第一章 すべてはここから始まった

謎の少女

「ここは・・・?」


視界に入ったのは見慣れない白い天井。

病院かと思ったがそれにしてはベットがふかふかだった。


身体を起こそうと思ったが、どうやら怪我をしているらしい。

結構な重症のようで、ピクリとも動かすことはできなかった。


「私、どうしてここにいるんだろう・・・?」


頭も強打しているのか、起きるまでの事を全く思い出せない。

自分が誰で、何者かも分らなかった。


しかしそんな状況にも関わらず、私はひどく落ち着いていた。

名前すらも思い出せないのに、何故だかここにいることに安心している自分がいるのだ。


知らない場所のはず、でも知っている空気。

見覚えのない怪我、でも自然と痛みを受け入れることが出来た。




「私は・・・・・・誰?」




答えを知っている者などここにはいない。

それでも問えば返ってくるような気がしていた。







そしてその予感は現実のものとなる。








「知りたいか?」


突如現れた気配に私は驚いた。

いや、正確には驚いたと心の中で思った。

だがおそらく私は相手に対し、今無表情だろう。


「もう一度聞く。

知りたいか、自分のことを」


私の反応がなかったからか、その気配はもう一度聞く。


一瞬の間の後、私は小さな声で、


「・・・知りたい・・・」


そう口にした。


これが私の願いだったのか、本能的なものだったのかは分らない。

だが気配はそれすらも見抜いていたのか、フッと笑う声がした。


そして、一言


「そうか」


と言ったのだった。














この後、私は謎の気配―白雷炎というらしい―から色々教えてもらった。


私がという場所で発見されたこと、その時には既に全身傷だらけだったこと。

更に今私がここで置かれている状況など、詳しく教えてもらうことが出来た。


「・・・ここまで色々話してきたが、理解できてるか?」


「はい・・・、なんとか」


理解はできているが、正直頭が追いついていかない。

多分彼にも分らないことが多いのだろう。

幾つか質問してみたが、曖昧な答えしか返ってこなかった。


「まぁ、そのうち分ってくるだろう。

とにかく今は傷を治すことだけ考えていた方がいい」


そう言われて気が付いた。

今、私は深手を負っていてすぐに動くことはできない。

身体を休めて回復させるしかないのだ。

幸いにもここの医療は高度なもので、傷跡は残らないと言われている。


「分りました。

ありがとうございます」


私は素直にうなずき、彼もまた微笑んでいた。



そんな時だった。



「王様ー?」


扉から顔を出したのは目の前にいる彼と同じぐらいの男だった。

さらっとした黒髪に、透き通るような青い目。

男にしては少し高めの声色だった。


「九十九か。

どうかしたか?」


「どうかしたって・・・。

忘れたの?

そろそろ行かないと遅れるよ、神議しんぎ


「・・・ああ。

もうそんな時間か」



時計を見ながらそう言った彼は、机から書類を取ってそれを扉の彼へと放り投げた。



「必要事項はそれに纏めてある。

後はその決定をオヤジ共に納得させろ。


無理矢理にでもな」



さっきまで話していた人とは違う。

鋭い眼光の奥に、一切の感情を持たない冷たい色がその時彼を満たしていた。


だが、相手も分かっていたのかそれに怯むことはなかった。

投げられた書類を拾いながら、


「僕があいつら押さえてもいいけど、神議に出なよ?

最終的は雷炎って肩書きが必要なんだから」


と彼にくぎを刺す。


肩書き・・・つまり王様が命令してるっていう証明か。


そんなことを考えていると、私の向かいに座っていた王様が大きく舌打ちをした。



「・・・分かった。すぐ行く」



渋々立ち上がりながら、王様は私を見た。



「お前には護衛をつける。

安心して眠れ」



暖かくて大きな手が私の頭の上に置かれる。

一定のリズムで叩かれていくその手に、私はゆっくりと意識を落としていった。















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