第十五話 艦長、学園祭会議です。
「うーん……」
「どうしたんですか、柄にもなく難しい顔して」
「あのね、柄にもなくは余計よ」
ムスッとした表情で考え事をするカグヤに対して、命はいつも通り失礼な言葉で尋ねてくる。
しかし、今回のカグヤは結構真面目に悩んでいたのだ。
「ねえ命、シャロちゃんが言ってたけど私達ってそんなに世界から敵視されてるの?」
──今さら悩む必要のない事に。
「何を言ってるんですか、今更」
「だって私達正義の味方なのよ? 誉められる覚えはあっても、迷惑をかけた覚えはないわ」
少なくとも自分の父親に迷惑を掛けまくり、世界中に迷惑を無自覚にかける少女は、キッパリとそう答えた。
「フィクションみたいに、エーテリオーン助けてくれてありがとー、なんて現実じゃありませんよ。例え助けても、他国の戦闘兵器が自分の領域に勝手に入ってきたって事実は変わりませんからねー、国際問題です。エーテリオンが国を襲わないなんて、相手はわかりませんから」
「私はWC以外に攻撃なんかしないわよ、失礼な話ね」
日本で軽いテロ行為を起こし、あげく日々仲間に向かって主砲を放っている少女は、キッパリとそう答えた。
「はぁ……とにかく、私達エーテリオンは世界中から目の敵にされてますよ」
「そ……じゃあ何とかしないといけないわね」
「あのカグヤさん、これ以上悪化させるようなことは止めてくれませんか?」
「なによ悪化って、私は良くしようとしてるのよ?」
WCの撃退以外において、カグヤの考えた策が成功することは限りなく少ない。きっと今回も悪い方に影響すると悟った命は止めようとするが、すでにやる気に満ちたカグヤを止めることは不可能である。
「つまり、私達が世界中飛び回っても危険じゃないって、世界に知らせればいいのよね?」
「まあ、そうですけど……」
「ふむ……そうね、言葉だけじゃ難しいし……心に響く……私達の考え……伝達方法……」
ブツブツと小言を呟きながら思考を回転させ、一番効果的な方法を探し出す。
──その結果……。
「学園祭をやるわよ!」
「またいきなりだな、オイ」
「どうしてそうなったんですか……」
「学園祭と言ったら学校行事で一番平和アピールできそうなイベントじゃない、だからよ」
「まあ、体育祭よりは……ってそうじゃないな」
あまりに自分のペースで話を進めるカグヤに、自分のペースを保てなくなる命。それでも周りを巻き込む彼女の暴走は止まることはない。
「そして、学園祭といったらライブ……そう、歌よ、歌! ロボット物といえば歌を歌っとけば、大抵世界はケロッと平和になるんだから!」
「カグヤさんは歌をなんだと思ってるんですか! 世界は歌のように優しくないですから無理ですって!」
「はぁ……だいたい誰が歌うんですか?」
「誰って、当然……」
歌の話題が出てから目を反らす二人のアイドルをカグヤは指名した。
緑川凛と黄瀬綺羅──通称、綺羅凛コンビだ。
やっぱりか、と言った表情でため息をつく凛に、オドオドと挙動不審になる綺羅。二人ともあまり乗り気ではなかった。
「……そんな理由で歌うつもりはないわ。そもそも歌いたくないし」
「わ、わわ、私も凛さんと並んで歌うなんて、むむむ、無理です!」
「世界放送予定のライブなのよ! 武道館なんて足元にも及ばない総動員数六十億超えの大舞台、アイドルなら立ちたいと思うでしょ!」
「いや、逆に規模がデカすぎて、誰も立ちたいと思わないんじゃないか?」
「でも、アイドルだったら人前に立ってなんぼでしょ?」
大輝がいつも通りマトモな意見を述べて、カグヤに悟らせようとするが。感性の違いのせいか、なかなかその思いは伝わらない。
「仕方ない、やはりここは主人公の俺が……」
「お呼びじゃないから引っ込んでなさい。男が歌って成功するなんて稀なのよ、ま、れ!」
「フン、俺ならギター型の操縦桿だって使いこなせるぜ?」
「パイロット技術の話はしてないわよ! 問題は歌よ。あんた歌はうまいの?」
「フン、そんなに聞かせたいなら聞かせてやるよ。俺の、主人公の歌を──」
カグヤの言葉に触発された飛鳥は椅子に片足を乗せ、ノリノリにリズムを頭で取ると、その歌声を披露する。その歌声を文にして表すとすれば……
──ボエーが妥当だろう。
「却下よ、却下! ド却下よ!!」
「ダメか?」
「世界に喧嘩売るレベルよ! そんなんだったら私が歌った方がマシよ、ブリッジクルーでバンド結成してね」
「じゃあ、カグヤさんも歌ってみてくださいよ」
「ハッハーン、聞いて驚くんじゃないわよ、私の歌声を──」
飛鳥の歌や光の言葉に応える為に、カグヤはノリノリにリズムを足で刻むと、その歌声を披露する。その歌声を文にして表すとすれば……
──こちらもボエーが妥当だろう。
「いやいや驚きましたよ、カグヤさん。打合せしたかのように音痴すぎて」
「うぐっ……」
「なんだよ、お前も人の事言えねえじゃねぇか」
「うるさいわね! アンタよりも上手いじゃない」
「いいや、俺の方がまだ上手いね!」
「なんですってー!」
「なんだとー!」
俺が、私が、と子供のように喧嘩を始める二人。
争いは同じレベルの者同士でしか発生しない。命の中でそんな言葉が頭に過ったのであった。
「はぁ、バカらし……」
「り、凛さん……」
いつものバカ騒ぎについていけない凛は呆れ、周りを見下す凛をなだめようと綺羅は善処する。
「とにかく! 歌は交渉継続として、学園祭はやるわよ!」
「カグヤさん、そこまでして世界平和を……」
「何言ってんのよ、光」
──楽しそうだからやるに決まってるじゃない!
その言葉を聞き、一同は心の中で声を揃えてこう言った。
──ですよね、と。
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