第三話 生徒会室決戦

 光は生徒会室にトラップを仕掛けていた。


 「紫音、そっちはどうだ?」


 「大丈夫…」


紫音も光の指示通り、室内にトラップを仕掛ける。生徒会長かつ女王の娘であるレイ・アイリスと白いマントを羽織った生徒会メンバーの女生徒を人質に籠城するつもりだ。当然ながら情報を得るための交渉材料だ。


 「ここまでしてしまえば、さすがに生徒会長に借りができるな」


 「それを考慮しても今は情報を入手する事が最優先…」


 「そうだな」


 「生徒会長なら必ず理由を知っているはず…」


 「とりあえず今は、助けに来るであろう奴らから身を守らないとな。さすがにここまで来て死んでいては笑い話にもならない」


 「それに光と私が本気である事を分からせないとダメ…」


 「そりゃそうだ。相手は魔法を使うに決まっているからな。少しは頭捻らないと難儀す る」


トラップを仕掛け終えた二人は窓の外に目をやる。 


 「特に目立った動きはないみたいだな」


 「内密にして穏便に解決を図るつもりか…だとしたらこちらの方が交渉上では有利…」


 「状況を最大限活用しなくてはな。そういえば紫音」


 「何…?」


 「屋根上で話した時、俺は紫音を試した。だが逆に試されたような気分にもなった。」


 「光と私が似ているなら、信用すると言ってから必ずどこかで試すだろうと踏んでいた…でも私は光ほど心理戦上手くない…だから光が仕掛けて来た時にカウンター入れようと思っていた…」


 「で、結果はどうだった?」


 「聞かなくてもいいはず…今ここに共に居るから…」


 「違いないな」


光も紫音もどこか満足していた。腹の探りあいでこんな気分になるのは初めての事だ。


 「それにしても…電気があまり使えないのは面倒だな…」


リュックには限られたバッテリーしか入れてこなかった。


 「電子機器でも使うの…?」


 「電気を使ったトラップも仕掛けたいんだ」


 「感電トラップか…」


 「ああ。相手が魔法を使う以上、直に相手の身体に干渉するようなトラップでないと効果が薄いと思うんだ」


 「でも感電させるには電極を素肌に触れさせる必要がある…だから間接的に影響を与える仕掛けを増やしたほうがいい気がする…」


 「一理あるな…だったらアレを使うか…」


光はスマホを取り出して、あるファイルを検索し始めた。紫音ならバッテリーを実体化させる事もできるだろうが、それをやると魔力を察知されるかもしれない、というのは一々確認せずとも二人共分かり切った事だ。

 二人が着々と準備をしている間、階下の食堂では王家親衛隊による対策会議が開かれていた。


 「お待たせしましたわ!」


眼鏡を掛けた女生徒が一人の女生徒を引き連れ戻って来た。


 「リリィ先輩…!ありがとうございます…!」


白いマントを羽織った女生徒が涙ぐんで礼を言う。


 「それにしても大変ねぇ…レイちゃんとステラちゃんを人質にするとは…」


連れて来られた女生徒は割と脳天気な口調だ。


 「お言葉ですが、彩先輩。事は一刻を争いますわ!」


リリィが強い口調で話す。


 「まぁまぁ…リリィちゃんも落ち着きなさいな〜」


彩は冷静さを失わない。


 「落ち着いていられますか!!私のおねえ…いえ、学園の生徒会長と親衛隊副隊長のステラ・ソレイユが人質になっているんですのよ!?」


 「相変わらず、普段は堅物なのにレイちゃんの事になると、暴走するよねぇ…」


 「そ…それは…」


彩が苦笑しながらゆったり話す。リリィもこれ以上言い返す言葉が出てこない。


 「とりあえずさー状況の整理、しよっか」


手を打ち合わせながら彩が皆に話しかける。

  

 「そもそも…本当に籠城しているんですの…?もしかしたら既に…」


リリィがわなわな震えながら尋ねる。


 「それは無いね〜だって二人生きてるし」


彩は相変わらず呑気だ。


 「で…でも二人共念話が…」


リリィが食い下がる。


 「落ち着いて魔力を探知してみなよー…微弱だけどちゃんと感じるよ〜大方気絶させられてるんじゃないかなぁ」


 「でも隊長…魔法を使える人間は皆、無意識に魔力を放出し防壁が構築されているものです。それを破ってさらに気絶までさせるとは…犯人は相当、腕が立つ気がするのですが…」


親衛隊の隊員が推察を述べる。


 「魔法を使った、という考えを捨ててみよっか〜」


 「隊長…魔法を使わず魔法に打ち勝つなんて…」


 「ねぇリリィちゃん〜さっき聞いた甲高い音を記憶転写で私に送ってくれないかなぁ?」


 「分かりましたわ…」


リリィは彩に自分が聞いた音の記憶を転写した。

 「なるほどね〜」


彩は合点がいったようだ。


 「どういう事ですの…?」


 「この音は銃、私が居た世界の武器だね」


 「強いのですか…?」


リリィが恐る恐る尋ねる。


 「まぁねー人を一撃で殺せるし、実体化させた魔法防壁でどうにか防げるかって感じだもん〜」


 彩は呑気だがそれを聞いたリリィを含む全員が絶句した。


 「銃で威嚇射撃でもしたらその迫力や音で恐怖を感じちゃうだろうから、それで気絶なんてありえる話だよ〜私の居た世界でもありえたくらいだし」


 「ということは…犯人は彩先輩と同じ世界の者…」


リリィが重苦しそうな口調で呟く。


 「そうなるねぇ…だとしたら魔法が使える事に気づいていないのか…敢えて使わずに誘いだしてるのかのどっちかだよね〜」


 「生徒会長が召喚した者の犯行ですわね…召喚したのにどこにも居ないと生徒会長が嘆いていましたし…」


 「でもレイちゃんを人質にするなんて、鋭い子らだよねぇ〜」


 「そうなので…?生徒会長とステラ・ソレイユを選ぶ理由が分かりませんわ…」


リリィが首を捻る。


 「ステラちゃんはその場に居合わせたから偶発的に巻き込まれただけだよ〜きっと。主目的はあくまでレイちゃんだよ」


 「何故生徒会長を…」


 「そこは聞きに行ってみるしかないかなぁ?」


 「私も同行しますわ…!」


 「じゃあ…皆でいこっか」


そう言いながら、彩は歩き出した。


 「そういえば…犯人はどうやってエレベーターを…」


エレベーターホールでリリィが尋ねる。


 「まぁそりゃあ…この籠の上に潜んだんじゃないかなぁ…」


 「そんな事を思いつくだなんて…どんな頭してるんですの…」


 「私の居た世界じゃあ…映画やドラマで定番の方法だからね〜…」


彩は苦笑しながら答えた。そんな事を話してる内に、最上階へ到着した。


 「じゃあ…私が先頭行くからリリィちゃんと皆は後に続いてね〜」


彩が声を掛ける。皆は緊張しているのか頷くだけだった。なにしろ、籠城事件など前代未聞だからだ。彩は生徒会室の扉の前に立つ。


 「錠前壊されてるよ…無茶苦茶だなぁ…全くもう〜…」


 「生徒会室の鍵を破壊するだなんて…」


リリィが目を丸くする。


 「これ見てごらん〜」


彩が指差したところには9mm程の穴が空いている。


 「これが銃の威力だよ〜」


まさに銃の威力を示す弾痕を目の当たりにして皆は身震いがした。彩は慎重に扉を押し開ける。中に入ると煙で充満していた。


 「うわぁ…やってくれるねぇ…」


 「でも火災という感じではないですわ…」


煙が激しい割には熱さを感じない。


 「それは…コレだねぇ…」


彩が見つけたのは発煙筒だ。


 「魔力防壁があれば別に咳き込まないですし…視界も魔力で強化すればいいだけですわ」


 「まぁそうだけどねぇ…」


一行はゆっくり歩を進める。彩が次の扉を開いた。


 「…っ!!?何ですの!?この臭いは!!」


あまりににも鼻につく臭いにリリィが叫ぶ。


 「これは…揮発させたオイルだねぇ…」


彩がオイル漏れしている缶を見つけた。


 「彩先輩…オイルって何ですのぉ!」


鼻を摘みながらリリィが尋ねる。


 「燃料だよー火をつけると燃えるの。本当は液状なんだけど、容器から出して放置するとこんな風に気体になって拡散しちゃうんだよねぇ…」


脳天気に答える彩。


 「だったら燃やし切ればいいんじゃないですのぉ!?」


 「まぁ…そうだけどねぇ…」


彩は何故オイルを揮発させてあるのかが気になったが、臭いで魔力生成に影響が出る方が危険だと思い、燃やす事にした。

 

