#009 閘門塔、教導騎士団と天空教習艦と
♯星歴682年10月 14日
アゼリア市カミヤライ
その日、ゴンドラで案内された実習先は、天空教習艦「アキアカネ」だった。有名な船だから、これに乗れたらいいなって、実は狙っていた。天空教習艦は帝都に四隻あるから、どれが当たるのかは半分以上は運だった。
毎日、毎日、色々な天空船を廻って練習を繰り返していたけど、お邪魔する天空船の本来業務の合間に、ちょっと触らせてもらう程度しか許してもらえなくって、天空船の教習は退屈だった。でも、今日は違うと思ったら、急にやる気が出て来た。
だって、天空教習艦だよ。つまり練習専用の船っ! 退屈な大型貨物船なんかと違って、自由に飛び回れる天空船をついに操れるときが来たと、このときは素直に喜んだ。今、思い返すと、あの頃は、ただ素直な子供で、まだ何も意地悪なことを知らなかったと思う。
天空船といっても、色々な種類があるの。
いま帝都にいる天空船で一番に多いのが、
天空艦隊に所属する艦船に限っていうと、部分的に
商業天空船と違うのは、強力な
逆に高性能なのが、
フェリム第4期、「天空海戦時代」と呼ばれる六百年前の頃は、全てを
この天空教習艦「アキアカネ」は、操船のほとんどが
大切にされてきた理由は色々あるけど、性能面から言うなら、主機の出力管理や、メーンローターのピッチコントロールまでもが、
天空教習艦『アキアカネ』は、カミヤライ
天空艦隊所属艦船の
ほとんどの艦船は、所属艦隊群を表す花を
でも、この教習艦だけは花じゃなく、可愛い赤トンボの絵が
意気揚々と教習艦に乗り込む私を、お付きの従者たちが気遣わしい視線で見送ったことに、私は後になって思い当たった。何か変な雰囲気だったとは思ったのだけど、あの時は嬉しくて浮かれていたから深く考えなかった。
船橋へあがり、
「
……へ?
「クムク
事前に、何も説明されていなかった。歌劇舞台で悲恋物語の主人公でも演じていそうな、あまりに麗しい青年騎士が、甘い声色で、私を待っていたといったの。
クムク
魔法体系の中でも最高階層に位置する
クムク
透き通った淡い空色をした
……でも、この
でもね、何も知らなかったから、このときは本当に嬉しかった。
そして、初めての本格的な天空船教習が始まった。
マニュアルを参照し、クムク
それから、管制所へ出港許可を求めた。
「教習艦『アキアカネ』です。出港許可を申請します」
無線通信で、カミヤライ
「あの、こちら『アキアカネ』です。あの……カミヤライ管制、聞こえますか?」
焦って呼びかけを繰り返した。もちろん、無線機器のスイッチがちゃんと入っているか、とかも確認し直した。
すると……無線機のヘッドフォンに、ちょっと意地悪な笑い声が混じった。
「こちらカミヤライ
えっ! 慌てた。天空艦隊所属艦のリストは、単語帳を作って詰め込み学習した。そう言えば、確か、「アキアカネ」って、愛称だったはず。
さらに慌てて、この天空教習艦の本名を思い出そうとしたけど、泡を食ったせいで、記憶が全部、吹っ飛んだ。
「通称にて呼称します……『アキアカネ』 時計回り航路にて、出航を許可します」
出港許可を伝えた管制所の声は、にやにや笑いが混じったていた。
からかわれたことに気付いて、膨れた。
♯星歴682年10月 15日
アゼリア市カミヤライ
翌日は、学校を休んで朝から教習艦「アキアカネ」で実戦的な演習に取り組んだ。今思い出すと恥ずかしいくらい。私は朝早くからもの凄く張り切っていた。
小さな声で言うと……
「時計回り航路にて出港を許可します。『アキアカネ』 頑張れよ」
カミヤライ管制からの声は、もう笑っていなかった。励まして送り出してくれた。嬉しかったし、何だかやれそうな気がした。
「はいっ! 負けません」
何も知らない初心者だった。だから、根拠不明の自信が私を高ぶらせていた。
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