第八話 艦長、新たな機体です。

 合衆国近隣の太平洋にワープを完了し、EGの発進を進める中、命は戦場の妙な違和感を感じとる。


「……おかしいですね」

「どうしたの、命」

「敵の減少スピードが今までよりも早いです。前回の合衆国の戦闘を見た感じでは苦戦を強いられそうな感じでしたのに……異常です」

「そりゃ対WCの兵器開発も進めば、そういう兵器が最近作られたって変じゃないでしょ? どれどれ、一体合衆国はどんな兵器を作ったのかしら? まさかEGの模造品? お隣さんじゃないんだからまさか……ね……」


 エーテリオンのモニターに映し出されたのは模造品どころか、自分達が使っている機体であるエーテリアスと完全に一致していた。

 反射的にカグヤは先程の通信画面をブリッジに表示し、深く息を吸い、そして──


「どういうことか説明しなさいよ、このクソジジィッ!! そんなに国会に主砲叩き込まれたいの!? あぁん!?」

「ひっ!? それだけは許して!」

「土下座しても許すか! いいから、説明、しなさい!」


 今にも通話マイクが壊れそうな大声で叫ぶカグヤに帝は思わず椅子から転げ落ち、オドオドとカメラを見る。

 画面には修羅と化した娘が閻魔のごとく自分の言い分を今か今かと待っている。


 ──判決はなんと言おうと黒だろうが。


「実は──」


 事の詳細を話終わる頃には、現れたWCは合衆国の手により全滅し、次の目標としてエーテリオンに接近を開始する。

 その様子を格納庫で確認したパイロット達はすぐさま機体へ乗り込むと、コックピット内でカグヤの指示を待つ。


 ──戦闘か、降伏か。


「ジジイもジジイだけど相手も相手ね。恩を仇で返すとはこの事ね……いいわ、受けてたとうじゃないの!」

「でも気をつけてね、まさかこの短期間で量産工場まで作ってるとは思ってなかったから……」

「合衆国のかがくのちからってすげー」

「もう、茶化すのはやめようよ命ちゃん」

「フン、だったら量産工場諸共もろとも全滅よ! 私達が量産型のジム風情に負けられるかっての!」

「相手がジム風情だと、こっちもジムなんですけど……」


 相手は劣化コピーではなく同機体ということを指摘する光をカグヤは無視し、全機に攻撃命令を下した。



 ……



「はあ……なんで同じ人間同士争わないといけないんだよ……」

「簡単なことだ大輝……相手が人間だからだ。様々な欲望が人を駆り立てる、だから争いが起きる」

「様々な欲望……ね」


 渋々操縦桿を握る大輝はその言葉を聞いて、チラッと飛鳥の姿を見る。


 アイツは割り切れているのだろうか……?


「対人戦か……おもしれぇじゃねぇか。無殺プレイがいかに難しいかやってみるか!」


 完全にゲーム脳。戦いを遊びでやろうとする危ない子供がそこにいた。


「飛鳥、戦いは遊びじゃないし、命はおもちゃじゃないんだぞ?」

「じゃあお前、アイツらに降伏するか? 降伏すれば助かるかもしれないが、そんな保証もないし……俺は平気でこっちに向かってくるような奴らに、世界の平和を任せるつもりもない」

「……飛鳥」

「かといって本気でドンパチ戦争するつもりはない……だったら、これぐらいの心構えでいいんだよ。下手に背負ったら辛いだろ?」

「……飛鳥」

「ヘッ、神野飛鳥出るぜ! また戦争がしたいのか、あんた達はーッ!!」


 真面目な話をしていたのかと思えば、いつも通りの厨二病に戻り、相手に向かって台詞を叫ぶ飛鳥がそこにいた。

 そんな親友の姿を見て、大輝の心の重荷は少し軽くなった。



 ……



「各機、戦闘開始しました」

「よーし、こっちも援護するわよ、主砲発射準備!」

「いやいやいやいや! 主砲当たったら相手死にますよ!?」

「そこは……あれよ、ギャグみたいな叫び声をあげたら死なないー、的な奴で」

「敵頼みじゃないですか、それ! あっちは平気でような集団なんですよ!? 全員出撃と同時に死神に取り憑かれてますって!」


 ちなみに、コックピットに写真があるから死ぬ、なんてジンクスはアニメや映画の中だけであって、現実でもそうなのかと言われれば、大体の人はそうではないと答えるだろう。

 そもそも、そんな呪いのアイテム的な扱いを受けたら、写った家族にも失礼である。


「じゃあどうすんのよ、黙ってみてろって言うの? 無理よそんなの、私我慢できずに撃っちゃうもの!」

「そこは我慢してくださいよ! って、あー、無理ですよね、わかってますけど!」


 分別つかない子供ならまだしも、彼女はもう高校生だ。そう思った光であったが、何を隠そう彼女は分別のつかない高校生……我慢という言葉などないことを光も悟る。


 しかし、さすがにこの状況で主砲を撃ち、間違っても殺してしまえば最後。人殺しという十字架を背負ったまま今後も戦闘を繰り広げなくてはならない。WCとも、そして人間とも……。

 それだけは避けたいと考える命は一つの提案を持ち出す。


「──艦長、提案があります」

「なに、命」

「……量産工場、破壊しましょうか」


 命のその提案に、カグヤはもちろん二つ返事で答えた。


「また、書類作業か……」


 その親は悩みでが……。



 ……



「くそっ、コイツら中々強ぇじゃねえか……」

「昨日今日操縦し始めた奴らのはずなのに、なんでこんなに強いんだよ!」

「簡単なことだ、戦闘以外で操縦しない貴様らと、操縦方を知ってから日々疑似訓練をする我々とでは、決定的に我々の方が強い!」

「なっ……!?」


 零と宗二の攻撃を払いのけ、テックスは二機をアッサリと弾き飛ばす。

 二人は驚いた顔をして機体を立て直す。そして声を揃えて叫んだ。

 それは相手の強さに驚いての発言ではない。


「なんで話通じてんだ!?」


 正直どうでもいい発言であった。


「フン、これもエーテル技術のちょっとした応用だ。エーテルを戦闘技術にしか用いなかったようだが、こういったことにも使えるのだよ!」

「くっ! 偉そうにしてんじゃねぇぞ!!」

「威勢はいい、だが、相手がヒヨッ子ではな!!」

「くそっ!」

「ヤバイな、このままじゃ……」


 二人の後ろから援護を行う三蔵も状況の悪さに苦い表情を浮かべる。


 敵の数、強さ、どれをとってもこちらに勝ち目がない。

 その悪い感情は機体の動きを如実に鈍らせ、部隊の隙となって相手を誘う。


「隊長、一機動きの鈍い敵を発見。攻撃します」

「殺すなよ、シャーロット」

「何故ですか、相手は──」

「俺からの命令だ。相手はお前と同じ子供なんだ、それに今までWCの侵略を抑えたのも彼らだ」

「だからと言って彼等のやったことは!」

「返事は?」

「……了解、武器を破壊し無力化します」


 シャーロットは渋々上官であるアレクの命令を受け入れ、三蔵の乗るエーテリアスに接近戦を仕掛ける。


「──後ろ!?」

「もらった!」

「くそぉぉぉーっ!」


 シャーロットは三蔵がこちらに気付いて振り返り、武器を構えるであろう位置にブレードを降り下ろす。すると予測通りに現れた小銃を切断し、そのまま海面に目掛けて蹴り飛ばした。


「……艦長、二番隊劣勢です」

「まったく、あの二人の威勢がいいのは口だけなの? 一番、三番は!?」

「一番隊は飛鳥さんと刹那さん、三番隊は貴理子さんが善戦していますが、ただでさえ数で負けているので、二番隊を相手していた機体が加勢されると厳しいかと」

「私の花道ぐらい確保しなさいよ……まったく」

「あの、迂回していけば……?」


 エーテリオンは平常通り敵の中央に目掛けて舵が取られており、確かにその後方に量産工場があるとはいえ、かなり無謀な道のりであった。


「はっはー光、何言ってんのよ私が直進以外するわけないでしょうが?」

「オート前進の呪いの装備でも着けてるんですか、私達は!?」

「強者は黙って最短ルートよ!」

「その強者が今まさに転落しようとしてるんですよ!? 私達どころか、他のみんなだって危険なんです、もっと考えてくださいよ!」


 光は思わずカグヤに向かって叫んだ。

 確かに、このまま戦闘を続けていては万に一つの勝ちもない。そんなことは言われなくともカグヤも承知である。


 ──だからこそ、直進しているのだ。


 目的は二つ、一つは少しでも相手の注意を、そして進行をエーテリオンへと向けさせるため。

 守るべき戦艦で囮を担うというのは暴挙に近い行動ではあるが、大型WCのエーテル障壁よりも固いフィールドを展開しているエーテリオンのほうが、エーテリアスと違いそう簡単に撃墜される可能性は低い……。

 そして何よりも相手が攻めてくる理由はこのエーテリオンを手にするため……ならばこちらに対し下手に手を出すことは不可能であるとカグヤは踏んでいるのだ。


 そしてもう一つの目的は……。


「……そろそろいい距離ね。もしもし、繁先生」

「あー、こちら整備班。どうした艦長」

準備万端なんでしょ、全機分用意しなさい! 順番は二番、三番、一番よ」

「…………へっ、ようやく俺の力を世界に知らしめる時が来たようだな……了解だ。テメェら、急いで準備するぞ、チンタラやってるやつは全員海に叩き落とすからな!!」

「了解ッス!!」


 繁は嬉々とした顔で整備班の生徒に大声で指示を出し始め、生徒たちもそれに応えるかのようにテキパキと行動を始める。


 彼がこの長期に渡ってエーテリアスを私利私欲で弄るだけのマッドサイエンティストもどきの人物なのか? 答えはノーだ。


 彼は真正の天才マッドサイエンティストなのだから……。


「まったく……光、私が何の考えもなしに突貫してると思ってる?」

「え、そりゃあ……わりと──」

「──は?」

「いえ、思ってません、全然!」


 カグヤの眼力に圧され、光は自分の意見をコロッと変える。


 それもそうだ、いつもと何ら変わらず平常運転しているように見えないのだから、何か考えているなど光は微塵も思えなかった。


「か、カグヤちゃん? 淡々着々と用意してるけど、アレって何の事かな? お父さん何にも知らないよー? ねえ、無視しないで答えてくれないかなー」

「フン! 言われなくても教えてあげるわ、機体の性能が戦力の決定的な差にって事を!」


 艦長席にふんぞり返ったカグヤは、悪い笑顔を浮かべながら負傷した二番隊に帰還命令を出すのであった。



 ……



「三機が帰還、数が減った今がチャンスかと!」

「そうだな……一気に攻めるぞ、シャーロット!」

「凛さん、一気にきました!」

「慌てるんじゃないの、綺羅!」

「二人とも大丈夫か!?」

「大丈夫なわけないわよ、数が多すぎ!」


 部下を心配する赤城の声を、凛は敵を退けながら吐き捨てるように返す。


「フン、まるで隊列がなってない連中だな、このまま仕留め──ぐっ、なんだ!」


 進撃するテックスの機体に突如振動が走る。

 銃撃ではない、重さからして近接攻撃を受けたような衝撃……敵の接近する反応はなかった筈だ、テックスは確認をするためにレーダーを見るが、やはり反応はない。


 ──しかし、そこに更なる衝撃が機体を襲う。


「くっ、なんだこれは……! 腕なのか、腕を飛ばしているのか!?」


 エーテリアスにそんな特殊で悪趣味な装備は存在しないはず。それは乗る前に機体を確認したパイロットならば誰だって理解している。

 だが、現に今自分を攻めているのは、存在しないはずの新装備であった。


「さっきはよくもやってくれたな、白もやし野郎が! 掴まえたぞ!!」


 両腕を発射し、腕のない機体がテックスの頭上から飛び掛かる。その異形の赤黒い機体に搭乗するは、二番隊隊長の零である。


「貴様は──先ほどの!?」

「まずは目だ!」

「何ッ!?」


 頭部を掴んでいる巨大な右手、その掌から強烈な光が発せられ、閃光防止機能のないメインカメラ越しにテックスの目を光が襲った。


「くっ!?」

「続いて耳ぃッ!!」


 後続して現れた左手──その掌が左右に別れると、手の内部に内蔵されていたスピーカーのような形状の装置から強力な音波が衝撃波と共に発生し、彼から視覚だけでなく聴覚までもを奪い去る。


