エピローグ
決戦後、ローメニア星王宮前
「此度の重ね重ねの無礼、誠に申し訳ありませんでした、姫様。何とぞこの私に重い罰を!」
「だからいいって言ってるでしょ! 罰を受けるべきなのは、あの二人とその部下……あ、あと、アンタを忘れてたわ──この変態」
ウルカの誠意ある謝罪の横で、平然を装っているアルゴを指差すカグヤ。だが、なおも当の本人はしらばっくれている。
「はて、なんのことですかな?」
「とぼけてんじゃないわよ、ったく……ウチの仲間に求婚迫るって、どんな神経してんのよ」
「まあまあ、無事戦いも終わったことですし、ここは穏便に……」
「アンタが言うんじゃないわよ!」
「艦長ーっ、こっちはあらかた準備できたぞーっ!」
王宮前に堂々と着艦しているエーテリオンのカタパルトから、繁が手を振って艦長へと報告を済ませる。
これからエーテリオンは出港するのだ。
──ローメニアとも地球とも違う星へ。
「しかし、本当に旅立たれるのですか?」
「そうよ、今さら地球に戻ったところで、待ってるのは勉強に進学に就職……そんなことやってらんないわよ、イクスアレイで何でも作れるようになったから、食糧衣糧、その他諸々には困らないし、太陽系から出たらまた別の敵が潜んでるかもしれないし……」
「ですがローメニアに残られないというのは……」
「代役は用意したからいいでしょ? 王族の家系よ、なんせ私の父親なんだから」
今後の方針として、エーテリオンによる宇宙航海を提案したカグヤ。
珍しくそんな突拍子も無くありえない提案に、真面目枠の相馬と葵、不真面目枠の零や宗二が賛成し、結局その提案はエーテリオン内で可決され、出発の準備を整えていた。
しかし、そこで困るのがローメニア星の次期王、あるいは王女の存在である。
ExGについては、イクスディスを再び封印することにより、周りへの抑止力は今まで通り働くが、問題はやはり後継ぎであった。
そこでカグヤが呼んだのが──
「はぁ、私、総理なんだけどなぁ……」
ローメニアに来たにも関わらず、帝は相も変わらず書類の山を前に、ジャンナの補佐を受けながら頭を働かせていた。
「エーテリオンが地球に帰還した場合、新たな問題が貴方へ与えられるから、こちらへ呼んだと聞いております」
「いや、国の責任や管理問題からは解放されたかもしれないけど、今度は星の責任や管理問題が増えたんですけど、むしろ前より悪化してません? そもそも、カグヤちゃん達がローメニアに暮らすと言う選択肢は」
「つまらないし、王女なんてやってられないから無理、だそうです」
「うん、だと思った」
「安心してください、私や他の貴族の方もついておりますから……ところで、帝様」
「はい」
「よければ今夜は街へ食事にいきませんか? いいお店を存じていますから」
「……はい? あ、ええ、いいですよ。行きましょうか、食事」
いきなりの食事の誘いと、どことなくソワソワしているジャンナ。
帝は思わずその様子を見て、同じくソワソワとしてしまう。
「これは……」
「後にしようか、ジル」
新たな書類の山を抱えていたジルとレイは、中の様子をこっそり見て、二人のいる部屋からそーっと去っていった。
……
「さあ、目指すは外宇宙! 目的は未定! 準備はいいわね!! それじゃあ、はっし──」
「艦長」
「って何よ命、いま新たな旅立ちの──」
「綾瀬さんが艦内にいないそうです」
「綾瀬が? 一体どこにいって……」
『みなさーん』
綾瀬を探そうとブリッジを出ようとした矢先、その綾瀬から通信が入ってきた。
「綾瀬さん、一体今どこにいるんですか?」
『それなんですが……すみません、私、エーテリオンを降ります』
「はぁっ!? なんでよ!」
『実は……』
「実は?」
なにか深刻な理由があるのではないかと、固唾を飲むブリッジメンバー。
──しかし。
『私、この方と婚約をすることを決めました』
左の薬指にはめた指輪、そしてその隣にはあろうことか、あのアルゴが立っていた。
「はあぁぁぁぁぁーっ!?」
