第六話 絆
(ふわぁ…やっと目が覚めた…)
ようやくレイ・アイリスが目覚める。
(ちゃんと説明しなきゃ、だね)
レイは自分が召喚した光と紫音に対して、事の次第を説明しなければならない。
(早く支度しなきゃ)
王族であっても学生の間は自分で日常の事をやれ、というのが母、ユーリ・アイリスの教育方針だ。そのため、執事やメイドなどは居ない。レイは手早く身支度を済ませ、制服を着る。
(今日は…あれ、つけていこう…)
引き出しから取り出したのは、桜をあしらったピンクのヘアピン。前髪に丁寧にセットする。
(これでよしっ…と)
窓から差し込む朝日を受けて金色のロングヘアが純金以上に美しく輝く。
「じゃあ、行ってくるね」
未だに眠りから覚めない妹のリリィに声を掛けて、レイは部屋を出た。とりあえずは生徒会室へ向かう。途中、親衛隊の者に挨拶されたが、気づいていないふりをする。塔の最上階に着くまでがいつもより長く感じられる。エレベーターを降りてすぐに生徒会室に入った。そこには朝風呂を済ませた光と紫音がくつろいでいた。
「レイ・アイリス、そろそろ来るんじゃないかと思ってたぞ。ただの山勘だが。」
光が声を掛ける。
「えーと…私…」
レイは言葉選びに迷う。
「あー悪い、ちょっと先に食事させてくれ。二日ほど食べてないんだ。」
しかし、光がレイの言葉を遮った。
「え?なんで…?」
「食べようと思わなかった。」
「ちゃんと…食べよ…?」
「じゃあ聞くけど…食事してもしなくても親に怒られるとしたら…レイ・アイリスはどうする…?」
紫音が横から問いかける。
「え…?な…なにそれ…」
「俺も紫音もそんな環境で生きてたんだ。だから食事のタイミングとか量の決め方が他の奴らと違うだけだ。」
「そ…そうなんだ…」
レイは目の前の二人に感性に全くついて行けない。とりあえず二人の食事中に報告書を一気に読む事にした。
(どんな辛い思いをしてきたんだろう…この二人は…)
読み終えた感想はシンプル。複雑な事を考える事がままならない位のショックを受けた。
「待たせたな。レイ・アイリス。」
後片付けを済ませた光が声を掛ける。
「レイでいいよ…」
「用件は大体分かってる。俺と紫音を呼んだ目的を伝えに来た、そんな所だろう?」
「う…うん…それに私が召喚した後にちゃんと出迎えられなくて…色々騒ぎが大きくなっちゃって…」
「それは謝らなくていい。こっちにも非はあるからな。」
「光と私が強硬手段を使ったのは事実だから…気にしないで…」
紫音もなだめる。
「ありがとう…光さん…紫音さん…」
「さん付けしなくていい、堅苦しいのは苦手だ。」
「私も付けなくていい…」
「じゃあ…光、紫音…二人を召喚した理由を話すね…」
「分かった。しっかり聞かせてもらうぞ。」
紫音も無言で頷く。
「この世界には、我らの国、アイリス王国に災厄をもたらす者がいるの…それは…ドラゴン…」
「流石にそれをこっちに来た直後に予見できたら、俺は今頃ここにはいないだろうな…」
光が苦笑する。
「ドラゴンには小型から大型のもの、温和なものから凶暴なものまで色々な種類がいるのだけど…何故かアイリス王国には危険なドラゴンが昔から来襲しているの…」
「原因は…?」
紫音がすかさず尋ねる。
「長年研究されてるけど…未だに解明されていない…だから王家はドラゴンを討伐または撃退できる者の育成を始めたの。それが王立魔導学園。」
「なるほど…ドラゴンを狩る人間を国ぐるみで育成しようと言う訳か。」
「国策…納得…」
二人は聞いた話を脳内整理しながら理解していく。
「この国ではドラゴンを狩る者を竜狩人(ドラゴンバスター)と言うの」
「ふむ」
光が相槌を打つ。
「でもドラゴンバスターは、ランクで言えば真ん中に位置するの」
「つまり上と下にそれぞれ何かある…」
紫音は少し興味を持っている。
「バスターの下位はハンター、上位はスレイヤー。正直、ハンターは沢山いるの。でもバスターが全然足りなくてね…」
「別にハンターが大量にいれば数の暴力でどうにかならないのか?」
「無理…より強いドラゴンはバスターのみが扱える武器で攻撃しないとダメージが与えられない…」
「ああ…リリィが使っていた、オスクリタ・ジャヴェロットとかか?」
「え?なんでその名前を…?」
レイは驚愕した。異世界から来た人間が知っている筈がない。
「俺と紫音が立て篭もった時に、リリィが助けに来たんだよ。その時にな」
「あの子にあれを使わせるなんて…あれは闇の槍。魔力に闇属性を付与して攻撃する槍なの」
「闇属性と聞いただけでもドラゴンに効きそうだな…」
「でも何でもかんでも闇属性でどうにかなるならそんな苦労しない…」
紫音が鋭く指摘する。
「そうなの…ドラゴンには様々なタイプがいるからそれに合わせた武器が必要なの。」
「だからバスターを増やしたいと」
「うん…それにバスターの使う武器は燃費が壊滅的に悪いから…一人二回か三回攻撃したらもう魔力切れしちゃうんだ…」
「交代要員の確保も急務って訳だな。ドラゴンも一撃で死ぬとかなさそうだしな」
「そういうこと…」
レイの表情はあまり明るくない。
「バスターでこの状況ならスレイヤーはそもそもいるの…?」
「スレイヤーっていうのは、伝説級のバスターの称号みたいなもの。常識を置き去りにしたような魔力量と戦闘能力を兼ね備える、まさに最後の切り札みたいな存在。でも攻撃があまりにも強力すぎて街が吹き飛ぶから…学園にいるけど、余程のドラゴンじゃない限り出撃しないよ」
「まあ、居ないよかいいだろ。誰なんだ?」
「彩だよ…」
「姉さんの戦闘能力なら有り得るな」
光は特に驚くわけでもなく、あっさりしている。
「話を戻すと、バスターが足りないから異世界に魔力が高い人が居れば、召喚して来てもらってるの…その召喚術を適正に運用するのも生徒会長の役目…」
「なるほど、この世界では魔力量はきっちり数字で出るみたいだから分かりやすいよな。
魔導概論の勉強で資料見たが、国内平均は六百ほど…ハンターが千以上、バスターが二千以上、スレイヤーが五千以上だったな。」
「そうだね。ちなみに彩は魔力量、一万だからね。私は四千、リリィは三千五百ね」
「凄いな…色々と…」
「だから後で二人にも私の魔力測定受けて欲しいの。これも生徒会長の役目。」
「なるほどな。構わないぞ。」
「私も…」
二人は快諾する。
「実は召喚した人は送還することもできるんだ…だから召喚しても嫌って言われると送り返すだけになっちゃう…二人は…居てくれる…?」
言いたくはなかったが、選択できる事を伝えなければいけない。敢えて後回しにした質問。
「ドラゴンと戦うだとか、国を守るだとかに興味はない。面倒だしな。」