「トドメにその鼻、へし折るっ!!」


 音響兵器の衝撃に吹き飛ばされ、目と耳の機能を一時的に損失し身動きの取れないテックスの目の前に、凶悪なデザインの機体が姿を表し、両腕を装着すると同時に、機体の頭部に目掛けて、鋭利なかかとを叩き付ける。

 彼は事態を掌握できないまま、体全体を襲う衝撃と落下の浮遊感に恐れながら、機体を操縦することもできず海へと落ちていった。


「なんだ、あの機体は……」

Eエーテリアスアイン……私の専用機だよッ!」

「くっ、テックス……!」


 寡黙なルーカーも堪らず怒りを口にし、零の乗るアインに向かい攻撃を仕掛ける。


 ──しかし、敵は一人ではなかった。


 ズドドドドンッ!!


 ルーカーの横から、いくつもの激しい射撃音が聴こえた。ハッと我に帰ったルーカーは冷静にその弾幕を避け、その相手を確認する。

 血のように赤く彩られたアインとは対照的に、青黒い機体──その名はEツヴァイ。

 左腕を大口径のガトリング砲に改造され、右手には近接用の散弾銃を持つ、アシンメトリーな機体デザイン。

 アイン並に凶悪なその機体は阿久津を乗せて、ルーカー目掛けて接近を開始する。


「テメェは俺の獲物だぁッ!!」

「……ッ!」


(武装は遠距離仕様……接近戦ならばまだこちらが優位!)


 機体の特性を読み、こちらからも接近を開始するルーカー。

 だが、ルーカーの予想も目視でわかる範囲であり、よもやツヴァイにもアインと同系統の兵器が積載されており、事など彼は予想していなかった。


「……! 何だ!?」

「有線式の捕縛ワイヤーだよ、このマヌケがっ!」


 ツヴァイの背面から射出されていた四つの拘束機械はルーカーのエーテリアスの手足を捕らえ、その動きを封じる。

 動きも取れず、ツヴァイの意のままに位置を選定できるこの状態では、ルーカーのエーテリアスなど、ただの的にすぎなかった。


「ダルマにしてやるよ、雑魚が!」


 ズドドドドッ!!


 身動きの取れない敵に対し、右腕、右足、左足、左腕、頭部を順々にガトリング砲で正確に破壊し、最後に拘束ワイヤーを腰に巻き付けると、そのままテックス同様に機体を海へと叩き落とす。


「くっ、二人をよくもぉぉーっ!!」

「よせ、シャーロット!」

「まったく……二人とも派手にやる。これじゃあ俺の機体が地味になるじゃないか」


 三蔵は二人の戦いを見て、ブツブツと文句を垂れながらシャーロットの前へと立ち塞がる。

 機体の名はEドライ、黄土色で二機に比べて凶悪なシルエットも、強烈な装備も持っていない。


 ……ただ各種の装甲がてんこ盛りのようで、とてもメタボリックな体型であった。


「三機目!? だがその図体ならば、機動力はこちらが上だ!」

「直進してくる……機動力なら勝てると思ってるな」


 ブレードとは違い、一本の槍だけを装備したドライ。しかし、シャーロットは武装の違いに恐れることもなく、さらには辺りへの射出兵器を確認した上で懐へと突貫する。


「もらった、新型!!」

「残念だけど、こっちは近接特化の機体なんだよ!」

「フン、近接特化だろうが槍の間合いを詰められては!」


 槍を振る間合いよりも内側へと潜り込むシャーロット、相手の攻撃方法は封じた、あとは一方的に攻撃ができる。

 そう勝ちを確信した少女に対し、三蔵は冷静にコンソールパネルのスイッチを順々に押していく。


「残念、この機体──は多いんでね!」


 そのドライの装甲は攻撃から身を守るためにつけられた物ではなかった。

 量膝、量腕、量肩、胸元、腹部……取り付けた装甲の中に、開発者が仕込めるだけ仕込んだ補助腕が一斉に姿を表す。

 全ての手にレイピアのように細長い刃を装備したその腕は、シャーロットの機体を先制して串刺しにする。


「くっ、こんなところで──ッ!」

「……南無三」


 相手を殺したつもりはないが、人差し指と中指を合わせた三蔵は、坊主として落ちていく機体に対して格好つけてそう告げた。



 ……



「ちょちょちょちょちょーっ!? アレなに、カグヤちゃん! どっから調達したの!?」

「調達って、新型じゃないわよ。換装したのよ、か、ん、そ、う」

「換……装?」


 思わず帝はカグヤの言葉をオウム返しする。


「それは俺が説明しよう」

「あ、繁先生、丁度よかった、面倒だから説明しといてー」

「投げやりなのはアレだが、まあいいだろう。換装パーツ二型、アイン、ツヴァイ、ドライ……ちょっとクセの強い武装と、変則変態的な武装を搭載させた、俺の作品の一つだ。特徴は短距離ではあるが瞬間的に高速で移動が可能なブースターを搭載することにより、小回りの利く機動力の高いシリーズとなっているのだ! ドライもあの図体だが小回りが──」

「いやいやちょっと待った。なに、作品? アレ作ったの? どうやって?」


 目の前のトンデモ兵器を見て、裏返った声で繁に迫る。

 一度としてそんなものを作れるような物資を送り出した覚えのないのだから、焦るのも仕方がない。


「あ? んなもん予備パーツと予備兵器、それに俺の科学力を加えればこの通りよ!」

「君の科学力なんなの!? キテレツかアストナージの生まれ変わりか!! ザクのパーツでゲルググ造ったような物だよ!?」

「ハッハッハ、そんなに褒めるなって、また何か作っちゃうぞ!」

「作らんでいいわ!! まって……二型? シリーズ? ということは……」


 帝の予想は無論的中した。


「赤城相馬、Eレッド、出る!」

「葵貴理子、Eブルー、出ます!」

「緑川凛、Eグリーン、出るわよ!」

「黄瀬綺羅、Eイエロー、で、出ます!」

「戦隊物かッ!!」


 そのカラフルな機体の出撃終了と共に、帝がツッコミを入れる。

 しかし、そんなツッコミなど露知らず、三番隊の面々は敵との交戦を開始する。


「私が数を減らす、その後凛と綺羅は撹乱、貴理子はその隙を突け!」

「了解!」


 カタパルトから放たれたレッドはすぐにその宙域で停止し、敵のロックオンを開始する。


「マルチロックオン開始、全砲門開放──射撃準備完了」


 Eレッド──その姿は二番隊に負けず劣らずのトンデモ機体であり、背部から両肩上部に伸びる巨大な砲身はエーテリオンの主砲を小型化した長距離エーテル砲、量腕にはツヴァイと同型のガトリングライフルを持ち、機体各所には誘導式ミサイルポットが取り付けられていた。


 動く弾薬庫、と言っても過言ではない。


「死にたくなければ退け! こちらは手加減できないぞッ!!」


 捕捉した敵に向けて、全ての弾薬が発射される。

 単機でありながらエーテリオンの容赦のない弾幕に近い効力を発揮するレッドに、敵は思わず恐れを感じて引き下がる。


 そしてその射線から大きく外れた位置から、後退する敵目掛けて凛と綺羅が高速で肉薄していった。


「いまなら……いくわよ綺羅!」

「はい、凛さん!」

「あのー、繁君」

「なんですか総理」

「何あれ?」


 二人の機体を見た帝は繁に向けて恐る恐る声を出す。

 それもそのはずだ、何せ二人の乗る機体はどっからどう見ても人型ではない……見たままにそれを言うとすれば……そう、それは──戦闘機。


 そう、舞うように飛んでいるのだ、二機の小型の戦闘機が──


「いやー、可変機とかカッコいいかなと思って」

「そんな理由で作ったの!? いや、むしろそんな理由で作れたの!?」


 それは設計者の気まぐれの産物であった。

 気まぐれので可変機を作る、やはりこの男はただ者ではない……その能力に帝は恐怖した。 


「三人の作った機会、無駄にはしない!」


 青い閃光、そう呼ぶに相応しい速度で、貴理子のブルーは二人が敵をかく乱し、隙を作った戦場を駆け抜ける。


「後方火力支援特化のレッドを除いて換装パーツ三型は初動は遅いが、最高速度に重点を置いたブースターを搭載している。もともとレッドと同型を作る予定だったブルーが、最低限の強襲装備を搭載したいという本人の要望で、少々遅れてしまうのが難点だが……最高速度は他と変わらんから作戦に支障はないと自負している」

「……でも貴理子さん、すぐ二人に追い付いてませんでしたか?」

「ま、あの人は──別格ですから」

「え? はああぁぁぁーっ!?」


 命はパイロット資料を光に送り、光の度肝を抜いてやった。


「なんだこの機体! 早すぎる!!」

「これがEGの動きか!?」

「一機も逃がすかッ!」


 手に持つ使い慣れた二丁の標準ライフルを的確に武器、頭部を狙い、破壊をしていく。

 両足に搭載する予定の武器も本人の要望により、換装パーツ二型と同じ高機動ブースターを装着していた。

 それにより、加速ブースターでの高速移動の慣性をほとんど殺さずに、方向転換が可能となっている。

 しかし、無論高速で移動中に方向転換など、タイミングを合わせるのは至難の技であり、また、機動ブースターの調整を失敗すれば、機体はブースターに振り回され、最悪の場合操縦不能に陥る。

 だが、貴理子は何の問題もなく縫うように移動を続け敵を落とし続けていた。


「貴理子さんのパイロット技能、三番隊どころか、全隊でもトップスリーに入る成績じゃないですか! 何で貴理子さんは副隊長なんてやってるんですか?」

「ま、色々あってねー、男女の権力の均衡を保つためってやつ……? ほら、艦長、一、二番隊の長は全員女でしょ? これで三番隊まで女の人じゃ、男の肩身が狭いってことで、一番口うるさくてリーダーシップのある相馬さんを隊長として選んだんですよ。本人には内緒ですけど……」

「そんな理由が……」

「パイロット技能、エーテル技能トップの飛鳥さんって候補もありましたが──なんか調子に乗りそうなんで却下しました」


 妥当な判断だ。それにはみんな首を縦に降って同意した。


「こちら貴理子、十二機を行動不能にした。補給のため一度戻る」

「了解……って、敵さんまだ出てきます」

「どんな量産速度よ! パイロットもよくいるわね!」

「ま、そこは合衆国補正ということで……」

「やっぱり基地を潰さないといけないわね……」

「──だったら、道は俺達が作らせてもらうぜ」


 最後に帰還した一番隊、自称主人公の飛鳥が換装中にブリッジのモニターに顔を映す。


「アンタ、できるの?」

「俺を誰だと思ってやがる」

「突っ込むしか脳のないただの鉄砲玉でしょ。毎回運よく生きて帰ってくるけど」

「違うわ! 主人公──ヒーローなんだよ! 時間なら稼いでやる、だから行け。この戦いの結末は俺らじゃなく、基地を破壊できるお前次第なんだろ!」

「……フン、艦長に命令とは、アンタも偉くなったわね……でもいいわ、だったら徹底的にやりなさい、飛鳥! 作戦が成功するか失敗するかは、艦を基地まで行けるようにするなんだからね!」


 飛鳥とカグヤは真剣な面持ちから次第に笑顔になると、信頼できる仲間に自分達の未来を託すことを決めた。


「さてと、Eアマツ、出る!」

「まったく、隊長を置いて出るとはな……ではこちらもツクヨミで出るぞ!」

「ま、いつもの飛鳥らしいな……スサノオ出るぜ!」


 アマツ、ツクヨミ、スサノオ──神の名を持つ三機のEGが、戦場へと飛び立った。

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