第十四話 王都の危機

 リリィに浮かんだドラゴンズ・アークの件は直ちに王宮ならびにユーリに伝わった。光達は彩と共に呼び出される。


 「姉貴、戦闘できるのか?」


 「無理よ…姫華が居てくれるだけマシってレベル…というか、あの世界に居た人間は記憶がおかしくなって魔力を正常に扱えないの」


竜狩人が居ても、肝心の魔法が使えないのでは意味がない。


 「それ大分ヤバイだろ」


 「言わなくても分かってる…とりあえず、ユーリ王を交えて対策を話し合うの」


 「仕方ないか…七夜、エンジン掛けてくれ。直に乗りこむ」


 「あいよー」


IS-3のエンジン音が響く。


 「え…!?光、まさか戦車乗ったまま行く気!?」


彩がたじろぐ。


 「オレらにとっちゃコイツが対ドラゴンの兵器なんだぜ?むしろ置いていくって発想が無茶だろ。定員オーバーだけど、姉貴も乗ってけよ」


反論できないまま、砲塔の上によじ登る彩。


 「よーし、出してくれ。」


 「任せな!!」


七夜が一気に加速させる。王宮内部を爆走し始めた。


ゴゴゴゴゴ…キュルキュルキュル…


エンジン音と履帯の音が響き渡る。


 「なんだあれ!?」


 「え!?彩隊長!?」


王宮関係者は見たこともない車両が爆走して、しかも綾が乗っているという事実を受け止め切れなかった。そんな事は一切気にせず、IS-3は王の間へ向かう。


 「そこ右!!」


彩が道を教える。意外と馴染んでいた。


 「床が綺麗過ぎて滑りやがる!ドリフトすっから、掴まってな!!」


七夜がブレーキを駆使して、横滑りさせる。


 「さすがIS-3だぜ!機動力高いからこんな真似もできる!」


光は満足げだ。


 「ちょっとぉおおおお!!!」


彩は振り落とされそうになっている。


 「気をつけてくれよ?姉貴」


 「もうちょっと丁寧に走ろうよ!!」


憤慨する彩。


 「おいおい…戦車にそれ求めるなよ。しかもソ連製だぜ?大雑把でいいのさ」


 「もーっ!!!」


そうこうしてる内に目的地が近づく。


 「あ、そこの壁の向こうが王の間よ!」


 「分かった、七夜!停車!」


 「あいよ!!」


急ブレーキで直ぐに停車する。


 「え?どうして止まるの?入口は向こうだけど」


彩が首をかしげる。


 「んなもん、迂回は面倒だ。主砲装填よーし!」


光が合図する。


 「照準よし…」


紫音はいつでも準備万端だ。


 「撃て!!!」


ズドォォン!!!


建物内部なせいもあってかとんでもない轟音が轟いた。


ガラガラ…ドンッ…


壁が崩れ落ちる。


 「よーし、前進!」


穴に向かって走り始める。


 「ひ…光…何て事…」


彩が青ざめる。


 「ドラゴン来るって事は非常事態だろ?固いこと言うなって」


光は何も気にしていない。しかし、壁を崩された側は大騒ぎだ。


 「何事!?」


ユーリが立ち上がる。


 「女王様、下がってください!」


カレンが警戒する。敵襲かもしれない。


 「ちーっす。」


軽い挨拶と共に二人の前には、見たこともない奇怪な車が姿を見せる。


 「あなたはもしや…?」


カレンが少し警戒を緩める。


 「オレは氷月光だ。アイリス姉妹は、この通り無事だぜ。レイは記憶喪失でリリィはまだ眠ったままだ。ただ、ドラゴンズ・アークってのが浮かんでる。」


光がIS-3から姉妹を降ろす。


 「良かった…!!」


ユーリが駆け寄る。直ぐに使用人達を呼びつけた。


 「すぐに二人を部屋へ運びなさい。安静にさせてあげなくては。」


 「かしこまりました!」


姉妹を部屋へ連れて行かせる。今は休ませなくてはならない。


 「ユーリ王…リリィのドラゴンズ・アークなのですが…」


彩が話しかける。


 「何か分かった…?」


 「恐らく…フィアンマ・カラミタですね…」


ドラゴンの名前が出てくる。


 「また来たのね…」


過去にも同じドラゴンに襲撃を受けている。


 「どんなドラゴンなんだ?」


光が口を挟む。


 「災厄竜よ…簡単に言えば、火を吐いて土地を壊滅させる竜。」


 「なんつーか…いかにもドラゴンだな」


時と存在を司るエジステ・オーラスに比べればかなり普通に思えた。


 「そうは言っても、こちらの戦力がほぼ0だしね…一回でも炎を吐いたら恐らく…王都壊滅よ…」


 「んなもんどうやって倒すんだ?」


 「基本的には、ドラゴンズ・アークを確認したら、遠征討伐隊を編成して王都に来る前に倒すの」


 「なるほど。それと、魔法って結局なんなんだ?」


 「それは私が説明します。魔法とは、ドラゴンを倒す力です。アイリス王国の国民は皆、魔力を持っています。その中から特に才ある者はドラゴンを倒す武器を召喚できます。」


 「なるほど。対ドラゴン戦に使うわけだ」


 「はい。また、魔力はその者を守護します。これにより竜狩人は高い戦闘力を持つのです。また、国民達が王都に集うことで魔力が集まり、王都そのものが超高防御の要塞としても機能するのです。」


 「塵も積もれば山となるってやつか…しかも王都は対ドラゴン用要塞都市って訳だな。どこの第三新○京市だよ…」


 「ですが、過去に王都での戦闘は起きていません。ひとえに竜狩人の活躍のおかげです。」


 「んじゃ今回が最初って事でいいんじゃねーの?」


 「しかし…戦力が…」


 「ここにわざわざ戦車で乗り込んだんだぜ?俺らに任せな」


 「ですが…いくらエジステ・オーラスを撃破したと言っても、今度は群れで攻めてくるのですよ…?」


 「一撃で片づけりゃいい話だ」


 「へ…?」


その言葉をユーリは信じられなかった。


 「七夜!紫音!出てきてくれ」


 「あいよー」


 「なに…?」


二人を降車させる。


 「なあ七夜。オレがきっちり記憶してれば、どんな兵器でも出せるんだよな?」


 「もちろんさ!ただ、アタシの魔力が減ってるから一から作るとガス欠するかもだぜ?」


 「問題ない。やるぞ!」


 「わかった!」


光と七夜が手を繋ぐ。そしてIS-3を白い光が包み込む。


 「一体何が…」


カレンが目の前の現象に注目する。


 「よし!これでどうだ!」


光の声と共に現れたのは、IS-3に似た別の戦車だ。


 「こいつは驚いたな…ほとんど魔力くわなかったぜ…」


七夜が驚く。


 「そりゃそうさ。こいつは、IS-3の車体を使って試作されたObject704だからな」


152mm砲を搭載するソ連が開発した自走砲である。このモデルはISU152の派生として製造されたものの、量産はされなかった。光が今回呼び出したのは長砲身の152mm砲を装備させている。


 「砲身がすごく太い…」


紫音が呟く。


 「そりゃ152mm砲だからな。こいつはソ連では自走砲として分類されてるが、俺的には駆逐戦車だ。凄まじい破壊力を秘めてるぜ」


 「んで、光。こいつでドラゴンを撃ち落とすって訳か?」


七夜が確認する。


 「ああ。ちょうどそこのベランダから狙撃すりゃいいだろ。射程は18kmくらいあるしな」


 「なるほどな?じゃあ、射撃位置に移動させるか」


戦闘室の形状は異なるが元はIS-3なので中に入っても迷うことがない。直ぐにエンジンを掛けて、ベランダの方へ移動させる。


 「えーと…私は何すれば…?」


彩が光に尋ねる。何もしないのは親衛隊長としても、姉としても申し訳ない。


 「姉貴は観測頼む。一番近いドラゴンを発見して教えてくれ。射撃目標を選ぶのに必要だ」


 「わかったわ!」


 「我々はどうしましょう…」


ユーリも何かしたい。玉座で待つなどできるはずもない。


 「女王は国民を落ち着かせてくれ。後、ここの防御を上げれるだけ上げてくれ。今、王都はパニックだろうからな。女王の威光なら何とかなるだろ」


光が適材適所で采配する。


 「分かりました…!」


ユーリがベランダに出る。眼下には国民が集結していた。


 「アイリス王国の皆さん…ユーリです。今、この地へドラゴンが向かっています。ですが、心配は無用です。我々には新たな竜狩人が居るのです!これをご覧なさい!」


ユーリが指し示したのは、ベランダに止めてあるObject704だ。


 「新たな竜狩人が召喚せし、ドラゴンを一撃の元に討伐する兵器ですわ!私は、竜狩人を信じます!だから、皆さんも信じるのです!力を合わせ、王都を守るのです!」


高らかに宣言した。集まっていた国民達がどよめく。そして混乱は収まった。


 「ユーリ王、王都の魔法防御が格段に上昇しています!これなら、ドラゴンに攻撃されても耐えられますよ!」


カレンが魔力を観測している。


 「ならば…一安心です…」


ほっと胸を撫で下ろす。


 「さてと…砲弾は30発あるが…足りるわけないだろうな」


光が考え込む。


 「足りねーならアタシが生成すりゃいいだけだろ?」


 「そうなんだが…戦闘前に食事しておかねーと魔力どころか体力もしんどくなるな…」


 「それはそうだな」


 「それに…152mm砲弾は50kg近いから、俺もしっかり飯食わねーと」


 「ならば、直ぐに食事を用意させます!」


ユーリが使用人に命じる。1時間もしない内に、豪華な料理が運ばれてきた。


 「さすが、王族…色々すげーな…」


豪華さと早さに驚く光。


 「青蓮院の家でもここまではできない…」


紫音も驚く。


 「しっかり腹ごしらえしなきゃね」


彩は慣れてる風だ。


  