『ハッハッハ、彼女は必ず幸せにするから、君達は心配せずに旅立ちたまえ』
今まで以上にキラキラとした表情のアルゴが、カグヤ達に向けて綾瀬と一緒に手を振る。
「余計に心配になるわ! この××××が!!」
『カグヤさん、アルゴさんは仕事に真面目で、とてもいい人なんですよ? そんな人が土下座して、私の母になって子供を作ってほしいと言われては、女性として私もその誠意に応えなければ──』
もちろんそんなものを黙っていられるわけでもないカグヤは、大声でウルカに対し怒声を上げるが、綾瀬は強くそれに対して反論を述べる。
「その言葉のどこに誠意なんてあるのよ! どっからどこまで聞いても
『まあまあ、相思相愛ということで、いいじゃありませんか』
「だから、アンタが言うんじゃないわよ! ただ家庭がほしいだけじゃないの!! まったく……」
「どうします、艦長」
「ああなった綾瀬を止めるのは無理よ。きっかけはどうあれ、もうあのバカの事が好きになってるもの……人の恋路を邪魔するのも野暮ってもんよ。ええい、このまま出航よ!」
一人の仲間の離脱を仕方なく見逃し、エーテリオンはゆっくりと高度を上げ、転移により宇宙へと舞い戻った。
……
「あとは自動航行モード、私は部屋に戻るわ」
「りょーかーい」
カグヤがブリッジから部屋へ行くと、当然ではあるが、そこには同居している飛鳥がいた。
なにもせず、机の前に敷かれた座布団に正座して。
「……ただおま」
「お、おう、おかえり」
「……」
「……」
カグヤも向かい合うように正座し、そのまま数分、いや数十分、二人は無言のまま互いの事を見合っていた。
ローメニアにいる間、カグヤは艦長として、姫として大忙しで、こうして話す時間というのがなかった事が、さらに言葉が詰まる原因となる。
「つ、続きを──したい」
「わ、わかったわ……」
なんとか本音を言葉にする事にできた飛鳥の言葉を聞き、油の切れたロボットのようにぎこちない動きで、飛鳥の隣へと移動する。
「か、カグヤ……」
「……飛鳥」
目を閉じ、ゆっくりと顔を近づける二人。
今日はどこまでいくのだろう、そんなことを互いに考えて……。
──ガチャ
「ちーっす、三河屋でーす」
「ぎゃぁぁぁーっ!!」
「ぐはぁっ!!」
突然の来客に、思わずカグヤはヘッドバットを飛鳥の顔面に叩き込んだ。
「み、みみ、命!? 何よいきなり!」
「いやー、綾瀬さんがいなくなったんで、部屋移動を……まあ、一人部屋もよかったんですが、こっちの方が面白そうですし、フフ……」
「そ、そう、それなら仕方ないわね、フフ、フフフ……」
(なんだ、二人とも笑ってるけど、絶対心の中で笑ってない……)
「お前ら喧嘩でもしてるのか? なんなら俺が解決──」
「え、いいんですか?」
「バカは黙ってなさい!」
「はい」
飛鳥はなんだか危ないこの状況に恐れ、部屋の隅で正座する。
「でも、寝る場所がないけど、アンタはどこで寝るの」
「お構い無く、飛鳥さんの隣で寝ますから、いいですよね?」
「いいわけあるか!! アンタは床で寝てなさい!」
「いやー、ベッドじゃないと寝れないんでー」
「だったら私の隣よ」
「えー、カグヤさん寝相悪そうですし……どうなんですか飛鳥さん」
「なんで俺に聞くんだよ……知らないぞ、寝相なんて」
飛鳥のその発言を聞くと、怪しい笑みを浮かべる命の表情が、さらにニヤッとする。
対するカグヤはしまった、とでも言いたそうな顔で命を睨む。
「あー、ご存じないんですか、そうですかそうですかー」
「なにホッとしたみたいな顔してんのよ!」
「いえ、阻止できたなーっと」
「──ッ! アンタ、いつか覚えてなさいよ」
「えー、なんのことですかー?」
「…………はあ」
訳のわからない事でいがみ合う二人を見て、飛鳥は思わずため息をついた。
地球とローメニアでの長きに渡る戦いは幕を閉じた──が、今ここに、そんなものよりも長く激しい戦いが、幕を開けようとしていたのであった……。
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