「そっか…」
レイは泣きそうなのを堪えていた。
「でも元の世界に帰る位なら死んだほうがマシだと真面目に思ってるから残るさ」
「今更、青蓮院の家に居場所ないし…私も残る…」
「ありがとう…ふたりとも…」
二人の手を握るレイは一安心する。
「魔力測定はいつやるんだ?」
光が尋ねる。
「ちょっとこれから…喧嘩してくるから…その後かな…精神状態が安定しないと測定できないから…あはは…」
苦笑するレイを見て光はすぐ勘付く。
「姉さんか…」
「うん…」
「分かった」
「彩が彩らしくなくなってるから…」
「五年の付き合い、伊達じゃないみたいだな」
「もちろんっ…じゃあ行ってくるね」
「ああ」
光はレイを送り出した。
「さて…ちょっと準備するか…」
そう言いながらベレッタを取り出してメンテナンスを始める。
「付き合う…」
紫音も乗り気だ。
「ていっても姉さん相手に魔力勝負じゃ勝てないから、物理勝負だな。」
「でも拳銃じゃ…」
「そこは腕の見せ所だな。」
そう言いながらマガジンを外して交換する。
レイは彩を探していた。辺りが暗くなってきた頃、訓練用グラウンドにいるのを見つけた。直ぐに駆け寄る。
「最近の彩、変だね」
真剣な口調で佇む彩に話しかける。
「なんのことかなぁ?」
「とぼけないで。彩、影月に魔力が注げなくなってるでしょ。それに…あの子はなんでいないの?」
レイは口調や可愛らしい見た目からは想像もできないほど頭脳明晰だ。
「レイには関係ないよねぇ」
「関係ある。私が大好きな彩は、こんなヘラヘラ笑ったりしない。いつも凛々しかった。クールだけど優しい。そして強い。騎士みたいな人だった。今の彩、同い年と思えないよ。私の事『レイちゃん』って…氷月彩はそんな人物じゃない…もっと自分にプライドがあった!真の意味で強かった!だからみんな付いて行った!今の親衛隊、何なのあれ…朝チラッと見たけど、誇りも気高さもないじゃない!ただマントつけただけのコスプレ集団みたいよ!」
思ってた事が一気に溢れ出る。一緒にキラキラ輝く悲しみの水滴も滴る。彩は黙っていた。
「言いたいことがあるなら言えば?彩」
「別に何もないわよぉ」
「やっぱり彩は…私が大好きだった彩じゃないんだね…」
「そんなに私が変わったって言うのぉ?」
「口調も表情も…感じる魔力も…何もかもが…彩じゃない…あなた…誰よ…?」
涙ぐんで叫ぶ。
「だーから…言ってるじゃん。氷月彩だってさぁ。ていうか何の用なのぉ?」
「彩を元に戻しに来たの」
レイが挑む目つきで見つめる。
「私とやりあうつもりかぁ」
彩は影月を抜く。普通の人間には扱えそうもない大太刀だ。
「前の彩はね…影月を構えただけで迸る魔力が地面を割っていたんだよ…」
「さっさと構えたらぁ?」
「言われなくても…!」
右手を高く上げると、金色の魔力が収束し始める。
『ディストル・カンノーネ』
華奢なレイどころか人間では扱えそうにない漆黒の巨砲が出現する。
「近接武器に遠距離武器で挑むんだぁ…」
彩が影月を低く構えて、懐へ向かって一気に走りこんできた。
「前の彩…ならそんな動きしない!!」
レイは魔力で巨砲と共に空へ上がった。それに気づいた彩もすかさず地面を蹴り、魔力で空中に上がってくる。
「遅いよ…ランツィオ!!」
その掛け声と共に…
ズドゴォオオオオンッ!!!
大轟音が響き、発射された。
「嘘…!?」
気づいた時には回避する事など不可能だった。
レイは直ぐ地面に降りる。そこには直径二十mほどのクレーターができていた。真ん中に彩が倒れている。まともに直撃したせいか魔力が殆ど消し飛んでいる。レイも今の一撃で魔力がほぼ尽きた。
「レイちゃんの…砲撃だけは…まともに…くらいたくなかったなぁ…」
ボロボロになりながら、影月をつき立てて立ち上がる彩。
(やっぱり…私じゃ彩に届かないか…)
ほぼ全ての魔力を出し切ったが彩は倒れなかった。
「妹も相当だったが…姉も姉で凄まじいな」
「クレーターできてる…凄い…」
そこに光と紫音が現れた。
「なんで…ここに?」
レイが涙目で聞く。
「姉さんが変なのは再会した時から感じていた。正直、どうするか悩んでいたんだ。手早い解決法自体は思いついていたがな」
「手早い…?」
「分からない…?殺せばいいだけ…」
紫音が淡々と話す。
「そ…そんなのダメに…決まってるでしょ!」
半泣きでレイが言い返す。
「実際、殺そうと思えばできるが、本当はハイスペックな姉を殺すには惜しいだろ?だから誰かが行動を起こすだろうと踏んで待っていたんだ。レイが動いたんで、俺も動いた」
「わざわざ動くんだから気になった…だから私も来た…」
紫音が付け加える。
「光は…彩が好きじゃないの…?」
「俺にそんな感情はないな。ここでレイがやられたら元も子もないから割り込んだだけだ」
そう言いながらベレッタを彩に向ける。
「まあ、レイがどうやって姉さんを元に戻すのか気になっていたが、喧嘩売って降参させるつもりらしいな。というわけで姉さん、武器捨てて降参してくれ」
「あのさぁ…私が…簡単に負けを認める…わけ…ないでしょぉ…」
魔力に頼れない状態でも、目つきだけは戦意を感じさせる。影月を地面から引き抜いて、光に向ける。
「全く…銃向けられてその目つきとはな。流石は姉さんだ。」
「レイ…ちゃんを助けに来る…なんて…光も…丸くなった…なぁ…」
肩で息をしながら言い返す。
「勘違いするな。姉さんを元に戻せば使える手駒が増えるから加担しただけだ。とはいえ、殺す以外に手段が思いつかないから、降参させて後はレイに任せるが。」
「へぇ…レイちゃん…を信用してる…のねぇ…」
「もし出来ない事が判明すればその時殺せば済む。それだけだ。」
「でも…私は…降参…しない…」
「だったらさせるまでだな。姉さんの負けず嫌いは知っている。」
そう言いながら、光は彩の腕を狙い発砲する。その瞬間、
キィィイイイン…!!
耳に刺さる甲高い音が響く。影月を振りぬいた彩が立っている。
「弾を斬るとはな。」
「いくら撃っても…斬りおと…す」
光はゆっくり横に動きながら次々発砲し続ける。彩は尽く斬り落とした。
「確かに斬り落としているが、刃こぼれしているな。魔力がほぼカラなままでその大太刀を維持するのは限界なんじゃないのか?」
見透かしたように指摘する。
「そう…だねぇ…でも、撃ち切った後のリロードの隙は…0じゃない…」
「なるほどな。」
その後も発砲しては斬り落とされ続けた。
「今ので…十五発…リロードねぇ…」
影月はギリギリ持ち堪えたが真に限界だ。
「光…どうする気…?」
紫音が心配げに言う。
「チッ…十五発であの太刀は耐久限界超えて折れると踏んだんだがな…」
焦った目で光は銃を降ろす。
「光…ごめんね…私の力不足で…彩を…」
レイが涙ぐんで謝る。
「俺こそ…悪い…」
光が項垂れる。
「魔法を…侮ってるから…そう…なるんだよぉ…降参したらぁ…?」
彩がなんとか影月を構え直す。
「ああ…そうだな…」
そうぼやいた瞬間、
ズダァンッ!!
静寂を貫く一発の弾丸が影月を穿つ。影月は白い光を散らして弾丸ごと消滅した。
「まるで対消滅だな」
起こった現象を見ながら光はリロードする。
「どう…して…?」
魔力切れを起こしているのに、意識を保てるのは彩ならではの頑強さだ。
「一体…」
紫音は何故、もう一発撃てたのか、それを考察しているが結論が出ない。
「光…」
レイも事態が飲み込めていない。