 光達は食事を済ませ、各自位置についていた。


 「さてと…初弾装填よし。」


 「視界内にドラゴンはいないね」


彩が報告する。


 「そう言えば…王都は魔法防御がありますけど…あなたたちのそれは大丈夫なのですか?」


ユーリが心配になる。


 「こいつは鋼鉄で出来てるんだぜ?問題ない」


 「なんと…貴重な鉄で…」


 「だから心配すんなって」


 「はい…」


異世界の技術力を感じるユーリ。


 「光!ドラゴン!」


突然、彩が叫ぶ。


 「数は?!」


 「3!」


 「よし!七夜、ドラゴンに向けて旋回だ!」


 「任せな!」


砲塔がない戦車では車体を動かして照準する。操縦手の技量が試される。


 「先頭の一頭に照準完了…」


紫音が素早く狙いを定めた。


 「よし!発射!!!」


ズドォオオオンッ…!!


その轟音は周囲の空気を振動させるほどのものだった。あまりの音と衝撃でユーリとカレンは腰を抜かしてしまった。


 「…命中!撃破!」


光がドラゴンの撃破を確認した。本当に一撃で倒してしまった。


 「この距離で攻撃を当てるだけでも凄いのに…一撃だなんて…」


ユーリはその規格外すぎる攻撃能力に戦慄した。


 「次の目標に移るぞ!装填完了!」


光は車長と装填手を兼ねている。外を見たり砲弾を装填したりと忙しい。しかも弾が物凄く重い。それでも不思議と身軽に動けた。


 「ドラゴンの先頭部隊、撃破!」


光のコールにその場の皆が拍手する。王都へ全く近づかせずに取り巻きを全て倒してみせた。


 「光…ほんと凄いね…」


彩が話しかける。


 「ま、戦車の性能もあるけどな」


 「にしても本当に一撃で倒してるし…」


 「てか次来るのはいよいよか?」


 「そうだね…フィアンマ・カラミタが来るわ…」


 「なんだっけ…確か結晶っぽいの破壊すりゃいいんだっけか?」


 「ドラゴン・クリスタルね…」


 「どこら辺にあるんだ?」


 「えーとね…災厄竜は分かりやすくて、口の中なの。前に襲撃された時も口を集中砲火して倒したのよ」


意外と分かりやすい弱点だ。


 「なら…とっておきを使ってやるか」


光は先ほどとは違う砲弾を選び、装填する。砲撃準備が整った時、


 「来たわ!!!」


彩が叫ぶ。今までのドラゴンとは桁違いの巨体を誇るドラゴンが飛来してきた。まるで火山が飛んでいるかのような見た目だ。マグマらしきものが煌々と輝く。


 「かかってこい…!照準を口に合わせろ!」


巨体のドラゴンからすれば、片手で押しつぶせそうな小さな車両が対峙する。


 「…炎をチャージし始めたわ!!!」


フィアンマ・カラミタは口を開き、炎を収束させている。あんなものを撃たれたら洒落にならない。


 「今だ!今度のはただの弾じゃねぇぞ!撃て!!!」


光が叫ぶ。


ズドォオオオンッ…


大轟音と共に砲弾が口へ飛び込んでいった。


パリンッ…!!!


乾いた音が王都に響く。この音の意味は誰もが知るところだ。その瞬間、


ガォオオオオオ…


ドラゴンの体が雲散霧消した。


 「すごい…何したの…!?」


彩が驚く。確かにObject704の今まで見せた破壊力なら攻撃は通用すると踏んでいた。しかし、相手はフィアンマ・カラミタだ。ある程度は持ちこたえただろうし、一発は向こうの攻撃が来ることを覚悟していた。しかし、やはり一撃で倒してしまった。


 「言っただろ?ただの弾じゃないって。こいつは長砲身だからな、APCR弾っていう隠し弾が撃てるのさ」


 「えーぴーしーあーる…?」


聞きなれない名前だ。


 「硬芯徹甲弾だよ。通常の砲弾より貫通力が高いんだ。だからドラゴンの体内に飛び込んでもそのまま内部まで貫通してクリスタルを破壊できると踏んだんだ。」


 「す…すごい…」


こうして王都は全くの無傷で、しかも魔力零の竜狩人によって、守られたのだ。

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