第7話
ようやく新木場に着いた羊谷たち。人数が一人増えている。無論、獅子土である。しかし、怒りに震えた羊谷によって半殺しにされており、ふらふらの身体をマイケルと虫岡に支えられていた。
「いや、しかし、さっきの羊谷はすごかったな」
「うん。ストリートファイトでジャンピングパワーボムを見たのは初めてだよ!」
興奮気味のマイケル。
「ところでさ、新木場に着いたのはいいんだけど、ここからどこへ行けばいいんだろう? 耳崎さんは死んじゃったし」
「確かにな、羊谷。東京湾といっても広い。UFO落下の現場をピンポイントで探すのは容易ではないぞ」
虫岡が仁王立ちで周辺を見回す。
あたりはもはや暗闇に満ちている。普段は街灯やコンビニなどの明かりが道を照らしているのだろうが、地震の影響で電気が止まっているようだ。遠くを眺めると、お台場方面だけが少し輝いて見え、方角がかろうじてわかる。
「実は、それをずっと考えていた。そして、今は良い考えが浮かんでいる。聞きたいか?」と羊谷。
「もったいぶらないでくれ。君の悪い癖だぞ。実は、俺はここに来るまでに、ずっとそう考えていた」
マイケルが不満げな表情を隠さずに言う。そして、その言い方に明らかにムッとする羊谷。
「おいおい、やめろよ、お前ら。ここまで来て。お互い苛ついているのはわかるが、こんなときこそ冷静にいこうぜ」虫岡が二人の間に割って入る。
しかし、虫岡にすら食ってかかるマイケル。
「ていうか、お前、さっきから何仕切ってんだ? 俺は、そもそも今日はコネクション端末の専門家と会って新しい事業構想を描けるって言われたから、わざわざ忙しい合間を縫って来日したんだぞ。それが、いつの間にか大地震が起きて、UFOを見に行くって……。ほんと日本人はどうかしてるぜ」
そう言って、タンクトップの隙間から覗く大胸筋をピクピクとさせた。
ところが、マイケルの怒りを打ち消すように、羊谷は大きな声で主張した。
「そう、それなんだ。UFOの墜落現場を探すためには、コネクション端末を使う。みんな、この端末が人以外とでも〝つながれる〟ことを知っているな? カンダタを自分の部屋につないでおけば、その中の様子を窺い知ることができるように。なんてたって糸電話だからな。この機能を活用すれば、どこにUFOが落ちたのかも正確に知ることができるはずだ。では、このあたり一帯とコネクション端末でつながっている者はいるか? 無論、俺らの中にはいない。が、獅子土、夢の島公園の園長のあんたの端末なら、このあたりの施設とカンダタをつなげているんじゃないのか? もしくは、夢の島公園の運営事務所内に設置されている端末ならどうだ?」
「なるほど! それだったら見つけられそうだ」「すごい!」賞賛する虫岡とマイケル。
が、獅子土は濁ったままの目で首を振った。
「無理だ。私はあんたらとは違って、スマホ派だ……。コネクション端末は持っていない」
「なんだと! では、運営事務所のほうはどうだ?」食ってかかる羊谷。
「運営事務所に置かれている電話は、ただのプッシュホンだよ。昔ながらのな。そもそもここからは、歩くとけっこうあるぞ」
無茶だと言わんばかりの獅子土の態度。
「ふざけんな! クソッ、なぜこんなに素晴らしいものを活用してないんだ。これだから老害は……」
羊谷は吐き捨てた。
ふたたび空気が険悪になるが、それを切り裂くように虫岡が素っ頓狂な声を上げた。
「おい、ちょっと。あれ見てみろよ!」
指を指したほうをマイケルが向く。
「What? なんだありゃ! 超巨大な……。えっと、あれは犬か?」
羊谷も振り返って目を細める。
「ん…… なんか大きな犬? どれだ?」
「おい! 犬がなんか咥えてるぞ! あれUFOじゃないか! 銀色だぞ」
「マジ? オーマイガー」
「よく見えないな。どうなのかな」
「絶対そうだって! あ、今飲み込んだ!」
「いや、違うだろ、さすがに。そもそも巨大な犬ってどこだよ?」
「あそこだよ! お台場のあたり」
「げぇ、ほんとだ! 超でかい!」
「Unbelievable! あれ、なんか犬の口から、なんか落ちたぞ。人?」
「それって、羊谷が言っていた異星人じゃないの? どんな形だった?」
「うーん、人間に比べて足が短そうだった。それぐらいしかわかんなかったな」
「それだよ、絶対!」
「へぇー、やっぱり本物なのかー」
獅子土は、花火を見るようにはしゃぐ三人の後ろ姿を見ながら、いつこの場から帰れるのか考えていた。
マイケルは、遠くに見える非日常の光景に興奮しながらも、明日の帰国便はさすがに飛ばないだろうから、誰かの家に泊めてもらう必要があると思案していた。
虫岡は、闇の中で動く巨大な獣の陰に目を凝らしつつ、もし羊谷がもっと近くで見に行こうなどと言い出したら間髪入れずに「もういいだろう」と断る決心をしていた。
羊谷は、興奮する二人に合わせてはしゃいでいたが、実はよく見えていなかった。自分の視力の悪さを呪っていた。
しばらくすると、巨大な犬の獣は、すっかり闇に紛れてその陰すら見えなくなった。お台場方面でサイレンの音が響いている。それが、怪物のような犬とUFOの騒動によるものか、地震の影響なのか、定かではない。四人は、どうやら自分たちは目的を失ったらしいと気づき、自然と帰途についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます