第二十八話 艦長、帰省です。

「……さて、これからの事を話し合いましょうか」


 エーテリオンにカグヤが戻り、アールテーミスの消火作業も終え、一段落を迎えた一同は教室へと集まり、今後のが始まった。


「まず繁先生、あのバカが落としていったアルテリアスの状態は?」

「十機は掠り傷程度で運用には問題ない、残り五機は完全にスペアパーツにしかならねぇな」

「ジャンナ、アルテーミスの炉は無事なのよね?」

「稼働には問題ありません。しかし、アルテーミスは先ほどの砲撃により、戦闘運用は修理完了までは難しいかと判断します」

「その件はあとでとして……先生、あの製造炉が使えるとして、アルテリアス用のプランはあるのかしら?」


 そのカグヤの質問に、繁は聞くまでもあるまい、と自信満々の顔を作り、全員の目の前で高らかに宣言する。


「全パイロット用の強化プランなら既に完成済みよ! 一機数十分として二時間連続運用すれば無事におわるぜ」

「そっちはオッケー……っと。ジャンナ、アルテーミスの修理完了までの時間はどれだけかかるの?」

「炉を使い、そちらの整備員をお借りしたとしても一ヶ月はかかるかと……」

「そう……ティーターンがローメニアに到着するまでに追い付くには、いつまでに出発すればいいの?」

「ティーターンはあの大きさ故に航行速度は遅いですが、ローメニアへの到着よりも、後続の主力との合流を果たし、敵に回る事が第一の問題だと考えます」

「主力……?」


 てっきりティーターンが主力艦と考えていたカグヤは、ジャンナへ聞き返す。


「はい、ディオス・N・バックスも王族となろうとしていた身……その身体にもしもの事があっては、ローメニアを継ぐ者がいなくなり、戦争が起きてしまいますから、いつでも救援に迎えるように待機しております」

「合流前に叩くには何日の猶予があるかしら」

「長く見積もって……一週間かと」


 その絶望的な数字を聞き、アルテーミスの乗員は皆暗い表情をする。


 アルテーミスの修理をしていては、まずディオスには追いつけない。自分達の姫を守ることが出来ず、それを悔しく思っていた。


 ──そんな時、再びこの男が立ち上がり、こんなことを言った。


「ったく、揃いも揃って暗い顔して……なあ、あんたらニコイチって知ってるか」

「繁先生……?」

「いや、いい加減機体だけってのも飽きてきてたところでな、少しステップアップしたことをしてみようかとな」

「なんなのだ、その……ニコイチというのは?」


 聞き慣れない用語に戸惑うジャンナは、アールテーミスの代表として、怪しい笑みを浮かべる繁に恐る恐る尋ねる。


「言葉のままだよ……修理するにあたって、二つの損商品物を合体させて一つの完成品にする……まあ、今回の場合は修理通り越してパワーアップまでするつもりだがな……無論あんただけじゃなく、ウチの艦長の許可もいるが……な?」

「フン、私が認めないと思ったわけ? いいじゃない、やれるだけやってもらうわよ、先生。いいわねジャンナ」

「は、姫様の思うがままに……」


 もちろん期限内でね、と繁に付け足して命令すると、繁は時間が「時間がおしい」と言って、整備班、整備員を全員連れて、部屋から出ていった。


「さて、それじゃあこれからの一週間の話をするわ」

「戦闘訓練か」

「それは最終日近くでいいわ。これからの決戦は今まで以上の戦いになるわ……だから、整備班には悪いけど、私達はこれから三日ほど休みを取って、日本に帰るわよ」

「決戦前の里帰り、というわけか」

「ええ、ただし一つだけ言っておくわ……」


 本来ならば言うべきではない言葉だろうが、エーテリオンは軍ではない、だからカグヤは思い切って彼等に向かって言葉を続けた


「エーテリオンの帰還は自由よ、そのまま残りたいなら、残ってても構わないわ」

「……カグヤさん」

「いいのよ命、身内問題で関係のない人に死んでほしくないだけよ……艦長としてね」

「ハッ、何が関係ないだよ!」


 らしくもないカグヤの言葉を鼻で笑うと、飛鳥は席から立ち上がり説教染みた文句を放つ。


「俺たちは元々お前の起こした問題の為に戦ってきたんだぜ? だったら、関係ない奴なんてこの艦にはいねぇよ、最初っから全員お前の関係者──エーテリオンのクルー仲間だろ?」

