#010 演習空域、天空教習艦アキアカネ
♯星歴682年10月 15日
アゼリア市郊外 第二演習空域
……と、言っても
でもね、貨物船を貸してもらうんじゃなくって、本物の教習艦を乗り回す段階にきて、ようやく彼らは、多くの天空騎士に恐れられるその本性を現わした。
私付きになった指導騎士は、びっくりなことにクムク
本当に、このまま歌劇舞台に立って歌い出しても不思議じゃないくらいに、
そう、昨日は
……まずい。どうしよう。この人、凄い人だったよ。
帰宅後に気付くなんて間抜けだと思った。そして、急に怖くなった。
これは、学校のクラスメイト、特に天空艦隊を目指している貴族家の女の子たちに知られたら、首を絞められそうな状況だと、内心で恐怖した。それくらいに天空艦隊では、
あり得ない。絶対にあり得ないと思った。
帝都アゼリア市でも
まずいよ、これ。学校で他の女の子たちに知られたら、靴箱に蛙を入れられたり、持ち物に
きっと、
それに、私は……クムク
私のお家、メートレイア
お父様を一言で表すならガサツな
だから、クムク
……でもね、この
◇ ◇
前置きが長くてごめんなさい。
それで、初めての
ルールは簡単だった。わずか五メルトリーブ先に標的となるブイが浮いていた。それを十五分以内に撃てたら私の勝ち。時間切れか、あべこべに撃沈判定を取られたら負け。
相手役の
お父様がお仕事で第四艦隊群を率いて行う
でも、一対三で行う初めての
お守り札みたいに胸元にしまった懐中時計に、服の上から触れた。
「始めます。どうぞ」
そう、指導騎士役のクムク
「ここは、通さぬ……」
お決まりの文句の他に何か送信してきたけど、ごめんなさい、読めなかった。
「すみませんです。押し通らせてください」
と、打ち違いも混ぜながら、微妙におかしい返信を飛ばした。本当は、「押し通る」と格好良く返すのが
作戦というほどのこともなかった。私ひとりだし、状況は全部見えている。ごく単純に、こちらは足の速い船が一隻、向こうは足の遅い船が三隻って条件なのだから、機動力で掻き回してどれか一隻に集中攻撃を仕掛ければいいはず。つまり三隻を二隻に減らしてしまえば、標的へ近づくルートが開けるはずと考えた。
三対一だけど、相手は足の遅いミファイルアント
だけど、そうは簡単にことが進まなかった。
一番端に位置した船を集中攻撃した。
最後は、時間切れ間際に仕方なく三隻いる相手を無理矢理すり抜けようとして、盛大に
◇ ◇
「はあ~」
行きはやる気がたぎっていたのに、帰りはため息ばかりだった。
演習空域から帝都へ帰り道も、私は大負けしたショックを引きずっていた。
私だって、あの第四艦隊群の絶対指揮権を持つメートレイア
それなのに……
ボロ負けしてしまった。
愛称の「アキカカネ」、そのもうひとつの意味が袋叩きにされてようやく実感できた。
本当の戦いでは鋼鉄や、
この天空教習艦が「赤とんぼ」とか「アキアカネ」って呼ばれている意味は、そういうことだった。ヘタっぴな練習生や天空騎士のたまごたちが、ぼこぼこにされて真っ赤に
……「アキアカネ」って、絶対、そういう意味に違いないよ。
さらに、落ち込んでいるときは良いことはない。そういうものらしい。
この教習艦は頑丈で知られる
この「アキアカネ」の場合は、運動性の良さは使いやすさに、ムキムキな装甲厚はきっと、どこかに必ずぶっつける初心者のヘタっぴさに耐えるために活かされていた。船体のあっちこっちに刻まれた擦り傷の数だけ天空騎士が巣立ったともいわれている。
そう私も、ごっつんしてしまった。天空船は踏ん張る物が何もない空の中に浮いている。風に流されたり、進入速度が速すぎで曲がり切れなかったりと様々な理由で、色々な場所にぶつかる危険がいっぱいあるの。
私の場合は、外周運河に降りるときにやってしまった。散々な教習が終わって、後は運河に降りておしまいって場面でちょっと油断した。集中力が切れていた。
それにね、その日はまだ終わりじゃなかった。天空教習艦アキアカネでの
とにかく、あのときは時間がなくって焦っていた。集中力も
「
クムク
「しまったっ!」
慌てて機関をリバースして減速をかけたけど、もう間に合わない。高度計、速度計、船の姿勢を大急ぎで確認して、青ざめた。
焦って機関をリバースしたのは大失敗だった。速度落ちて行き足がなくなると、
浮素管には外周運河の水面と同じ高度へ降りるように指示を出したままだったの。船体の姿勢を立て直す時間もなかった。
「350のマイナス5の200に、ホルク
この数字は見通し系座標。船の進行方向をゼロに時計回りに360度の
この場合は、左前方にすぐ近くに、
速度がありすぎて、間に合わない。本当はこのホルク
とっさの判断で
なんとか外周運河に降りられた…… と、ため息をついた。
ところが……
「シライ
クムク
へ……っ? 深さが足りないって?
えっ? あっ!
言われて気付いた。というか、外周運河は区間によって深さが異なることを、うっかり忘れていた。ホルク
慌ててクラッチを切って、メーンローターを主機関から切り離して止めた。船体下部にある
ガリガリ……
外周運河の川底と
帝都外周運河の深さは区間によって異なるの。つまり大型船対応に深く掘られている区間と、小型船向けの浅い区間がある。もちろん、標識が色々と出ているし、天空
こんなダメダメな状況でも、クムク
やっぱり調子が出なかった。うちのお父様だったら、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます