王様との対面

「、ということらしいぞ」



あれから数日。


私は九十九さんにより派遣してもらった医者にお世話になり、自力で歩けるまでに回復した。

怪我の痛みもほとんどなく、通常の生活には困らないほどまでになった。


そんな中、私の護衛として傍にいてくれるようになった海翔さんは、まるでお兄ちゃんのように私に接してくれた。


「ということって・・・どういうことですか?」


ここ数日で分かったこと。


それは彼がひどく口下手であることだった。



「だから、もう大丈夫だろうって王様が」


海翔さんと王様である雷炎さんのやり取りを直接見たことはないが、2人とも分かって話をしているのかと、疑いたくなる時がある。

王様はとても頭がいいみたいで、断片的に海翔さんに言う。

だけど、海翔さんは対して理解せずに彼の命令に対して頷くことが多々あるのだ。

通常なら九十九さんが仲介役になってまとめてくれるのだが、どうやら今日はなかったらしい。


「大丈夫って、私の体調ですよね・・・。

それを海翔さんに伝えた意味って・・・・・・・・・あ、」


そのため、海翔さんが受け取ってきた連絡を私が必死になって解読しているのだが。


「何か分かったか?」


「それを伝えるのが海翔さんの役目だと思うんですけど・・・」


はあ、とため息をついて私は王様の考えを彼に伝えた。


「たぶん、ですけど。

そろそろ城下に降りろって意味なんじゃないでしょうか?」


以前九十九さんからこれからの予定を聞いたときに、そう言われた気がする。

記憶を探すために、城下に降りろ。って王様が言ってたって。


「あー、だからか。

さっき出る前には一度顔出せ、と言われたんだった。」


やっぱり口下手ではなく、雑なだけかもしれない。










私はあらかじめ用意されていた服に着替え支度を整える。

お世話になっていた部屋のクローゼットを開ければ、私サイズの服が山ほど出てきたので少し驚きはしたが。


「うん、これでいいかな」


白家には使用人と呼ばれる人がいない。

王様が取り仕切っていることに変わりはないが、身の回りの世話をする者は一切置いていないらしい。

幸い、部屋にあった服も城下に行く用にと軽装な恰好にしたので、一人でも着替えることができた。


「おーい。

着替えすんだか?」


扉の外から呼びかけてくる海翔さんに、はーいと返事をして私も廊下に出た。


「お、似合ってるな」


嬉しそうに微笑む彼に、


「ありがとうございます」


そう言って私も微笑み返した。



「どう?リーヴァ、海翔」


「あ、九十九さん」


廊下から顔を出したのは九十九さんだった。

どうやら会議は終わったみたい。


「よかった。

雷炎の伝言はしっかり届いたようだね」


安心したよ、という九十九さんに海翔さんがえへんと胸を張るが、そこは九十九さんも分ったみたいで、


「どうせリーヴァが思い出したんだろ?」


とあっさり見破ってしまった。


海翔さんも焦った顔をするも、九十九さんはそれを無視して私を見た。


「海翔は城下の出身なんだ。

リーヴァの役に立つはずだよ」


笑顔で言う九十九さんに私もはい、と答えた。


「さて、じゃあ行こうか。


王様がお待ちだよ」







九十九さんを先頭に、私はお城の廊下を歩いていた。

今から行くのは王の執務室らしく、簡単には入れないよう少し細工がしてあるんだとか。

九十九さんや海翔さんと一緒じゃないとたどり着けない、といことだった。


たどり着いたのは大きな扉の前。

ここにあの人がいると思うと緊張した。


「二人が出立前のあいさつしたいって」


要件を告げると、勝手に扉があいた。


「さ、どうぞ?」


迷いなく入る海翔さんと、私の入室を促す九十九さん。

私も意を決して、中に足を踏み入れた。










重厚な扉の先にあったのは、部屋を囲むように配置されている本棚とその中央に置かれた一組の机だった。


「来たか」


彼が一言発しただけで、空気が変わった。

海翔さんや九十九さんでさえ、彼の放つ空気に飲まれるのでは、と思う程に。


「せ、先日は助けて頂きありがとうございました。

お礼も言わず、申し訳ありません」


ここに来る前に考えていた言葉を必死に紡ぐ。

だけど、彼はそれすらも分かっていたようだった。


「そう緊張するな。

俺は君を臣下にした覚えはない。

それに、・・・君はこの国の者でもないだろう?」


心臓が酷く音をたてた。

全てを見透かされている・・・。

いや、彼は全てを知っているのかもしれない。


「・・・そう、かもしれません。

では何故、私を城下に行かせようとしたのですか?」


私を試しているの?

それとも、




「殺そうとは考えていないよ。」





――読まれてる。





「頭の回転が早い子は嫌いじゃない。

けど、まだこちらに来て日が浅いんだ。

今はまだ、俺の言うことに従っていた方がいいと思うよ?」




臣下でもない、私にとっての王でもない。

でも・・・、


――命は握られてる。


生かすも殺すも、彼次第であることを私が感じた瞬間だった。

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