第九話 艦長、特攻作戦です。
「増援が来たが……シャーロット、テックス、ルーカー……
「い、生きてます……」
「死んでねえよ……まったく」
「……(コクコク)」
海上の大破した機体の中で、三人は聞こえてきたアレクの通信に返答するが、三人の声は戦いに没頭する彼には一切届かなかった。
「来たな、新型ッ!」
「一機飛び出してきたぞ、飛鳥!」
「こっちは引けないんだ、押し切るぜ!!」
手に持ったライフルをいつも通り投げ捨て、得意のブレードを抜く飛鳥。しかし、投げ捨てられたライフルは搭載された制御装置と小型ブースターによって、自動操縦でアマツの背中へと装着される。
カッコつける飛鳥の為にわざわざ繁が考案し、作った機能であり、その効果は見ての通り大成功であった。
「はあぁっ!」
「フンッ!」
巨大な剣と剣がぶつかり合い、激しく火花を散らせながら互いに睨み合う。
エーテル技能は多少劣っていても、アレクのパイロット技能はシャーロットと同等か、それ以上であり。さらに死んだ仲間(?)の覚悟を胸にするアレクは驚異的な力を飛鳥へ向けて発揮する。
「コイツ、中々やるな!」
「たとえエーテルの能力が劣っていても、操縦技術は高いのでな!!」
強化されている飛鳥の機体を押し返すアレクだが、もちろん飛鳥もそれに負けじと反応し再び接近する。
その戦闘の様子を確認した刹那はこの場を飛鳥に一任すると、自分たちの今すべきことを察知し、行動に移す。
「エース機は飛鳥に任せて、私たちは他の隊と共に残りをやるぞ!」
「了解!」
大輝は通常より口径の大きいライフルを両手で構え、次々に相手に向けて撃ち始める。
遠距離ではスナイパーライフルとして、近距離では掃射可能な機関銃として運用できる、繁特製の多目的ライフルである……が、いくら大輝が飛鳥のパートナー的存在だからといって、対照的に射撃が抜きん出るほど得意というわけではないので、正直に言えば宝の持ち腐れではあった。
「いい援護だ、こちらも攻めなくてはな!」
「白い新型が来るぞ!」
「だがまて、あのブレード……長さはあるが振動していないぞ?」
ツクヨミが持つ刀──それは従来の超振動で物質を切断するブレードとは違い、一切の振動を起こしていなかった。
「ハハッ! そんなナマクラで切れると思うな!」
「その言葉、そのまま返すぞ!」
剣と剣がぶつかり合う──はずが、敵のエーテリアスのブレードはツクヨミの刃によって、両腕ごと切断された。
「月下神斬流一の型──新月」
「バカな、そんな剣で!」
「剣? 違うな……これは刀だ」
「アイエエエ……サムライブレード!? ワザマエェェェーッ!!」
片言の奇怪な日本語と共に、刹那に斬られた敵はゆっくりと海へと落ちていった。
構える刀に一切の刃こぼれは無く、その切れ味の高さがうかがえる。
「アレ作るの結構大変だったなぁ……ブレード五本重ねて一本に圧縮して、そっから何日かけて研磨したっけか……」
「万能すぎるでしょ、君!」
「次はそうだな……合体ロボットでも──」
「それ以上はやめて!」
このままではこのマッドサイエンティストが何を作り出すか分かったものではないので、帝は繁に深く釘を刺しておく。
──無論、その釘はすぐ抜けるだろうが……。
「さて、あっちも頑張ってるみたいだし、私達も頑張るわよ!」
「あいあいさー」
「もー、舵取ってるのは僕なんですからねー……」
自分の手腕に全てを託されている光は、周りの自由な発言に疲れた形相でそう呟いた。
「くっ、行かせるか!」
「余所見してんなよ!」
「邪魔をするな紅白色!」
「だせぇよ! 角付きとか、白兜とか色々あるだろ!?」
アマツの白地に赤の機体色を見て、アレクは紅白色という別称を付けるが、もちろん飛鳥はそんなめでたい別称に納得するわけなく、突っかかるようにぶつかり合う。
しかし、オーソドックスなパワーアップ機である換装パーツ一型は、他と比べて特殊な装備も特殊な機能もなく、特に飛鳥のアマツに至っては中距離機として、二人のようなオリジナル兵器も存在せず、言ってしまえば特徴らしい特徴もなくとても地味なのであった。
「わけのわからんことを……各機援護しろ、確実に叩く!」
