第十一話 王都への道

 光達はIS-3に乗ってとりあえず、適当に道を進んでいた。方角などがさっぱり分からない為、仕方がない。


 「にしても…家一軒見つからないってどうなんだ…」


砲塔の上で寝転がっている光がボヤく。


 「仕方ないさね…ドラゴンの影響で記憶やらが曖昧になっちまったんだし」


 「この世界のドラゴン凄すぎだろ…存在を司る竜とか…」


 「まー…ドラゴンは超常的存在だしなぁ…」


 「それを神と言うんじゃないのか?」


 「まーな…」


操縦しながら答える七夜。


 「神を倒すってあんまり良くないと思うんだが…」


 「そこら辺のいきさつが記憶からごっそり抜け落ちてるのさ…」


 「なるほどな…だったら尚の事、王都へ急がないとな」


 「だなー…姉妹と紫音も起きないしねぇ…」


三人は未だに目覚めない。


 「とりあえず、町か何かあればいいんだが…」


光は頭を掻く。


 「ま…この道を真っ直ぐ行ってみるしかないんじゃないのかー?」


七夜は割と呑気だ。


 「それしかないな。つか、燃料大丈夫なのか?」


重戦車は重とだけあって走行可能距離が長い訳ではない。そろそろ、ガス欠してもおかしくない。


 「ん?ああ、燃料はアタシの魔力で生成してるから問題ないぜ」


 「待て。七夜は大丈夫なのか?」


 「んー腹が減ってくると魔力が生み出せないから、そろそろどっかで何か食べたいんだけどなぁ…」


腹が減っては戦は出来ぬとはこの事だ。


 「てか、あそこなんか見えるくね?」


光が何かを見つけたようだ。


 「そうだな、行ってみるかい?」


 「もちろんだ!」


光の示した方向へ全速力で走り始める。戦車だけあって、悪路だろうがへっちゃらだ。小高い丘を一気に下った。


 「光!町だぜ!」


七夜が停車させる。


 「だな!やったぜ!!」


小さな宿場町だ。


 「光…?どうしたの…?」


紫音が目を覚ました。


 「お、起きたのか。体大丈夫か?」


 「大丈夫…でもなんか記憶が抜けてるのと…魔法が扱えた筈なのに使えない…」


紫音が手に魔力を込めようとするが何も起きない。


 「あー…記憶が抜け落ちた影響かもなぁ…」


七夜が指摘する。


 「そう…とりあえず、ここどこ…?」


特に気にした風でもなく、現状を把握としようとする。


 「とりあえず見つけた町だ。ここで情報収集しようと思う。」


光が今後の方針と併せて説明する。


 「分かった…」


紫音も納得する。


 「とりあえず、メシだなぁ…アタシはくたくただぜ…」


ここまで燃料を生成しながら操縦してきたのだから当然だ。


 「待て…俺ら金がないぞ…」


物凄く現実な問題だ。どこの世界であれ、金は必要である。


 「あーそれなら心配ないぜ?ほれ」


七夜が金貨の入った袋を取り出す。


 「それどうしたんだ!?」


 「ああ、パルトネは契約すると一定量の金貨を与えられるんだ。」


 「助かるぜ」


袋の中に入ってる金貨はかなり量がある。


 「さてと…戦車はどうするんだい?」


この世界には存在しないモノだ。そのまま町へ乗り入れでもしたら大騒ぎになる。


 「そうだな…片付けちまうと、アイリス姉妹をどうするかって話になるしな…」


目覚めない二人を抱えて歩くのはかなりの負担だ。


 「それに…王族だからなぁ…」


面倒ごとに巻き込まれる事必至である。


 「とりあえず、そこの茂みに隠しとくか」


 「あいよー」


IS-3を茂みに隠して、3人は町へ入った。


 「とりあえず、そこの食事屋っぽいとこ入ろう」


光が店の戸を開ける。


 「いらっしゃい!」


店主が威勢よく挨拶する。


 「てか…メニュー日本語かよ…しかも、普通に定食かよ…」


異世界なのに見慣れた文字に品書きだ。


 「そこら辺の事情も王都に行けば分かるはずさね」


 「もしかしたら…アイリス王国と日本に何か関係あるのかも…」


紫音は現時点での推測を述べる。


 「ま…俺もその考えには同意だな。今のところそれが一番筋通ってる」


三人は空きっ腹を満たした。


 「なあ、一つ聞いていいか?」


光が店主に話しかける。


 「どうしたんだい?」


 「王都ってどう行きゃいいんだ?」