 「私が部屋の防御するから皆は自分の防壁強化してねー」


 『了解です!』


皆の返事を確認して彩は魔力放出量を増やす。部屋一帯が碧色に輝く。


 「リリィちゃん!点火お願い!」


 「分かりましたわ!」


リリィが魔力で火を出す。すると、ドォン!という重低音と共に爆発が起きた。しかしそれだけではなかった。部屋が強烈な閃光で包まれたのだ。これのせいで爆発のダメージは無かったものの彩を含む全員が気絶した。



 「み…皆大丈夫〜…?」


一番に目覚めた彩が辺りを見渡す。


 「私は大丈夫ですわ…」


リリィは目覚めていた。しかし、残りの者は気絶したままだ。


 「一体何でしたの…?あの閃光は…」


 「なんだろ…」


彩が周りを観察する。よく見ると壁にいくつものリボン片の燃えかすが残っている。


 「まさか…」


彩はその燃えかすを分析してみた。


 「何か分かりましたの…?」


リリィが尋ねる。


 「壁一面にマグネシウムリボンが貼ってあったのねぇ…やれやれ…」


 「マグネシウムリボン…?」


聞き慣れない名前だ。


 「私の居た世界にマグネシウムっていう金属があるの。それをリボン状に加工したものだよ〜…厄介な事にひをつけて燃やすと、強烈な閃光を出す性質があるんだよねぇ〜…」


 「とんでもない金属ですわね…」


 「いやぁ…こんなトラップ仕掛けるなんて…下手に魔法使うよかよっぽど効果あるよ…」


さすがの彩も少し疲れていた。

 

 「どうしますの…?」


リリィが心配そうに尋ねる。


 「とりあえず、皆はここに残していく方がいいね…見る所、防御とさっきの閃光のショックからか魔力がガタ落ちしてるし…」


 「私はまだ余力ありますわよ」


リリィはピンピンしている。


 「私もまだいけるよーここからは二人でいこっか」


 「了解ですわ」


二人は生徒会長室へ急ぐが、次の扉の前で立ち止まる。

 

 「どうせまたトラップがあるんだろうねぇ…」


 「魔力の類はありませんわ…」


リリィも疑心暗鬼だ。


 「まぁどっち道、入るしかないんだけどねぇ…」


彩はゆっくり扉を開ける。しかし中には何もなかった。代わりに、会長室の扉が少し開いている。二人は慎重にそちらへ向かう。すると一筋の青い光が入り込んできた。その光は彩に当たり、青い点を浮かび上がらせた。


 「まさか…」


彩の脳裏に嫌な予感がよぎる。その瞬間、部屋が碧色の閃光で包まれた。


 「彩先輩…!?」


リリィが叫ぶ。


 「これ…レーザーだねぇ…流石にマズいかも…」


 「何なさってるんですの!?早く回避なさって!」


 「ダメ!この光がもし魔力防壁以外の物、壁とかに当たったら火がついて火事になるんだよ!今火災なんか起きたら、残してきた皆とかを守りながら消火なんてできない!この光は…魔力防壁でも貫通し兼ねないんだから!」