「飛鳥……」

「大丈夫だって、全員帰ってくる──いや、残るとか言った奴は俺が無理矢理でも連れて帰る!」

「フン、馬鹿馬鹿しいな」


 飛鳥を鼻で笑いながら立ち上がった相馬は、突っかかるような言い方でそう言った。


「月都カグヤ、君は艦長として我々を理解していないようだな」

「……え?」

「この場に今更逃げ帰ろうなどと思う者は誰もいない、という意味だ。艦長ならばそれぐらい察しろ」

「あっ、察し……ついにデレ期ですか、相馬さん」

「命ちゃん、察するなら場の空気を察しなよ」

「おっと、こりゃ一本取られた」


 場の空気を変えたかったのか、それとも素でやっているのか、命のいつものノリは、結果的に場の空気をいつものエーテリオンに戻していった。


「まったく、ホント真面目に話すのがバカらしくなるわね……はいはい、この話もうおしまい! 時間はないのよ、とっとと支度して帰るわよ」


 カグヤはエーテリオンの空気に飽きれ、全員を解散させ、会議を無理矢理終わらせる。


 そんなエーテリオンの空気に助けられた少女は、皆の退出する背中を見て、一層最期の決戦に対する気持ちを強く持った。


 アルテーミスに搭載されていた輸送船により、二隻が改修を受ける中、生徒達は故郷の地に数ヵ月振りに帰還する。


 各々が家に帰り、再会を喜ぶと、少しの休みを楽しんでいた。


「……それなのに、なんでアンタはここにいるのよ」

「フッ……主人公たるもの、帰る場所もなく、孤独を愛するものさ──って、置いてくなよ!」

「孤高を愛してるんなら私なんかについてこないで、どっかの河川敷で捨て犬とでもじゃれてなさいよ!」

「それは主人公よりもキザなライバルがやることだ」

「んなこと知らないわよ!」


 何のために休みをあげたと思っているんだ。カグヤは自分について来る平常運転の飛鳥を見て、コイツが主人公バカだと再認識する。


「しっかし、やっぱり周りの家全部デカイなぁ……お前の家、もしかして城だったりするんじゃねぇの?」

「たかが総理よ、国王じゃないんだから……選挙で選ばれて国の行く末を周りから文句言われない程度に管理してるだけ。あんな奴、凄くもなんともないわ」

「酷い言われようだな……一応は父親だろ?」

「どうだか……エーテリオンに必要な存在だから、大事にしたかっただけじゃないかしら」

「……それでも、あのオッサンはあのオッサンなりにお前のこと大事にしてるんじゃないのか?」


 悪い方、悪い方へと考えるカグヤを説得するように、帝の事をフォローする飛鳥。


 しかし、それはかえってカグヤを怒らせる結果となってしまった。


「なんでそんなにアイツの肩持つのよ……ずっと黙って育てられたのよ? エーテリオンに乗る前も、乗ってからも、ずっとアイツは父親面して接して──あんな奴、父親でもなんでもないわよ!」

「……か、カグヤ」


 予想外の剣幕に圧された飛鳥はカグヤの名を呼ぶも、何と言おうか少し黙ってしまう。


「…………でも、そんなこと言ったらお前の家族はもう」


 元気付ける言葉も思い付かず、思わず正論を口から溢す。


 数十年カグヤを育てた帝。その妻はカグヤが現れる以前に失っており、カグヤは片親の家で育てられていた。そして実の父は暗殺され、ローメニア王家の生き残りは彼女を残して他にはいない。


 カグヤが帝を切り捨ててしまえば、彼女は家族を失い、一人になってしまうのだ。


「一人だって大丈夫よ……ほら、着いたわよ」


 カグヤがそう言って扉の鍵を開けたのは、飛鳥から言わせれば充分デカイ一軒家であった。


「大丈夫、か……んなわけないだろ」


 感傷に浸ったような顔をする飛鳥は、彼女に聞こえないように呟いた。

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