 「やっぱあんたら旅人か!いいぜ!地図やるよ!」


店主がかなり詳細な地図を渡してくれた。


 「おぉ!こいつは助かる!ありがとな!」


 「いいってことよ!」


店を後にして、町中を歩く。


 「町並みは洋風…」


紫音が周りを見渡す。


 「でも言語はやっぱり日本語だな…」


町の人々もやはり日本語を話している。


 「けど服装は、和風と洋風混ざってるんだなぁ」


七夜も周りを見る。


 「そう言ってる七夜は和風だよな」


光が七夜の黒い和服を見ながら言う。


 「ああ♪似合ってるだろ?」


くるっと回って見せる。


 「似合ってるぜ」


素直に感想を言う光。町の人々の服装がバラエティに富んでいるお陰か、光達はあまり目立たない。


 「そういえば…虚構の世界に居た時は、学園にいた…」


紫音が思い出したように言う。


 「そうだったな」


 「学園の制服を着てたはずなのに…なんで元に戻ったんだろう…」


今まで気にしていなかった疑問だ。


 「そりゃ多分だけど、本当の制服と違うのか…」


七夜が考え込みながら答える。


 「そもそも学園が存在しないか…か?」


光がまさかと言った顔で続ける。


 「やっぱり…記憶が曖昧なのと正確な情報が全く足りない…」


 「ま、王都への道は分かったし、いいんじゃね?」


光は意外と前向きだ。


 「どうする?もうちょっと滞在するかい?それとも急ぐかい?」


七夜が尋ねる。


 「そうだな…だが…地図を見るとまだ王都までかなり遠いんだよなぁ…さすがにIS-3の車内じゃ満足に寝れねーし、ここらでしっかり布団で寝ておきたいな」


肩や腰が痛む。あまりにも狭い車内とあっては仕方ない。


 「分かった。アタシはどこでも休めるから、戦車で姉妹を警備するよ」


 「助かる。紫音はどうする?」


 「光についていく…」


 「決まりだな」


七夜はIS-3に戻り、光と紫音は近くに見えた泊まる場所らしき所へ向かった。


 「なあ…紫音」


 「何…?」


 「あれ…旅館だよな…リョカンだよな!?」


思わず指を差して紫音に尋ねる。


 「だね…どう見ても旅館…」


周りの建物は洋風だが、その建物は古き良き日本の伝統を受け継いでいた。


 「もしかして…あるんじゃね…?」


旅館といえばアレである。


 「あるかもね…」


二人は旅館に入り、手早く部屋を取る。そして、施設案内図を見た。


 「あるぜ!!」


 「やった…!」


目的のアレを見つけた。


 「まさか異世界に温泉があるとはな…」


暖簾をくぐりながら、感慨深さを滲ませる。


 「でも…光、ここ混浴みたい…」


 「ま、いいだろ」


結局、気にせず一緒に入った。日本の温泉と何ら遜色ない立派な温泉と露天風呂だ。身体を洗い、二人は露天風呂の方へ入った。


 「あー…日本人はやっぱ風呂だよなぁ…」


 「青蓮院の別邸にも露天風呂はあったけど…ここは格別…」


和む。体の疲れも取れていく感覚がした。


 「しかも…あれ月っぽくね?」


夜空を見上げる。


 「…紫の月も意外と映える…」


なかなか幻想的だった。


 「これで英気を養えるってもんだぜー…」


光は完全にだらけている。


 「光…」


紫音が小声で話しかける。


 「んー?逆上せたか?」


 「ううん…」


そう言って背後から抱き着く。二人の間にはバスタオル一枚しかない。


 「紫音…!?」


さすがに光も焦った。胸が当たっている。


 「…なんていうか…光、変わったなって…目もだけど…それ以外も…」


 「そうか…?」


 「頼もしくなった…最初に会った時の記憶は曖昧でよく覚えてないけど…でも、私は今の光ともっと近い関係でいたい…」


紫音は顔を赤く染めていた。


 「そうか…実はな…」


そう言いながら光が振り向いて紫音を抱きしめる。


 「ひ…ひかる…?」


今度は紫音が焦った。


 「オレも紫音との出会いやあの世界での事はあんま覚えてないんだ…でも、なんだろうな…お前が大切だって今は思える…俺の腐った性根に穴空けてくれた…なんか、それが救いだったのかもな。どうやら俺は七夜との契約でキャラ変わってるらしいけど…今のオレが本当のオレでありたいよ。そして紫音と一緒に居たい。」