「最初の一発を斬り落とした時に『残り十五発で折れる』と踏んだ。だから十六発目を撃っただけだ。」
「そこじゃない…その銃は装弾数十五の筈…」
紫音が突っ込む。
「単純な事だよ。確かにこのベレッタM92Fは装弾数十五だが、銃はコッキングして弾を薬室に残したまま新しいマガジンを取り付ければ、見なし装弾数が一発増える。銃を扱うなら知っておかなきゃならない事だ。映画とかではネタにされていたが、こんな古くさい手が通用する辺り、ここの住人は魔法に依存しきっている。さて、侮っているのはどっちだろうな?」
光が冷酷に語る。
「十六発撃てるなら…なんで一気に…撃たなかった…の…」
「そんな状態でも意識保てる姉さんだからな。仮に全弾撃って太刀を折っても、火事場力とか言い出して修復されたら困る。魔力は精神状態に依存しているから、へし折ってやろうと思ったんだ。勝ちを確信した瞬間にそれを覆された時の絶望感は、へし折るのに充分だろう?」
「姉相手に…あんな嘘つく…なんて…しかも…見抜けないなんて…」
「俺は姉さんが居なくなった後に、あのクソ親相手に嘘ついてバレないまでに腕を上げたんだ。魔法の世界でぬるま湯に浸っている姉さんに見抜ける訳ないだろう。ま、これで俺のやる事は終わった。後はレイに任せる。」
そう言いながら光はその場を後にした。紫音も続く。
「彩…」
レイが口を開く。
「なんで…あんな装填…早かった…の…」
彩が問いを投げる
「彩が…教えてくれたんだよ…」
「わたし…が…?」
「『装填が遅くて困る?だったら、武器を召喚するプロセス中に大変だけど多めに魔力流しこんでその分で装填も同時にやればいいんじゃない?』って…私もそれは思いついてたけど無理だって言った。そしたら…『無理かどうか決めるのは他人じゃないわ。自分自身よ。私はレイならできると信じている』って励ましてくれたの…」
レイが心に留めている彩の言葉。
「わたし…わたしは…」
「彩の髪…綺麗な白銀だけどさ…私が大好きな彩は…ほんの僅かに蒼かったんだ…」
レイが彩の髪を触りながら言う。
「わから…ない…」
彩は両手で顔を覆っていた。その下で涙を流していた。
「彩…一人で背負うの、やめよ…?彩だってね…弱み見せていいんだよ…」
優しく頭を撫でる。
「でも…わたし…わたしは…」
「私がいるじゃない…ずっと一緒って約束…忘れた…?」
そう言いながらヘアピンを見せる。
「れ…い…」
彩の首のペンダントが金色の輝きを放っている
「ちゃんとつけてくれてるじゃない…約束のアクセサリー…」
「わたし…よわすぎる…」
「だから私がいるんだよ…彩…弱くてもいい…でも…それを隠さないで…涙も弱さも悩みも…隠さないで…強い彩には支えられてばっかりだったし憧れるけど…弱い彩は私が支える…彩は…隠し事なんて出来る子じゃないんだもん…」
レイも彩も涙を流し続けている。
「だって…きらわれたくない…」
涙の中に交じる、本音。レイはそれを待っていた。
「ばか…きらうわけないじゃない…彩…だいすき…」
「ごめん…ね…」
「彩だから…許してあげる…」
二人は抱き合ってそして泣いた。
翌朝、レイはいつもより早めに部屋を出る。そして寮内のある部屋のドアをノックする。
「あー…あいてまぁふ…」
明らかに寝ぼけた声が聞こえてきた。
「もーっ彩ったら、下着で寝るなんてだめだよ!後、部屋ももうちょっと片付けよ?」
レイは苦笑しながら彩の部屋の整理を始めた。洒落た白の下着をつけている彩はベッドの上でゴロゴロしている。
「今日は光と紫音の魔力測定するから、彩も来て欲しいの。」
「はーい…」
彩の弱点はまさに朝だ。なかなか目が覚めない。
「それと、そろそろ王宮の方にも顔出さないとね…リリィもまだ目が覚めてないし」
王宮はここ最近の学内でのトラブルなどに頭を抱えている。生徒会からの報告も少なく、そろそろ直接介入をするべきではないかという意見すら出ている。
「あー…」
頭を掻きながら返事する彩。
「とりあえず、これ飲んでっ」
レイがマグカップに注いだコーヒーを渡す。それを飲んだ彩は一気に目が覚める。
「朝だけは、勝てる気がしないわね…」
目が覚めた彩は凛々しさを取り戻し、いつもの調子を出す。
「魔法使っても起きれないって…それ相当だよね…?」
苦笑しながらレイは彩の顔を見つめる。
「どうかした?私の顔に何かついてるかしら?」
「彩…おかえりっ…元の彩だねっ…」
「ごめんなさいね…迷惑掛けて…自分が自分じゃないような感覚になってから、ああなっちゃって…」
「彩が帰って来てくれれば…それでいいの…」
涙ぐむレイ。彩は優しく撫でた。
「髪の色も戻ったし、もう大丈夫よ。」
蒼白銀色の髪を見ながら微笑む。
「彩…大好きっ!」
「私もレイが大好き。でも、支度するからどいて欲しいわ…」
レイは慌てて飛び退く。
「とりあえず、魔力測定はしないとだめね」
「うん…光と紫音は、怖いけど…きっと優秀なバスターになれると思うの」
「なるにはなるだろうけど…骨が折れそうね…」
溜息をつきながらぼやく。
「歪だもんね…私にはついていけないよ…」
「そこら辺も、いずれは乗り越えなきゃいけない課題。まずは魔力測定で二人の素質を確認する。後は王宮の方も何とかしなきゃいけないわね。リリィも目覚めてないし」
「頑張らなきゃね…」
そんな会話をしている内に支度を済ませた彩。
「行きましょ♪」
「うんっ」
二人は笑顔で生徒会室へ向かった。
生徒会室に入ると、光と今日は和服姿の紫音がいる。
「お帰り、姉貴」
ほんの少し穏やかな表情で光が声を掛ける。
「ええ、ありがとう。迷惑かけたわね…」
申し訳無さそうに礼を言う。
「気にしなくていい。」
そう言った瞬間、ベレッタを構えた。しかし、
「相変わらず、信じる事をしないのね」
彩は既に光の喉元に迫り、影月の切っ先を向けていた。まさに刹那の早業だ。
「流石…だな…姉貴」
光はベレッタを仕舞った。
「彩…まるで別人…」
紫音が呟く。
「ごめんなさいね、本当に」
「別に気にしていない…」
「えーと、そろそろ本題入っていいかな?」
レイが割り込む。
「そうね。お願い」
「今日は魔力測定するね」
そう言いながら戸棚から、水晶玉を取り出す。
「これに手を置いてくれればいいだけだよ」
重要な儀式なだけに、少し緊張した声で説明する。
「測定には結構な集中力がいるから、先に紫音ちゃんから始めましょ」
(少しでも集中させたいし、光の方…何か気になるのよね)
彩は水晶玉に手を置いてみる。
『壱萬 特性 刀』
の文字が視界に浮かぶのが見える。
「彩ったら…自分で自分を測定しちゃうなんて…」
自分で自分の魔力を測るのは難しいのだ。魔力を自分で流し込みながら、水晶玉本体から注がれる魔力を感じ取らなければならない。そのため、通常は被測定者は魔力注入に集中し、測定者が水晶玉本体の魔力を感じ取る。この魔力を感じ取ると、視界内に被測定者の魔力量が浮かぶ仕組みだ。測定者にしか結果は見えないので、詐称し放題である。その為、公式測定は生徒会長の権限で行われるが、結果を王宮に報告することになっている。偽りが発覚すれば、厳重に処罰される。
「じゃあ、紫音。この水晶玉に手を置いてみて」
レイが促す。
「分かった…」
紫音の手から紫色の光が漏れる。レイも水晶玉に手を置き集中する。
『肆阡 特性 絶対隠密』
「すごい…魔力量四千もある…しかも特性が絶対隠密って…」
「どう凄いのか分からない…」
紫音はすかさず突っ込む。
「魔力量は私と同じ…絶対隠密っていうのは、魔力行使が魔力によって探知されないという特性だよ…魔力を探知できるのは魔力を持つ者のみだから、この世界で魔力行使しても誰にもバレないって事ね…存在はしうるって証明されていたけど、実在するなんて…」
「逸材ね!」
彩も喜ぶ。
「じゃあ次は光、お願い。」
「わかった。」
特に手を置いても光は出ない。
(魔力の扱いが未熟なのかな…?それにしても…)
レイは不審に思うが、今は水晶玉に集中する。しかし、浮かんだ文字は想定の範囲から遥かに乖離していた。
『零』
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