#025 機械獣魔と〈鳥籠〉の中の少女と
私が〈鳥籠〉の中にいる間は、〈鳥籠〉の中の少女が私に成り代わっていた。
〈鳥籠〉の少女は、私の夢の中に棲んでいるのだから、他人から見たら、どちらも〈私〉に見えるかも知れないけど……
でもね、〈鳥籠〉の少女は、私よりも遙かに的確に指示を出して、混乱の渦中にあった事態をまとめた。とてもじゃないけど、私には逆立ちしても出来ないことを、何気なくやってしまったの。
その時、
だけど、〈鳥籠〉の少女は、そういう痛そうな戦い方は望んでいなかった。
本気だけど、被害を出さない……そんな戦い方を求めていた。
だから、司令塔役になれる私の体を借り出して、状況を仕切り直してしまったの。
ユカに指示して飛竜を外周運河近くに降ろさせた。
それから、何か合図して、ガストーリュを呼び戻した。
銀雪聖堂の上空にも東庭園にも展開している
内容はごめんなさい。姿見越しでも見えるんだけど、例によって読めない。何となく
それに上空に展開している天空船にも距離を取るように求めた……みたい。
さらには、銀雪聖堂を守る司祭や神官たち向けにも
ちょっとびっくり。
〈鳥籠〉の中の少女が何をしたのか?
それは、後からユカや
銀雪聖堂、東庭園を中心とする半径八百セタリーブから全員を待避させていたの。
理由は、色々と取り繕ってあるけど、強力な魔法を使うためとぼかしていた。
さらには、銀雪聖堂を守るセリム司祭様へも、強力な魔法が放つ
〈鳥籠〉の少女は、この後の展開を知っていた。
そのシナリオを書いたと言った方がいいのかも知れない。
妖魔側に、私を……沙夜・イス・メートレイアを試すように、促したの。
私の中に〈鳥籠〉が存在するのか、否かを……
そして、その「試験」をするための準備をしたの。
はあ~
何度思い出しても、ため息が出ちゃう。
二年も前の出来事だから、さらにこの次にどうなるのかを体験した後だから、こんな風に整理して話せるけど――あの時、一生懸命だった最中は、私、何も解っていなかった。
◇ ◇
元に戻るのはあっけなかった。
私と〈鳥籠〉の中の少女との交代方法は簡単だった。こんな取り込み中の最中だから、説明は後回しで、とにかく試した。理解は……たぶん、後で追い着いてくると思った。
「じゃあ、はいっ!」
と、ハスキーな甘酸っぱい声に誘われて手を出したら、ぱんっ! と手を打ち合わせた。たった、それだけ。そう、ハイタッチ。私の夢の中に棲んでいる〈鳥籠〉の少女と、私の交代方法はそれだけだった。
〈鳥籠〉は特別な魔法だった。
本来なら、複雑で大規模な魔法の儀式を必要とするはずなのに、ここまで単純化できるのは……この少女の魔法技術力が化け物である何よりの証拠だった。でも、そんなこと、意識すらできなかった。だって、何の違和感もなく、交代できるんだもの。
その瞬間に感覚が戻った。
◇ ◇
夢が覚めたら、ユカがすぐ傍にいた。当然だけど、ユカは私の身に何が起きていたのかを知らない。振り向くとガストーリュの涼しい視線が私を待っていた。
凄く恥ずかしかったけど、ユカに掻い摘まんで事情を話した。さすがに、〈鳥籠〉の少女のことは言えないから、とにかく強力な魔法を使うから、私の苦手な水魔法を手伝って欲しいと伝えた。
ユカは、小さくうなずいた。なるべく意識しないようにしたけど、栗色の髪の中でユカの耳たぶが赤く染まっていたから、私もきっと同じように頬を火照らせていたと思う。
手を繋いで、一緒に魔法を唱えた。
私が風の魔法を、同時にユカが水の魔法を唱えた。ちょうど、合唱みたいな感じね。私がメゾソプラノで、ユカがアルトだからね。
そして、ユカの細い肩を抱き寄せて、唇を重ねた。ユカの頬が、そして耳も真っ赤に染まっていた。
「ガストーリュっ!」
声の限りに私の
一心に魔法の言葉を心の中で唱え綴った。私の周りに銀色の
「私たちの力、受け取ってっ!」
虚数月魔法〈シャムシールの斬撃〉
月の光が映った
ガストーリュが巨大な半月刀を受け取った。その手応えを確かめるために、一度だけ空を切った。蒼い燐光が円弧を描く刃の軌跡に飛び散った。
ガストーリュは受け取った特殊な形の剣を手に、私をじっと見下ろした。
「ガストーリュ、お願いします」
ガストーリュが駆け出した。
そして、再び、衝突。硬質な金属同士が相食む音色が響いた。
半月刀が
刃が欠け落ちても、すぐに
今度は本物だった。
ガストーリュが優勢に押していた。
ユカとうなずき合った。
私とユカとで再び、魔法を唱えた。〈シャムシールの斬撃〉を運河の水に二重掛けにした。ガストーリュの白亜の体躯に並ぶほどに、巨大な氷の刃が生み出された。
ガストーリュを呼び戻して、巨大な新しい半月刀を与えた。
戦いに終止符を打つべく、私の
「法印をします。この
ガストーリュは蒼く研ぎ澄まされた巨大な三日月形の刀身を、つむじ風のように一度振るい確かめた。私がうなずくと、ガストーリュは再び風のように駆けだした。
この時、本当は――私が、気がつかなきゃいけなかったの。
かつて、漆黒の貴姫様が全世界を相手に戦い、勝つことが出来た理由……
貴姫艦隊が、世界守護艦隊にも、異世界連合の
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