遊撃魔導戦艦エーテリオン
天月長門
プロローグ
北大西洋上のとある海域……そこには某国に所属する海軍の主力艦隊群が隊列を成していた。
「艦長、全艦所定の位置に到着。戦闘機各機、発進準備も整いました。迎撃準備完了です」
「うむ。目標の進行はどうなっている!」
「目標、以前進行方向、速度変わらず進行中。各艦ミサイル有効射程圏内まで残り六十秒」
「各ミサイル巡洋艦は目標が射程に入り次第攻撃開始、ミサイルの着弾と同時に各航空戦力を全機投入、残存した目標を各個撃破しろ! 絶対に奴らに国土への侵入を許すな──絶対にだ!!」
「了解、各ミサイル巡洋艦は目標が射程に入り次第攻撃開始、ミサイル着弾と同時に全機出撃、残存した目標を各個撃破せよ! 繰り返す、各ミサイル巡洋艦は目標が射程に入り次第──」
オペレーターが命令を各艦隊に通達すると、ブリッジの緊迫感はピークに達していた。
戦争──だとすれば、今よりどれだけ気が楽だったろう。国が持つ戦力をもってすれば、敵は圧倒的な力の前に萎縮し、こちらの勝利は約束されてるも同然である。
だが今繰り広げられようとしている戦いは戦争ではない。
──未知の侵略者、通称
敵は如何なる兵器を見たところで、決して萎縮などしない謎の無人兵器。
所在、目的を一切掴めない敵に対し、人類に勝利というものは存在しない。人類に与えられた未来は、母国──いや世界を守れるか、奪われるかのどちらかであった。
「ミサイルの着弾を確認」
「残存した敵の数を割り出せ!」
響く爆発音と共に巻き上がる爆煙。その暗雲を掻き分けて黒い凸多面体の浮遊兵器が次々に姿を現す。
「敵残り大型級二、中型十四、小型二十四の計四十機。先制攻撃により敵戦力の二割を撃墜しました!」
「たった二割か……」
艦長はクルーに悟られない程度に眉間にしわを寄せながら、内心であせりを感じた。それは誰もが同じことであった。
いくらこちらの戦闘機の数が敵より遥かに多いとは言っても、敵の戦闘能力は一騎当千まではいかないも、一戦闘機の戦力を軽く凌駕している。数ある戦闘機の力などせいぜい小型の敵と対になる程度……それが残り二十四機、それ以上の大物が十六機。勝機は限りなく少なく、多大な被害を被るであろう戦い……。
部隊の最高指揮官として、避けられない犠牲に頭を抱えた──そんな時であった。
「こ、これは!?」
「どうした!!」
「本艦隊と敵の間に高エーテル反応! なにかが新たに転移してきます!!」
「なんだと……新手か!?」
隊列する艦隊の前方に、目視できるほど巨大な光の輪が出現する。それは侵略者の出現方法と酷似していたが、そのリングの大きさは今まで見たことがないほど巨大で、神々しかった。
さらなる増援──そこにいる者たちは現れるであろう新たな脅威に死を覚悟する。
「何が現れるというんだ……?」
「か、艦長、反応地点からこちらに向けて通信が!」
「つ、通信だと?」
この戦場で何が起ころうとしている……?
今までにない事象に、ゴクリと生唾を飲み込んだ艦長が部下に通信を繋ぐように指示を出すと、辺りに今以上に緊張が走る。
「……」
一体、何を話してくるというのだ……。
「あー、あー、マイクチェック、マイクチェック。まいどお騒がせして申し訳ございません。こちら遊撃戦艦エーテリオンは今からそちらに転移します、海軍の皆さんは危険ですので出撃した戦闘機を白線まで下げて退避してくださーい。いじょ」
「いやいや命ちゃん、どこにも白線なんてないから! ここ海の上だからね!?」
「もう、一々突っ込まなくてもいいのよ光。それと命も一々そんな勧告なんていらないわよ、もしアイツらが邪魔したらWCもろとも主砲でぶっ飛ばせばいいんだから。そもそもマンガやアニメじゃないんだから、日本語話したところで相手に伝わるわけないじゃない!」
「あー……それもそうですね。でも、国際問題になることはやめてくださいよ艦長ー、また総理にどやされますよ?」
「椅子に座ってるだけのロートル世代がどうなろうが私の知ったことじゃないわよ。いい? 新しい時代を作るのはあんな老人じゃないの、うら若き私達学生なのよ!」
ブリッジの艦長他一同はまず自分の耳を疑った。死を前に、空気が重くむせるような戦艦に突如流れてきた声は、とても戦場から聞こえてくるものとは思えないほど平和で、女子高生同士のような和気藹々とした会話だった。
「なんなのだ一体……」
「そういえば……聞いたことがある」
「知っているのか、ジョースター!?」
ジョースターと呼ばれた操舵手が、コクリとうなずき話を始める。謎の通信に感化されたせいか、ブリッジの重圧とした空気は一転し、どこかコミカルな空気に変わっていた。
「WCとの戦闘が始まれば、光の輪から現れて敵を撃墜する空飛ぶ戦艦があると……その正体、所属、国籍は一切不明で、彼等が何者であるか知るものはいない、と……」
「……いや、日本語話してるし、日本所属なんじゃないのか?」
「ハッ! 言われて見ればそれもそうですね……盲点でした艦長」
「バカか! お前の目が節穴なだけだ!!」
「か、艦長!」
「何だ!」
「航空機、退避させなくてよろしいんですか?」
「──あ」
場にそぐわない姦しい通信のせいで、艦長は今が戦闘の真っ只中で、自分がその指揮を取る立場だということをすっかり忘れさせられていた。
リングの光は徐々に強くなり、このまま戦闘機が進めば、間違いなく危険である。
「各機退避ーッ!! 前方のリングから離れろッ!!」
「「りょ、了解!」」
「エーテル反応さらに増幅……きます!」
「あ、あれが……エーテリオン……デカい……」
現れた戦艦の全長が自分たちの乗る戦艦よりも一回り大きいことにも驚きだが、なによりもSF映画にでも登場するような造形の白金色の戦艦が実際に空に浮き、飛行しているということに、この場にいた全員が驚愕した。
今から十二年前、世界中で発見されたものが二ある。一つは地球に攻め入る侵略者、WCの存在。そしてもう一つは、新たなエネルギー──エーテルであった。
大気中に含まれるこのエーテルが、エネルギーとして使用できるとわかったのは、皮肉にも侵略者の攻撃を受けてのことである。
──何故か? それは侵略者の使用する未知の力、それこそがエーテルだっからである。
攻撃に対する衝撃緩和や物体の再構築による破損箇所の再生、果てには空間の転移まで。様々な非科学的な魔法に似た力は、全てエーテルにより発現することができた。
そして人類は、そんなエーテルの力によって侵略行為を行う魔法使いの集団WCと恐れながらも必死に戦っているのである。
「さーて、魔女狩りの時間ね! 一匹残らずぶっ倒すわよ!!」
おそらく、恐れながら……必死に。
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