキーン」
兄妹仲良く、戦隊ヒーローのような決めポーズ取ります。本当に大丈夫なんでしょうか?
「じゃあ、行って来るねー」
僕にヒラヒラと手を振って、ルンルンとハミングを口ずさみつつ、作業部屋へと入っていく宮前兄妹。
5分後、兄妹がガタガタと震えながら帰ってきました。
お二方のこの様子、ただ事では無さそうですねぇ。一体、どうしたんですか? 三琴君、何してました?
「ぱ……」
ぱ?
「パンダ絶対王政が……」
パンダ絶対王政? 一体どういう意味でしょう?
「パンダ絶対王政が築かれていたよ、トラウマレベルの」
何ですか、ソレ。余計気になるじゃないですか!!
「そして、騒いでたら追い出されたのだー。ぐすん」
嗚呼、覗いて実況中継したい、でも、覗いたら殺される。僕はどうしたらいいんだ!
「あのぅ、すいません」
僕が、苦悩で悶絶しているところに、学園のマドンナ的存在、菜音さんの姿が見えました。
「ここって、モデリング部であってますか? ノックしたんですけど、誰も出てこないんで、勝手に入っちゃいました」
彼女はキョロキョロと辺りを見回しながら、尋ねます。
「そうですよ。何か御用でしょうか?」
楓原部長がすばやく対応します。
「良かった。間違えていたらどうしようかと内心思っていました。えっと、山吹三琴君って、まだ部室に残っていますか? 一緒に下校しようと思って」
「まだ、部室にいるんですけどねぇ……。ちょっと、立て込んでいて。一応呼んでみますけど、出てこなかったらすいません」
「あ、いいえ。忙しかったらいいんです。私が約束もせずに勝手にやって来たことですから」
菜音さんはそう言って、少し寂しそうな表情を浮かべます。
あ、そうだ。僕、良い事を思いつきました。菜音さんが作業部屋に入っていけばいいんですよ。
「え、私がですか?」
不思議そうに自らを指差す菜音さん。そうです。菜音さんが中に入っても、恐らく三琴君は、怒ったりしないと思いますし、何より、僕が中の状況を実況出来るのですから、一石二鳥なのです!
「はぁ……」
さぁ、菜音さん、そこの扉を開いてください! さぁ!
僕に促されるがまま、菜音さんが作業部屋の扉を開けます。
そして、そこに広がっていた光景は……、
何処かのB級ホラー映画に出てきそうな、ゾンビ化したパンダ。その数20ほど。
この作業部屋自体が異空間と化したと錯覚しそうな、異様な雰囲気の中、ゾンビパンダを作り出した本人はというと、
「クッヒェッヒェ。燃やせ燃やせ。パンダファイヤーによって、宇宙人を殲滅するのじゃ……」
……もう、直視できないくらい、パンダに陶酔しちゃっています。というか、このゾンビパンダ、良く見ると恐ろしいくらいに……、
「可愛い!」
え。
菜音さんから放たれた可愛いの一言に、僕の気持ちはドン引きです。
この人も、三琴君と同じ感性の持ち主ですかっ! もしかして。
「あれ、菜音。どうして、ここに」
先ほどの菜音さんの一言で正気に戻ったらしいですね、三琴君。菜音さんが三琴君と一緒に帰りたいらしいので、中に招いた次第ですよ。
「この間のお礼も言いたいと思ったの。私、あの後休んじゃって、お礼を言わず仕舞いだったから。ダメかな?」
「家が近所なんだから、直接言ってくればいいのに。というか、お礼されるほどのことなんてしてないからなぁ」
そう三琴君は、照れくさそうに頭を掻きます。
「ちょっと、家に行くのは恥ずかしくて」
菜音さんは、頬を紅潮させます。
な、なんですか、この甘酸っぱい空間は! 見ているこっちが恥ずかしくなってしまいます。コレが、俗に言うリア充ってやつですか!
「夏水、煩い。まぁ、菜音がわざわざ来て、断るのは気が引ける。いいよ、一緒に帰ろう」
「ホント!! 嬉しい。三琴君ありがとう」
菜音さんは屈託の無い笑みを浮かべます。可愛いですねぇ、学園のマドンナというのも頷けるような気がします。
「そうだ、下校ついでに、前言ってた喫茶店でも行くか? パンケーキのところ」
「え、本当!? 行く行く!」
「じゃあ、決まりな。帰る準備するから、部室の前で待っといて」
「分かった」
菜音さんは、嬉しそうにパタパタと作業部屋から出て行きました。
待って下さい。この流れ、もしかして……。
“ デ ー ト ”って奴じゃないですか?
「なっ、な訳ないだろ」
そういう三琴君の顔は真っ赤なりんごのようでした。
三琴君、見かけによらず、ウブなんですね、コレは、いい発見をしました。ニシシ。
【次回予告!】
三琴君、初デートへ行くの巻。
え、まだ付き合ってもないって? またまたぁ、ご冗談を。
アレだけの特殊な感性を持っているお二人さんですもの、相性が合わない訳がない。
次回、どんな甘酸っぱい空間が待ち受けるのか!
もでりんぐ!!第15工程、乞うご期待!
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