お互いこんな経験は初めてなせいか、とても回りくどい。


 「光…好き…ってこういう感情なのかな…?」


少し蕩けた目で紫音が尋ねてくる。バスタオル一枚のその姿は流石の光もそそった。


 「…ああ…俺も、紫音が好きなんだよな…多分これが好きって感情だぜ…」


光も紫音も今まで凄惨な人生を歩んで来た。そのせいか、素直に好きという感情を受け入れられなかったが、今は違っていた。風呂を上がり、部屋へ戻る。


 「紫音…オレどーすりゃいいんだ…」


 「私も聞きたい…どーしよう…」


想いを告げたはいいが、この手の感情を抱くのが初めてなだけに色々戸惑う。


 「なあ…一緒の布団で寝るか…?」


光はふざけている訳でも、いかがわしい事を考えたのでもなく、現状考えられる選択肢を提示しただけだ。


 「そうする…」


紫音は素直に布団に入って来た。迷いはない。


 「紫音…一つ聞いていいか?」


 「なに…?」


布団の中での会話。


 「もし、オレが俺じゃなくなっても、支えてくれるか?」


 「当然…」


 「ありがとな…今のオレからすりゃ…前の俺は自分でも怖いぜ…」


自分で自分が怖くなるほどに、前の光は感情も思考も冷酷さを極めていた。


 「光は私が支える…でも光も私を支えて…?」


 「分かってる。てか俺らって…」


 「ん…?」


 「所謂、恋仲ってやつなのかな…オレらは」


 「多分そう…だと思う…」


良くも悪くも鈍感なカップルである。


 「彼女…か」


 「彼氏…」


布団の中で微笑む二人。


 「さて…寝るか…」


 「うん…抱きしめて欲しい…」


 「分かった」


光は優しく抱きしめてあげた。今まで、こんな幸せな経験どころか、こんなに充実した睡眠すら取れなかった。それもあってか、二人とも直ぐ寝付いた。



 翌朝、先に目覚めたのは光だった。


 「…こんなによく寝れたのなんて生まれて初めてだな…しかも、彼女…か…」


幸せという感情を噛みしめていた。大切な人が出来るという感覚を胸に焼き付ける。


 「あ…光…おはよう…」


紫音が目覚める。


 「ああ、おはよう。いい天気だぜ」


 「そうだね…♪」


紫音は笑顔だ。少しずつ、感情が戻り始めていた。


 「さてと…王都、目指さなきゃな!」


 「そうだね…しっかり着付けなきゃね…」


紫音は基本和装で生活して来た。着付けは一人でもできる。


 「にしても、綺麗な紫色の着物だな…」


高貴さと可憐さを感じさせる美しい仕立てだ。


 「これは…お母様が私をまだ愛してくれていたころに仕立ててもらったの…」


とても大切な思い出の品であり、母を嫌いになり切れない理由でもある。


 「そうだったのか…でも、似合ってるぜ。ホント」


 「わりがとう…♪」


着付け終わり、二人は旅館を出た。


 「手でも…つないでみるか…?」


ぎこちなく光が誘う。


 「う…うん…」


顔を赤らめながら、手を繋ぐ。初めて感じる人の温もりだ。


 「さてと…七夜は起きてるかな」


IS-3を隠しておいた場所へ着いた。


 「なんだなんだ!?手つないでるのか!何があったんだい?」


ニヤニヤ笑いながら七夜が声を掛けて来た。


 「別に何でもいいだろ?アイリス姉妹は?」


露骨に話題を逸らす。


 「ちぇ…せっかく面白いとこだったのになぁ。姉妹の方はまだ目覚めないな」


 「そうか…とりあえず、王都へ向かおう。」


 「だな!」


エンジンを掛ける。光と紫音が乗り込み、IS-3は再び、今度は王都へ向かって走り始めた。

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