儀式
武器屋を後にした私たちは、一度予定を変更し、姐さんと呼ばれている方のところへ向かうことにした。
だが・・・・・・
「はあ!?
どういうことだ!」
声を荒げる海翔さんの前には、オドオドとした青年が必死になって状況を説明していた。
今日は姐さんが不在だということ、それに加えて姫に関しての情報は一切やらないとのことだった。
「で、ですから・・・・・・」
「この際、今日に限っていないのはまだいい。
だが、姫に関しての情報を渡さないとは一体どういうつもりかって聞いてんだよ!」
青年は必死に謝るものの、理由を知ることのできない海翔さんの怒りが収まることもなく・・・、
「チッ・・・。
俺に何しろっていうんだ、あのババァ」
少しだけ、いやかなり口調が悪くなってきました。
「あのー、海翔さん?」
私がそっと呼びかけると、我に返ったのか、咳ばらいをして説明し始めた。
「・・・・・・ここにさっき言ってた、姐さんがいるんだ。
いつもは絶対に外に出たりしない根暗な奴なんだけど、今日に限っていないらしい。
・・・全く、とんだ無駄足じゃねえか」
ボソッと嫌味を言う彼に、私は気付いたことを口にした。
「仲、良いんですか?
その姐さん、って方と」
「・・・・・・・・・ああ。」
言いにくそうに返事した海翔さんは、話題を変えるように話し出した。
「お前の探し物に戻ろうぜ。
ここにいても、情報は入らねぇし」
青年に背を向け、海翔さんは歩き出した。
私もその後を追う。
この時、私の持つ【リュミエール】が淡い光を放っていたことに、誰一人として気が付くことはなかった。
その頃、城内部では守護騎士である九十九、サクラが騎士服に着替え、雷炎の前に跪いていた。
「「この命ある限り、我らはあなたに忠誠を誓う」」
来客や式典に使われる玉座のさらに奥。
王に許された者のみ、入ることの許される異空間。
5本の柱に囲われ、足元には術式が刻まれている。
王は中心に立ち、配下に手を差し伸べる。
配下はその手に、自らの命ともいえる【Erz《エルツ》】を差し出す。
王は【エルツ】に願いを込め、更なる力を彼らに与えるため、命を燃やしていくのだ。
願いを込めると、5本の柱からまばゆい光が、【エルツ】に集まり再び光を取り戻すのである。
文字通り、自身の命と引き換えにして――。
儀式の後、休む間もなく兵の様子を見に行くと言った王に、九十九とサクラは付き添っていた。
守護騎士、と銘打っているが、実のところ雑用係みたいなものであり、王を守るための職ではない。
だが、九十九もサクラも心配で王のそばにいることが多い。
・・・それはまるで本当の家族のように。
「王様、海翔いなくて平気?」
そっけない態度だったが、それでも己の王を気遣いサクラは声をかけた。
だが、返ってきた返事は到底納得できるものではなかった。
「海翔は今、リーヴァの護衛だ。
あいつがこの戦いに参加する心配はないよ」
無意識に舌打ちが出た。
そう、この王は自分の心配を周りにさせていることを知らない。
・・・・・・いや、知ろうとしないのだ。
「あっそ」
一体何度感じてきたんだろう。
自分がこれほど無力だと思うこの瞬間が、サクラは何よりも嫌いだった。
それでも守護騎士の誰かが欠けている時、つい王の心配をしてしまう。
――王は誰よりも、仲間を失うことに怯えていると思うから。
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