黒家の者たち

兵たちの様子を見るため、城の入口に来た雷炎と守護騎士の2人。

サクラが守備の状況を聞こうと、一人の兵に声をかけようとしたその時だった。



「九十九、サクラ・・・。



――来るぞ。」



雷炎がそう呟いた時、

兵たちが張っていた結界に亀裂が入った。

それと同時に、別方向から強い衝撃を受けた結界は、いとも簡単に壊れた。



「リアの力を使っておいて、こんなもんか?



――なあ、・・・雷榎」



「いえ、そんなことはありませんよ。



カルラさん」



漆黒の髪に端正な顔立ち。

雷炎とは違い、黒いマントを身に纏い、胸元には黒家を示す家紋があしらわれている。


そして何よりも恐れるべきは、王である雷炎と同等の力を持つ者であることだった。



「おいおい、海翔はどうしたんだァ?

あいつがいねぇとつまんねぇだろうが」


「その代わり、と言っちゃなんだけど、僕が君の相手をするよ。

よろしく、ゼリア」



カルラと呼ばれる男の後ろから現れたのは、騎士服を着た、藍色の髪の男だった。

つりあがった目は赤く、心から戦闘を楽しんでいるようにすら感じられる。



「おっ、てめぇは守護騎士の隊長さんじゃねぇか。

・・・でも、てめぇじゃ俺には役不足だぜ?


なぁ、ミカロ」



ゼリアは上を見上げながらもう一人の名前を呼ぶ。

その声に応えるかのように、空から男が舞い降りる。



「海翔がいないなら、僕必要ないじゃん」



ゼリアと同じ藍色の髪に、深緑の瞳。

声や態度からも、やる気のなさが感じられた。



「ちょっと。

ケンカしに来たわけじゃないんだから、少しは大人しくしていてよね。

これだから、バカは嫌い」



入口の兵たちを一掃してからやってきた女は、着いてそうそうにゼリアとミカロに対し嫌味を口にする。

そんな彼女を待っていたかのように、サクラは九十九の隣に並び、女に話しかけた。



「それだと、あなたはバカではないように聞こえるけど?」


「・・・サクラ」


「バカとバカが張り合っても無駄よ?


フェル」



サクラの淡い赤色とフェルの紫の瞳が、お互いを映し出す。

一触即発の雰囲気の中、最初に仕掛けたのは王たちだった。








「「【Krone《クローネ》】!!」」






カルラと雷炎が同時に発した言葉は同じもの。


2人の言の葉に応え、騎士たちの【エルツ】が呼応する。

それぞれの輝きを放つ【エルツ】を帯刀状態の【Schwert《シュヴェルト》】へ同化させていく。



「さぁ、暴れてやるぜ!!」


「煩い」


「絶対負けない!」



「相手をするのは僕なんだけどなあ・・」


「2人相手だからって、逃げないで下さいよ」



光が収束していく中、彼らは自身の【シュヴェルト】を鞘から解放させる。





こううして月蝕の中、彼らの戦いは幕を開けたのだった。

















「・・・あの、海翔さん」


「ん?」



日も暮れ、城下の宿に泊まろうと言った海翔さんに押し切られ、2人は今宿屋で夜ご飯を食べていた時だった。

直接何かが聞こえたわけでも、周りで騒動になっているわけでもない。


――ただ、感じる。

何かが起こっている。


城で、何かが。



「やっぱり、帰りませんか?

王様にだって許可取ってないし、心配してるかも」


「王様には外出許可取ってある。

九十九にも言ってあるから問題ない。

・・・さっさと食べて、明日に備えて寝るぞ」



私の意見を聞いてはくれず、彼は席を立った。

まだ食事は残っている。



「でも、」


「今のお前にできることは、一つもない。

ただ守られる存在でしかないことを忘れるな」



それだけを言い残して、彼は部屋に戻って行った。



――その通りかもしれない・・・。


剣術が使えるわけでもない。

ましてこの国の事を全て知っているわけでもない。


何も知らないくせに、この違和感だけを頼りに動くのは危険だ。


動かない方がいいのかもしれない。

そう思う程、私の中の胸騒ぎが大きくなっていった。

私の中の何かが、城に戻れ、と訴えてくる。



ふと、『シュヴェルツ』でオーナーに貰った石のことを思い出した。

服のポケットから取り出すと、石は淡く、だけど確かに光っていた。



――「その石は君の心」



私はそれを再びポケットにしまい、店を出た。






城に戻るために。











「やっぱり出ていったか・・・」


俺は席を立った後、リーヴァが城に戻ると予想し、隠れることにした。

護衛という任務を任された以上、中途半端なことはしたくないし。

何より、彼女を死なせたくはなかった。


「雷炎が言った通りだったなー」


城を出る前、王からの伝言という形で九十九から彼女についていくつか注意を受けていた。

その中には、もちろん王からの言葉もあって。



――「はあ?あいつが城に戻ってくる?何のために?」


――「雷炎は、明日の事に気が付いて、だそうだよ」


――「黒家の襲撃か?

仮にそうだとしても、リーヴァが戻る理由はないだろ。

どう考えても足手まといにしかならないし」


――「念のために、だよ。

もしこっちに戻って来ても、護衛がいないと危険なだけだろ?」


――「・・・はぁ、わかった。見張っとくよ」


――「うん、頼んだ」



リーヴァが支度をしている間に聞かされた話。

王から直接あったわけじゃないから、重要度もそれほど高くないと思っていたが。


「まさか【エルツ】まで反応するとは、な」


正直、オーナーが【エルツ】を渡しただけでも驚いたんだ。

しかもすでに覚醒済みのものを。



【リュミエール】


意味は――――









「光は守んねえとな。


・・・そうだろ、リア」



天に語り掛けるように彼女の名を呟くと、まるで答えるかのように星が瞬いた。

それを見た俺は、リーヴァを追うべく、黒家と戦闘中の城へと向かった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る