彩の怒鳴り声にも近い言葉だった。この国で最も魔力量が多い彩ですら、防御するのに誰が見ても明らかなほどに苦労している。


 「リリィちゃん!私がレーザーを食い止めるからその間に、このレーザーの発生源を破壊して!光の筋を辿ればあるはずだから!」


 「分かりましたわ!」


リリィは走って会長室へ突入した。そこには小さな鏡が置いてある。よく見るとレーザーは鏡で反射させられて彩の方へ向かっている。


 「取り敢えずこの鏡を動かせば…一安心ですわね…」


リリィが手をかけようとした瞬間…


 「その鏡は触らない方がいい…」


見知らぬ声が横から聞こえてきた。


 「どういう意味ですの…?」


冷静さを保ち、聞き返す。


 「もし鏡をどければ…レーザーは直進してあそこに当たる…」


そこに立つ見知らぬ女の指差す先を見ると、気絶しているレイが居た。


 「お…おねえさま…!?貴女…卑怯ですわ…!」


 「そんな事…知った事じゃない…」


見知らぬ女の放つ声もオーラも視線も全てを凍らせるかのごとく冷ややか過ぎる。リリィは冷静さを保つことに努めた。


 「ほう。お前はレイ・アイリスの妹か」


そう言いながら見知らぬ男が出てきた。女とは違う異常な殺気を放っていた。


 「あなたたち…何が目的ですの!?」


 「目的?決まってるだろう?取引だ」


男は淡々と答える。


 「そんな手には乗りませんわ…!」


 「威勢だけは良いんだな。まあいい。相手してやるよ」


そう言いながら男は銃を向けてきた。


 (あれが銃ですわね…防御壁を実体化させればいいこと…)


リリィは魔力放出量を増やし、防壁を実体化させる。金色の粒子のようなものが全身を覆う。


 「それが魔法ってヤツか。」


男は顔色一つ変えずにトリガーを引いた。ズダァンッ!!甲高い銃声と同時にリリィの胸に着弾する。しかし、弾は見事に防がれた。


 (やりましたわ…!防げるのならば勝ち目はあるというものですわ!)


 「ほう…防ぐのか。さすがだな」


 「貴方の銃とやらは私には通用しませんわ!」


とは言ったものの、男はまるで動揺していない。顔色一つ変わらないのだ。


 「仕方ないな。」


そう言いながら男は次々発砲してくる。しかしことごとく防いだ。


 「言いましたわよ!通用しません、と!」


 「そう言うお前は防ぐだけしか能がないんだな」


動揺しないどころか挑発してくる有り様だ。


 「そこまで舐められる程、私は弱くありませんわ!」


リリィは右手を上げる。すると黒い光が湧き出て来た。


 『オスクリタ・ジャヴェロット』


そう叫ぶと右手に黒い光を放つ槍が出現した。


 「なるほど。それがお前の武器か」


驚く様子もなく男が口を開く。


 「降伏するなら今の内ですわよ!」


槍を構えながら叫ぶ。


 「そんな大槍なんか振り回したら、鏡が一発で壊れるぞ」


 「ご心配には及びませんわ!」


リリィは鏡に対しても個別の防御壁を構築していたのだ。   


 「器用だな」


 「まだ抵抗なさるおつもりで?」


 「どうするかな」


再びトリガーに指をかけたその刹那、リリィは男の視界から消えた。


 「何…!?」


 「このオスクリタ・ジャヴェロットと私を甘く見ないで下さいませ?」


喉元に突きつける。


 「お前がもし俺と一対一だったら俺は負けていただろうな」


 「どういう意味ですの!?」 


男が指差した先には…


 「し…しまった…!」


あの女がもう一人の人質であるステラ・ソレイユにナイフを突きつけていた。 


 「詰めが甘いな」


 「くっ…」


 「だが俺相手に後一歩まで迫った事は評価してやるよ。俺は氷月光」


 「私は青蓮院紫音…」


二人が名乗った。


 「私は…リリィ・アイリス…ですわ…」


お互い名乗ったが、リリィは引っかかる点があった。


 (氷月…?彩先輩と何か関係あるかもしれませんわね…でも今は何としても…レーザーとやらの発生源を破壊しなくては…)


今は彩に頼まれた事を果たす事を最優先としなければならない。


 「リリィ・アイリス」


 「何ですの…?」


 「本当に姉にそっくりなんだな」


急な指摘にリリィも驚いた。しかし髪の色や長さ、瞳の色も瓜二つだ。見分けるとしたらリリィは眼鏡、レイはヘアピンだが、外せば区別はまずつかない。


 「金色の髪…すごく綺麗…」


紫音も認める美しさだ。


 「まあ…いきなり関係無い話して、槍の手元を緩めているようでは甘いがな」

 

光はいきなり発砲してきた。


 「っ…!?」


リリィは片膝をついてしまった。よく見ると魔力防壁にヒビが入っている。


 「そんな…まさか…」


 「言っただろう?詰めが甘いと。同じ所のみに攻撃を集中させた。だから脆くなる。」


 「そんな…」


 「最初から俺はお前の防壁を観察していた。防いだ銃弾は凹んで散らばっている。つまり防壁は魔力で構成されているが、防ぐ原理は物理的なものだ。それならば同じ箇所に連続で攻撃すれば劣化もする。簡単な事だ」


 (そんな…私の防御はここまで脆いものでしたの…?)


