第十話 召喚と帰還

 七夜が立ち上がる。光はこの状況をいかにして打破するか考えていた。


 「七夜」


 「なんだい?」

 

 「どうすりゃいいんだ?」


 「そうだなぁ…銃より強力な武器があればなぁ」


 「無いだろ…お前は何か持ってないのか?」


 「アタシは何も持ってないぞ?ただ、作ることはできるけどな?」


 「作るって、魔力でか?」


 「まぁそうなるなぁ」


 「銃よか強力な武器…いっそミサイルでよくないか?」


 「ミサイル自体は知ってるけど、詳細な構造まで分からないと作れないぜ」


 「なるほどな…ていってもな」


 「手詰まりだな」


七夜と光はエジステ・オーラスを見ながら立ちすくむ。現状、有効な手立てが思い浮かばない。


 「光…」


紫音が話しかける。


 「なんだ?」


 「大砲なら構造が簡単…」


 「なるほど…やってみるか」


 「お、やってみるかい?じゃあ私と手を繋いでくれ」


七夜と光が手を繋ぐ。蒼い光が2人を包んだ。


 「なんかできたぜ!」


七夜の指差した先にあるのは大砲。砲身が長い。


 「…こいつはカルバリン砲だな」


レイとリリィは聞いたことがない。しかし、強そうな気もする。


 「光…!それがドラゴンを撃破できる切り札なの!?」


 「少し見直しましたわよ!!」


2人は嬉しげな顔をする。しかし、紫音は違った。


 「光…骨董品なんか出しても意味ない…」


 「分かってる…だが、とりあえず使ってみるしかないだろ…」


砲弾を前から入れて発射準備完了。


ズドンッ!


砲弾が発射され、命中する。しかし、目立ったダメージは与えられない。


 「やっぱダメだなー」


七夜が呑気に言う。


 「仕方ないだろ…あんな前時代の骨董品なんかじゃな」


光も分かっていた事なのでそこまで落胆はしない。


 「残念…」


 「所詮、魔力0ですわね」


アイリス姉妹は肩を落とした。


 「なんかこう…もっと具体的にイメージしてみな!」


七夜なりにアドバイスする。


 「名称込みとかの方がいいよな」


 「そりゃもちろんだ!アタシは、光の世界の武器を検索する!そこで光の知識をアーカイブにしているんだ」


 「それは…要するに俺の知識量が物を言うって事か…」


 「もちろんだ!だが、光自身の魔力がまだまだ未熟だからなぁ…複雑過ぎると無理だぜ?」


 「ちょっと質問…武器というけど、兵器は含むの…?」


紫音が口を挟んだ。


 「ああ!もちろんだ!」


それを聞いた光が何か閃いたようだ。


 「よし、思いついた」


 「おう!やってみっか!」


再び手を繋いでみる。しかし、何も起きない。


 「流石に戦闘機は無理か」


 「構造を知っていただけすごいさ…ただ、光自身が扱えるものじゃなきゃダメだ」

 

戦闘機の構造を知っていても、扱い方は知らなかった。


 「…拳銃じゃ無理だしな…やっぱ、大砲クラスの火器がいいな…」


光が珍しく考えこむ。


 「臼砲なら…どう…?」


紫音が提案する。


 「それは名案と言いたいが、弾の装填が無理だな…重すぎる。俺程度じゃせいぜい両手合わせて20kgくらいが限界だ」


 「じゃあ…カノン砲…」


 「それは俺も思ったんだが…動かすのに人手がな…」


ここにいるのは七夜を含め、5人。人手が足り無さ過ぎる。


 「少人数でカノン砲を使う方法なぁ…」


七夜も考えこむ。しかし、それがきっかけか光が閃いた。


 「あるぞ!カノン砲をここにいる人間だけで使う方法が!」


 「お!?マジか!」


光と七夜は一気にテンションが上がるが、アイリス姉妹はそうでもない。


 「カノン砲って…?」

  

