第一章 艦長、はじまりです。
第一話 艦長、ここが前線です。
世界がWCの侵略によりエーテルの存在を恐れる一方、変態技術国家と名高き日本はエーテルの発見当初からその未知のエネルギーに興味を抱き、尽力を注いで研究を進めていた。
エーテルの特性や性質、その使用と導入方法、そしてエーテル生成方法……それら全てを対WC用兵器開発をそっちのけで独自に調べ上げた日本は、結果的にWCの侵略から国を守る──そう、あくまで自国の自衛のためという名目で、エーテルを使用する兵器を作り上げることに成功したのであった。
たとえ日本から遠く離れた地域で粋に暴れまわっていたとしても勘違いしてはいけない、これは自国の自衛のためである。
艦長が「あいつらは日本に来るわ! 日本はああいうのに狙われやすいんだから、絶対よ、絶対!」などと根拠のない発言でいつも無理矢理お偉いさんを言いくるめ、明らかに日本だけでは止まらず地球圏内全てを守ろうとしているようにも感じるが、それは気のせいである……。
「遊撃魔導戦艦エーテリオン、定刻どおりにインド洋から大西洋に転移しゅーりょー、各部異常なし」
自国防衛を掲げるその艦は、何故かインド洋からやってきた。
副艦長兼オペレーター、兼その他戦艦の諸々を担当する自他共に認める天才少女、
まるで適当にやっているように見えるが、彼女の仕事は見かけによらずいつも完璧であった。
「オッケー、それじゃ、貧相な攻撃で哀れにも残った四十機全部落とすわよ。全機出して!」
「りょーかーい、左右カタパルト展開開始。完了次第、一、二番隊、その後三番隊の皆さん、出撃どうぞ」
艦首両舷から動物の前足のように前方に突き出した二本のカタパルトの入り口が上下にゆっくりと開かれる。
「それじゃあ切り込み隊長セッちゃん、レイちゃん、いっちゃって!」
「ちゃんは余計だ」
両カタパルトに機体の足を固定させた二人が、この船の艦長である
「まったく、これだから堅物キャラとキレキャラはノリが悪いわねぇ……まぁいいわ、ちゃちゃっと出撃しちゃって!」
「堅物、か……一番隊隊長、
「レイちゃん、か……って、そんな可愛い名前なんて似合わねぇーっての!
艦内カタパルトから勢いよく大西洋上空に飛び立ったソレは、その場にいた何も知らない海軍の度肝を再び抜かせた。
彼等の目の前に現れたのは、戦闘機とは程遠い形状──
右手には機体に合わせたスケールの銃を持ち、腰には近接用のブレードまで備え付けられていた純白の機体は、戦闘機並のスピードで空を滑空する。
米軍クルーは「これが十年間の日本の変態技術の成果だというのか?」「いや、それにしては進化しすぎだろ常識的に考えて!」「ははは、日本の技術には参ったな!」などと思い思いのことを口走りながら目の前の状況を呆然と見送っているうちに、エーテリオンからは計十機の機体が空を舞っていた。
「全
「よーし、それじゃあ本艦はこれから対空ミサイルを発射しつつ、艦砲射撃の届く距離まで全速全身よ!」
「……えーっと、進まないとダメですか? 戦線はみんなに任せればどうにかなると思うから僕達は後方で……」
中性的な顔立ちをした操舵手はゆっくり振り返り、聞いても無駄だと分かりつつもカグヤに軽い意見を述べてみた。
「なに女々しいこと言ってんのよ、だから男の娘って馬鹿にされんのよ、光」
「僕の名前はひかるです、ひかりじゃありません!」
「細かいことはいいのよ、男なら黙って全速全身! ゴー、ゴー! ゴー!!」
「セクハラ反対ですよ! もう……どうなっても知りませんからね」
カグヤの戦ものへったくれもない滅茶苦茶な命令を、
とはいえ実際のところ、こんな無理無茶無策に無謀を上乗せした命令にもかかわらず、なんだかんだで今まで上手くいっているので、口では嫌だと言いながらも光自身それほど危険だとは感じてはいなかったのだが、やはり戦艦を最前線へと進めるのには気が引けてしまう。
「焔、射程に入ったらミサイル全門開放全弾発射よ! 主砲と副砲の準備も今のうちに済ませといて」
「了解、ミサイル発射管全門開放! 主砲、副砲発射準備開始!」
カグヤの危険極まりないノリに、火器管制を担当する
二人共ド派手なドンパチが大好きな、いわゆる似た者同士なのである。
だが、楽しそうな二人には悪いがとは思いながら、命はゆっくり振り返り口を開いた。
「……えーっと、全弾ですか? 一発ウン千万円のミサイルを、全ての発射管から全部ですか?」
「そうよ、何か問題ある?」
「問題ですか? 日本政府の財政難に拍車がマッハでかかります、そして採算を取るために様々な税金が今後跳ね上がりますよ?」
艦長であるカグヤの質問に対し命は冷静にマジレスを返すと同時に、無気力で無機質な目で「やめろ」と訴えかけるように見る。
──が、そんなものでこの艦長が折れるわけもなく。
「フン、知ったこっちゃないわ。だいたい、増税が怖くて世界平和が守れるわけないのよ! そう、敵を前にしてミサイルの出し惜しみなんて、逆に許されないわ! 撃ってこその戦艦、撃ってこその戦場、撃たなきゃ撃たれる、それだけなんだから!」
「はぁ、もう好きにしてください……」
「艦長、ミサイルの射程圏に入ったぜ!」
「っしゃあ! 全弾発射、ってーッ!!」
「あぁ、また国債が増える……」
戦艦後方の大型発射管から16、側面に備え付けられている左右四つの中型発射管から64、前方に目掛けて一斉に発射される。このたった一瞬でいったい何人分の一生の内に稼ぐ額が空の彼方に飛んでいったのだろうか? 命は考える気もしなかった。
「次弾装填後再発射よ!」
「……光、主砲有効距離への到達は?」
「え、もうすぐで到着しま──いえ、させます!」
命はこれ以上撃たせまいと光に声を掛け、光はその意図をすぐに察し、艦の速度を上げた。
この艦に搭載されている残りの武装は、主砲と副砲と対空砲火用のバルカン砲だが、実弾を使う副砲とバルカン砲も、ミサイルに比べれば安いものだし、エーテルを弾として発射する主砲に至っては、艦の自給自足によりタダ。遠距離からミサイルを撃ち尽くすよりは、とっても経済的であった。
「だ、そうです艦長けど……どうしますか?」
「ん? んー、焔ー、主砲と副砲はもう撃てるの?」
「おう、大丈夫だぜ!」
「フフン、よーし、それじゃあ撃つわよー! やっぱり戦艦の華は、スッとろいミサイルなんかより大口径の主砲よね」
だったら何故撃った。命と光は同じ事を思ったが、そんなもの答えは決まってる。
──ただ、撃ちたいからだ。
「よーし、範囲内に入ったぜ。目標、一番密集しているところ。いけるぜ艦長!」
「オッケー、主砲、副砲、ってーッ!!」
カタパルトを覆う左右の甲板に取り付けられている200cm二連エーテル収束砲から、蒼白色の閃光がカグヤの命令と共に一斉に放たれた。主砲はエーテルによってバリアを展開しているWCを軽々となぎ払い、八体の敵影が一瞬で消えた。
ちなみに中央に飛び出たブリッジの下方左右に備え付けられている副砲(120cm電磁加速砲)は、早い動きのWCにまったく当たる気配を見せなかったので、カグヤが主砲に夢中になっている内に命が発射装置へロックをかける。
「艦長、敵一機がこちらに向かってます」
「焔、弾幕張って、敵を近づけさせないで!」
「了解!」
艦の自動対空砲が、迫る一機に向けて集中砲火を開始した。しかし、そんな弾幕をものともせず、WCの機体は砲撃の網を掻い潜り、自らの攻撃圏内までに接近した。
「撃墜失敗。敵の攻撃、きます!」
「回避ーッ!」
ズドン!!
カグヤの命令もむなしく、艦がガクンと揺れた。小型機の攻撃──自身にエーテルを
「ちょっと光! 回避って言ったらちゃんと避けなさいよ!」
「そんな無茶言わないでくださいよ! 直撃したの回避って言われた三秒後ですよ!?」
「三秒あれば充分でしょうが! 今時のアニメの操舵手なら、艦長が回避って言ったら全部回避するのよ!」
「これ現実! アニメじゃない、アニメじゃないですから!」
「んなこと知ってるわよ! それよりもさっさと立て直しなさい、光。まったく、敵が来るなんて前線は何やってんのよ!」
艦長、ここが前線です。と言いいたいところだが、言ったところでこの艦長がわざわざ敵を目の前に引き返す訳もないので、命は黙って被害箇所の確認を済ませるのであった。
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