まさに絶望的な状況に陥ってしまった。これ以上撃たれたら確実に貫通されてしまう。補強しようにも鏡の個別防壁とオスクリタ・ジャヴェロットの維持で相当の魔力を消費してしまっている。まさに限界だ。息も荒れて来ている。


 「形成逆転だな」


光が銃を構える。


 (落ち着くのですわ…私がやるべきは…レーザーの発生源を破壊すること…光の筋の先が見えさえすれば…)


レーザー光線は途中から物陰に隠れており見えない。リリィにはレーザーの性質など全く分からない。


 (よく考えるのですわ…レーザーとやらは鏡で方向を変えていますわね…つまり…基本は直進しかできないのでは…?あの物陰は本棚…視界を強化して透視するほどの魔力はないですわね…でも…鏡を置くようなスペースはないはず…発生源はおそらく隠しやすい小型な物…見えている光線が真っ直ぐ向かう先は…)


必死に考えを巡らせる。


 (ならばあの光線の先を予想して残りの魔力全てでオスクリタ・ジャヴェロットを投擲すれば…この槍に貫けぬものなどあろうはずもありませんわ…)


リリィは最後の魔力を振り絞る。金色の輝きが一層増す。


 「今更何をする気だ」


光は動じない。構わず発砲する。


 「甘く見るな、と言いましたわよ…」


弾を簡単に防いだ上に一段と凄みをましたリリィにさすがの光も警戒する。あまりにも高出力の魔力のせいで学園の制服が裂ける。純白の肌や豊満な胸元がちらほら見える。しかし、そんな事を全く気にせずに魔力を開放する姿はさながら金色の修羅と言った所だ。そしてオスクリタ・ジャヴェロットをしっかり構える。目つきも鋭い。


 「王家の人間というのはここまで戦闘狂染みているものなのか」


光は相変わらず冷静だ。


 「私は…大切な人の為に戦うだけですわっ!…オスクリタ…ジャヴェロットッ…!!!」


その叫びと共に魔力を全て注ぎ、投擲した。そして、ズドォォオオンッ!!!という大轟音が響き渡る。


 「な…何だ!?」


光もさすがに驚きを隠せない。見ると、槍が通った箇所の床は抉れ、壁には綺麗な正円の大穴が空いていた。


 「おいおい…なんで槍で空けた穴がこんな正円になるんだ…」


思わず感心するほど綺麗なものだった。


 「全く…言うだけの事はあるってわけか」


光が仕掛けておいたレーザー発生器は跡形もなく消え去っていた。青い光線も消えている。


 (やりましたわね…後は…彩先輩に…託しますわ…)


リリィは魔力を使い果たし、金色の防御壁がパリンッ!とガラスが割れるような音で砕け散った。そしてそのまま気絶し倒れた。


 「こいつなりに最善を尽くしたのか」


 「それは違うと思う…」


紫音が口を挟む。


 「やはり元からレーザー発生器を狙う魂胆というわけか」


 「多分、向こうでレーザーを食い止め続けた奴が…」


 「凄腕、というわけだな。」


 「発生器を壊すまでの間、防ぎきれる自信があって、さらにその後に光と私を相手できると踏んでいる…だからリリィ・アイリスを先行させた…」


 「ならば魔力もこいつとは桁違いな筈だ。レーザーの高エネルギーを防ぎ続けられるんだからな。もし耐え切れていないなら、今頃火災が起きてるはずだ」


 「だから次来る相手は…全力で相手した方がいい…」


 「とりあえず…こいつは殺しとく方がいいだろうな」


不確定要素は排除しておくに越したことはないという光の判断。


 「確かに…魔力を使い切っても何らかの手段で回復されて、あんな攻撃されたら…」


 「こっちが死ぬ。」


壁に空いた正円を見ると、光や紫音でさえ寒気がする。


 冷淡な口調で言いながら、光はベレッタをリリィに向けトリガーに指を掛けた。

 

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