「そっちにいったぞ、飛鳥!」
「六機同時攻撃、貴様に捌けるか!!」
「へっ……だーかーらー、何度も言わせんなよ。俺は──」
前方から迫る一機目の攻撃を前進しつつ回避し、後方からの二機目もろとも背中のブースターに接続された二丁のライフルで、背後にいるはずの敵の武装を的確に撃ち落とす。
「スペシャルで──」
その一瞬の行動に怯む三機目を容赦なく切り払うと、三機目の後方から迫る四機目に目掛けて三機目を蹴り出すと、空中で衝突した二機はそのまま体勢を崩し、飛鳥から遠退いていく。
「スーパーパイロットで──」
頭上から五機目、足下から六機目の敵が来る。五機目に対して三機目が手放したライフルを左手に取り、ブレードを持った腕だけを打ち落とす。
すかさず銃を六機目に目掛けて投げ捨て、勢いのまま落下してくる五機目の左腕を掴み、そのまま怯んでいる六機目に目掛けて振り投げ、あえなく衝突する。
「主人公なんだぜ?」
「バカな、全方位からの攻撃を防ぐだけでなく、一瞬で全機退けただと!?」
「さすが、全能力トップの男は違いますね。性格はアレですけど」
「アレで、刹那の空間把握能力、零のエーテル技能、貴理子の操縦技能の三つを合わせ持ってるからスゴいのよね……」
「アレ、アレって、飛鳥さんに少し失礼ですよ……」
「だって
光の擁護にカグヤと命は何の迷いもなくそう答えた。
「ま、この場はアレに任せておくとして……基地までの距離は?」
「もうすぐで主砲射程圏内だ」
「敵母艦が一隻存在しますが、艦の武装は通常兵器のみですので、フィールドを展開すれば問題はないかと」
「だったら無視! 真っ直ぐ基地に向かうわよ!」
カグヤはビッと人差し指を差して、モニターに映る目標に攻めるよう命令を出す。
「よし、主砲射程圏! でも──!」
「主砲、撃てーっ!!」
焔の言葉も聞かずにエーテリオンから放たれた主砲……それは基地上空を通り過ぎ、その後方の山頂を焼き払っていった。
「どこ撃ってんのよ!」
「仕方ねぇだろ艦長、砲身がこれ以上下に向かないんだよ」
「やっぱり元々対空を想定した主砲ですから地上には撃てないですか……ミサイルだと対空迎撃装置に阻まれるでしょうし、どうしますか?」
「むぅ……どうにかブッ壊すには……主砲、対空、上向き……そうよ!」
パチンと指を鳴らし何かを閃いたカグヤ。そうして彼女が指示した命令は──
「光、バレルロールよ!」
「バレ……なんですか?」
「バレルロールよ、バレルロール! こう、グルッと」
手を戦艦に見立て、カグヤは手をねじるように時計回りに回し、腕を突き出す。
もちろん光の第一声は反対から始まる。
「できるわけないでしょうが! ここ宇宙じゃないんですよ!?」
「命、できるの? できないの?」
「機体制御が面倒ですが、一応出来ますよ──艦内がとんでもないことになるでしょうが」
「でも棚とベッドには固定機能もあるから、とんでもない事になるのは机の上ぐらいじゃない?」
「ま、それもそうですねー」
「待て待て待てーいっ!!」
今まで褒められたり驚かれたりで、なんだかんだ有頂天気味だった繁が、急に血相を変え慌てた様子で叫び出す。
「なによ、先生」
「バレルロールだと? ふざけるな! 今俺の机の上にはな、ようやくフルスクラッチして出来上がったエーテリアスのプラスチックフィギュアがあるんだ! あとは型を取って量産しちまえば、好きな改造も、マニアへ販売だって出来るんだよ! だから──」
「バレルロール開始!」
「艦内の皆さんは所定の位置で安全ベルトを装着して、少々お待ちくださーい」
「おいいいいいぃぃぃーっ!?」
繁の必死の訴えなどお構い無しに、エーテリオンは少しずつ右へと傾いていった。
「くそっ! アイツらに人の心はないのか!?」
「せ、先生どこに!」
「部屋だ!!」
「もう回転が始まってるのに、き、危険ですよ! 先生、先生ーっ!!」
艦の傾きにも負けず、繁は格納庫からダッシュで部屋へと向かう。
己の築き上げた集大成──努力と汗と長い時間をかけた、たった数十グラムの宝を守るために……。
(部屋までダッシュで二分弱、この調子ならまだ間に合う!)
