花言葉

扉を閉めて、俺は息をはいた。


「リーヴァ・・・か。」


自分の思いを身勝手に乗せた名前を、彼女は欲しいと言ってくれた。

それだけで十分だ。




「見捨てられた愛、ですか。」


「サ、サクラ!」


急に現れた気配に、思考が別のところにいっていたせいか、必要以上に驚いた。


サクラは呆れたような顔でこちらを見ると、手に持っていた書類の束を俺に押し付ける。


「くだらないことを考えているぐらいなら、仕事して下さい。」


おそらく俺のデスクに置いてあった書類だろう。

そういえば、まだ全然片付けていなかった。


「あー、ありがとな。


・・・って、あれ?

まだあっただろ、書類」


渡された書類の重さは何時もの半分以下だった。

重要書類は守護騎士でないと処理できないため、山のような書類が各デスクの上に置かれている。

だが、サクラが持ってきたのは片手で持てる程度の量しかない。


「暇だったので勝手に処理しました。

それは貴方の判がいるものと、命令書です」


そうめんどくさそうに言うサクラ。

彼女の仕事量は半端ではないので、暇だったというのは嘘だろう。

だが、それを言うと彼女が更に嫌な顔をすることを知っていたので、


「助かった、ありがとな」


と感謝を伝えた。


だが、彼女はそう簡単に言葉を受け入れるような性格ではない。


「どうでもいいんで、この書類だけは今確認してもらってもいいですか?」


ぶっきらぼうに言う彼女に、俺ははいはい、と言って書類を見るのだった。




「ほい、これで大丈夫だろ。」


確認し終わった書類をサクラに渡すと、ありがとうございますと、少し頭を下げて踵を返した。

それを見て、俺も命令書の方に目を落とした。


その時だった。




「貴方は彼女のこと、好きだったんですね。」




体の動きが止まる。

何故か動揺した。


別に知られて困ることではない。


でも、知られてはいけない気がした。



「どうしてそう思った?」



声を低くし、威圧するかのように言う。

だが、サクラに対してそれは意味を成してはいなかった。



「リーヴァ・・・・・・。


彼女が好きだったシダレヤナギもそんな名前でしたね。」



サクラは懐かしそうに目を細めてそう言った。

そして俺の返事も聞かず、失礼しますと言って持ち場に戻っていった。


あの事件以来、白家にあるシダレヤナギの木は咲かなくなってしまった。


まるで、最愛の者を亡くしたのように。



「リア・・・」


ただ名前を呟くことしかできない俺に、彼女を守る資格があるんだろうか。



この時、海翔が手に持つ雷炎からの命令書が、存在感を主張していた。


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