 「強いんですの?」


疑っている。


 「カノン砲は強い…鋼鉄を容易く貫通できるし、その破壊力は絶大…ただし、構造や扱いはその分複雑で難しい…」


紫音が付け加える。


 「よし、七夜。やるぞ」


 「よしきた!」


二人は三たび手を繋ぐ。そして、今度は最初とは違う、圧倒的な蒼光が煌めいた。


 「これで、どうだ!」


光は自身では気づいていなかったが笑っている。


 「光…マジかよ…」


 「さすがに…驚いた…」


七夜と紫音が目を丸くした。


 「なにこれ…」


 「何ですの…」


アイリス姉妹も腰を抜かした。


 「俺とした事が間抜けだった。カノン砲を少人数で扱うって言ったら戦車しかないだろ!?」


 「その構造をきっちり覚えてる光が怖いぜ…」


 「戦車ゲーやり倒してたからな」


 「光って…ゲーマーなのか?」


 「まぁな。楽しむ為じゃなくて、クソ親からのストレスの捌け口にしてたが」


 「…曲がってるな…というか、よくコイツを召喚できたもんだ…」


 「ま、俺が一番使ってたしな。ゲーム内で。」


七夜と光は話し込んでいるが、周りは全くついていけていない。


 「戦車ってなに…!?」


レイが割と大声で尋ねる。


 「ああ、戦車っていうのはカノン砲とかを装甲つけた車に載せた兵器だ。」


 「…ねぇこれ…鉄よね…?」


解説を聞きながら、指摘する。


 「当然だ。戦車は基本、鉄で作る。まぁ、最新の戦車は必ずしもそうじゃないが…そんな新しい戦車は構造が機密だったりして俺も知らん。だから、ちょい古いのだが、ぶっちゃけ強いぞ」


 「そうなんだ…」


 「なんて言ったってこれは、傑作戦車のIS-3だからな」


IS-3、それはソ連が開発した重戦車である。特徴的な楔型装甲に、円形の砲塔というデザインは高い防御力を発揮した。搭載する122mm砲は強力だったが、車重が45tほどしかない為、機動性も高い。


 「鉄でできた車両…それって…魔法攻撃を完全遮断するって事ですわよ…」


リリィが震えていた。


 「ま、IS-3は防御力高いけど、そもそもこの世界じゃ鉄ってだけで無敵な訳だから関係ないな。とりあえず、こいつでドラゴン倒す!」


 「いいぜ!」


七夜が浮足立つ。光は砲塔の取っ手に手をかけ、よじ登る。


 「七夜、操縦できるか?」

 

 「光が出来るなら出来るぜ!」


 「よし」


光がハッチを開ける。七夜が先に乗り込んだ。


 「皆、乗り込め。定員オーバーだが、皆小柄だから気合で頑張れ!」


光の指示で皆、乗り込む。


 「狭いわ…」


 「狭すぎですわよ!」


 「狭い…」


4人で乗っても狭くて大変なところを、5人乗っているのだから仕方ない。


 「とりあえず、ドラゴンの側面を狙えるあそこへ移動だ!」


 「あいよ!」


七夜がエンジンをスタートさせる。


ウォオオオン…!!


唸りを上げてかかった。そのまま、一気に加速する。


ゴゴゴゴ…キュルキュル…


履帯の音とエンジン音が響く。


 「凄い音ね…」


 「ですわね…」


姉妹は狭いスペースでおしくらまんじゅう状態だ。


 「ついたぜ!!」


指定ポイントで停車する。


 「よし、砲塔をドラゴンへ向ける。」


円形の砲塔が回転し、エジステ・オーラスの側面へ砲を向ける。


 「初弾、装填だ!弾をリレーしてくれ」


光が弾薬庫を指差す。


 「重い…重すぎる…」


紫音が震えながら砲弾を光へ渡した。


 「122mm砲弾だからな。」


砲弾を装填し、射撃準備が整う。


 「ドラゴンってここ狙えみたいな弱点とかないのか?」


照準器を覗きながら、光が尋ねる。


 「瀕死になると、ドラゴン・クリスタルっていう水晶が露出するからそれを破壊すればいいよ!」


 「分かった」


冷静に狙いを定める。そして、引き金を引く。


ズドォン!!!


轟音と共に砲弾がドラゴンへ向かう。そして、着弾。


キェエエエエエ…!!


叫び声を上げ、身をよじらせた。


 「おい!身体にヒビ入ってるぞ!」


キューポラから覗いていた七夜が叫ぶ。


 「さすが、IS-3。異世界でも最強だな」


光は次弾を装填し始める。


 「す…すごい…」


 「これ…魔法じゃないんですのよね…?」


アイリス姉妹は目から鱗だ。

 そして装填が終わる。


 「集中攻撃だ!」


その後も、攻撃を続ける。側面をどんどん貫通し、ドラゴンが弱っていった。


キィイイイイイイ…


その叫び声と共に、ついにドラゴン・クリスタルが露出した。


 「あれか!」


照準器ごしに確認する。


 「あぁ!あれだ!」


七夜が答える。


 「よし…」


慎重に照準を定めた。静かに引き金を引く。


ズドォン!!!


砲弾が真っ直ぐ、クリスタルへ向かった。


パリンッ!!!