「うおおおぉぉぉーっ!! 俺のフィギュアァァァーッ!」
走り、走り、時に跳ぶ。そうして迎えた部屋の入り口を教員カードを叩き付けることで開け、そのままの勢いで転がり込み、再び跳躍し机へと飛びかかる。
「よし、今度こそいけるぜカグヤ!」
「この状態で撃てる限り撃ちなさい! 発射、発射! 発射ーッ!!」
上下逆さまとなったエーテリオンから放たれる閃光が、地を、草木を、建物を焼き払い。巨大な量産基地を容赦なく蹂躙していく。
よし、とガッツポーズをするカグヤだったが、命は逆さまの状態で状況をすぐさま把握しカグヤに伝えることにした。
「目標尚も健在」
「チッ、しぶとい! 光、もう一度バレルロールよ!」
「うえぇぇ、またですか!?」
「ダメです艦長、地球上での立て続けのバレルロールは、艦への負担が大きすぎます。それに──」
命は艦内カメラの一つをカグヤに見せる。
「ふはは……俺に不可能はないんだからな……カハッ!」
大事なフィギュアを胸に抱き、艦の回転の中必死に守り抜き、部屋の中で満足気な顔で倒れた漢の姿がそこにはあった。
「今回ったら、たぶん死にます」
「……先生のことはともかく、艦の負担は避けたいわね。別の方法……命、基地の地図を出して」
「あーい」
「……基地の大きさ、地形、エーテリオンの可能な攻撃手段……そこから導き出される結論は……」
モニターに表示される巨大な地図。カグヤはその知恵と独自の発想力をもって最適な作戦を一つ一つ導き出していく。
──そして。
「光!」
「はいはい、今度はなんですか?」
再び何か妙案を閃いたカグヤ。
どうせとんでもない事なんだろう、そして、そのとんでもない事をやらされるんだろうと予想し、諦め半分に光は話の内容を聞いた。
「基地にこの艦をぶつけるわよ!」
「本当にとんでもない!?」
あまりにもブッ飛んだその発言に、身構えていた光も思わず声を大にして驚いた。
「艦の負担がどうとかいってませんでしたか!?」
「問題ないわよ、底面にエーテルフィールド重点的に展開して、そのフィールドで基地を圧壊させる──エーテリオンで基地を押すのよ!」
「無茶です!!」
「成せば成る、エーテリオンは男の子!」
「艦に性別なんてありませんよ!!」
「チッ! ああもう、つべこべつべこべうっさいわね!! なんで素直にやりますって言えないのよ!」
強い反論を続ける光に対し堪忍袋の緒が切れたカグヤは艦長席から立ち上がると、光を無理やり椅子から引き剥がす。
「焔、押さえてなさい」
「りょーかい!」
「ちょっと艦長──って、ほ、ほ、ほ、焔さん、胸、胸が当たってますって!」
「……? だから?」
「ふん、ウブな光はこれで行動不能、あとはこの私に任せなさいってーの!」
悪い笑みを浮かべながら両手で舵を握り、攻撃目標をしっかりと定めると、エーテリオンは高度を下げながら更に加速する。
その行為に一切のためらいがないのは実にカグヤらしいともいえる。
「このまま最大戦速を維持、エーテルフィールド全開、総員対ショック姿勢! そのまま動かず座ってなさい!!」
視認できるほどの濃いエーテルを纏ったエーテリオンは、たった一人の無謀な運転により、真っ直ぐに目標へと突き進む。
「エーテリオンに栄光あれえぇぇーっ!!」
「はっはっはー、基地がゴミのようだー」
「それ失敗する人のぶッ──し、舌噛んだ!」
衝突と同時に90度横へ回頭し、ドリフトするかのように横滑り状態で基地を次々と圧潰させる。
全長400メートル程の戦艦が放つフィールドは、基地を跡形もなく粉々に粉砕していったのであった。
──一人の少女の高笑いと共に……。
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