Schwarze

「城下に行っておいで。

きっと君にいいことがある」


見透かす目とは一転して、優しい笑顔で言う彼に私は何も返すことができなかったんだ。










「いらっしゃい。

今日はどうしたんです?旦那」


王である雷炎の命令通り、私は城下に来ていた。

そのため護衛役である海翔さんも、自然と隣にいる。



「いや、今日は俺じゃなくて彼女」


「こ、こんにちは」


そんな海翔さんに連れてきて貰ったのは、『Schwarze《シュヴェルツ》』というお店だった。


店頭に並ぶのは、雑貨などの女の子が喜びそうな物ばかり。

とても海翔さんが常連客だとは思えなかった。


だが、私の予想に反して海翔さんとオーナーは話を進めていく。


「そうだな・・・。

君にはこれかな?」


そう言って彼が出してきたのは、【Lumiere《リュミエール》】と書かれた石だった。


「これは・・・?」


オーナーから渡された石を掌で眺めながら、私は首を捻った。

海翔さんは、まずはここに行かねぇとな、と言ってこの店に入ったのだけど、何のお店かは教えてもらっていなかったのだ。



これが海翔さんの目的だったのだろうか・・・?




「へぇ・・・・・・」




隣から石を覗きこんだ海翔さんは、何かを悟ったように声をもらした。


私は海翔さんにこの石について聞こうとしたが、それはオーナーによって遮られてしまった。


「その石は君の心。

大切にしてくれよ」


どうやら何も教えてはくれないらしい。


私は掌に置かれた石を見つめ、これからの事について頭を巡らせた。















リーリアたちが『Schwarze《シュヴェルツ》』で過ごしている頃、城では白家の兵たちがバタバタと忙しく動き回っていた。


「力のない者は城の奥に避難させろ。

兵は【Stein《シュテイン》】を装備し、城の防壁を固めるんだ」


守護騎士団の隊長である九十九は、謂わば力の要となる役目を担っている。

そのため、緊急時において彼の声を無視する者などこの城にはいなかった。






全体の様子を見るために、九十九は城の中で最も高い位置まで上ることができる時計台に来ていた。


「様子はどうだ、九十九」


しかしそこには既に雷炎が来ていた。

そして九十九が来ることを知っていたかのように、彼は問う。


九十九は雷炎に驚くこともなく、淡々と状況を述べた。


「城の防御は固めたよ。

この城の何処で、いくら大丈夫」


「・・・なら、いい」


王は目の前に広がる国を見た。

自分が守らなくてはを確認するように。


「海翔がいない分、全体の勢力は落ちる。

だけどそれぐらいは、俺がカバーする」


独り言のように、決意のように。


「俺たちは、俺たちの守るもののために・・・」





――勝つんだ。






王があえて飲み込んだ言葉に、否を唱える者はここにはいなかった。

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