ガラスを割ったような音をたててクリスタルが破壊される。


 「やったぜ!光!」


七夜が笑顔で報告する。


 「これで帰れるな。」


 「光…」


紫音が呼びかける。


 「どうした?」


 「レイとリリィが気絶してる…」


アイリス姉妹はいつの間にか気を失っていた。


 「今はそっとしておこう。それよか、この世界はこれからどうなるんだ?」


 「崩壊してアタシらは元の正しい世界へ戻るはずだぜ」


七夜が答える。


 「ふむ…」


光がハッチを開け、外を見渡す。


 「綺麗だな…」


思わず息を呑んだ。エジステ・オーラスの本体は桜の花びらのように散っていった。その光景はまさに有終の美を飾るに相応しい。しかし、その瞬間、周りの全てが崩壊し始めた。

 

 「やばいな…」


光は直ぐ車内へ戻り、ハッチを閉める。


 「どうした光?」


 「空間が崩壊し始めてる。」


 「そりゃドラゴン倒したからな?」


 「俺らはちゃんと帰れるのか?」


 「大丈夫さ!」


周りの景色も何もかもが崩壊し、黒く闇へ染まる。やがて、全てが消え、IS-3に乗り込んだ光たちのみが残る。


 「何もかも消えたっぽいが…さてどうするかな」


 「元の世界へ戻るの、まとうぜ…なんかねむいしな…」


七夜があくびをして操縦席で眠りにつく。


 「私も眠い…」


紫音も眠りに落ちた。


 「…俺も眠気が…」


光もまた眠りに誘われる。



 IS-3はいつの間にか、綺麗な森の湖の畔に停車していた。車内には眠っている光たちがいる。


 「あれ…いつの間にか寝てたか…」


光が最初に目覚める。


 「光…アタシも寝てたぜ…」


七夜も目覚めた。


 「湖…森…ここどこだ…?」


 「ここが…本当のアイリス王国だぜ」


七夜が辺りを見ながら答える。


 「なるほど…つまり元の次元に戻って、正しいアイリス王国へ来たわけか…」


 「そうなるな…って、光、どうしたその目…」


七夜が光の異変に気付く。


 「ん?」


気になって、湖面を見る。自分の顔が写るが、


 「待て…オレの目、赤と青のオッドアイになってるぞ…」


流石に驚いた。


 「パルトネと契約するとマスターの体質や性格が変わることがあるんだが…すごく分かりやすいな…」


 「なるほどな?にしても、アイリス姉妹と紫音が起きないのは何故だ?」


 「正しい世界へ戻って来て、本当の魔力が回復し始めているんだ。回復仕切ったら起きるはずだぜ」


 「そうか…それにしても…何かこの前までの記憶が曖昧だな…」


 「本来は存在しない世界に居た後遺症だぜ。あそこで見聞きして憶えた事は全て虚構だからな…いずれ正しい世界へ慣れれば問題ないさ」


 「分かった。とりあえず、3人が目覚めるまでどうする?」


 「へぇ…?結構、積極的じゃんか。変わったな」


 「そうかもな。前までの俺とは違うってオレ自身が認識してる。」


 「とりあえず、王都へ向かうべきだな。魔力は寝かせとけば回復するし、光はアタシがいるおかげで、すでに正しい世界へ馴染み始めてるが、他の3人や、あの世界へ居た人間はどんな後遺症が出るか分からんし…」


 「やはり…情報不足ってやつだな…姉貴もどうなったか気になるしな…」


 「彩は姫華がいるから大丈夫だとは思うが…」


 「とりあえず移動だな」


 「ああ。エンジンかけるぜ」


七夜がエンジンをかけて出発。


 「とりあえず…右も左も分からんな」


光がぼやく。


 「道なりに行くしかないだろうさ?」


 「ま、そうなんだけどな…つか、戦闘中でもないしハッチ開けるか…」


ハッチを開け放つ。暖かい日差しと心地よいそよ風が入り込む。


 「過ごしやすい気候だなー」


操縦しながら七夜が呟く。


 「七夜はこの世界をどれくらい知ってるんだ?」


ふとした疑問をぶつける光。


 「本当は必要な事は全て知ってるはずなんだが、どうやらアタシも記憶が曖昧になっててなぁ」


 「後遺症ってやつか…」


 「そういうことだねぇ…おかげで王都がどっちかどころか、ここがアイリス王国のどこら辺なのかも分からんのさ」


 「重戦車で地理が分からず走り回るなんて自殺行為だがな…まぁ…襲われる事はないと信じたい…」


 「襲われるとしてもドラゴンくらいじゃないか?」


さらっと七夜が一番触れたくないものに触れる。


 「どーやって倒せばいいんだ」


 「コイツの砲撃で」


 「いや…あれはエジステ・オーラスが鉄の身体だったからだぞ…」


 「この世界では鉄は絶対防御なんだぜ?それを貫通できるんだからどんなドラゴンでも倒せるさね」


 「なるほど…そういう考えもできるか」


のんびり話しながら、道を進む。


 「結構走ったけど、家1軒ないなぁ」


七夜が残念がる。


 「アイリス王国って広いのか?」


 「…たしか広かったはずだぜ?ただ、具体的な事を思い出せないが…」


記憶があやふやで思い出せない。


 「とりあえず、もう夕方だし、今夜は休もう」


光が提案する。


 「そうだな…」


七夜がエンジンを切り、光がハッチを閉める。2人は寝にくい狭い車内でも、疲れからかすぐに寝静まった。

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