#006 魔法機械工廠、ガラクタを愛する技巧官と


♯星歴 682年10月11日 午後6時5分

 アゼリア市杜山区葦華通もりやまくあしかどおり4丁目


 やっと天空船てんくうせん実習から解放されたのは午後六時を過ぎていた。実習に付き合って下さった天空貨物船てんくうかもつせんの船長へのお礼もそこそこに、今度は、大急ぎで水上バスの駅まで急いだ。

 水上バスに乗り換える葦華通あしかどおり駅は、外周運河と市街地を流れる水路との合流点にあった。ゴンドラで送ってもらうのはここまで。従者役を務めてくれた天空騎士てんくうきしたちにもお礼をいってお別れした。


 いつも持ち歩いている懐中時計を確かめたら、もう、水上バスの時間、ぎりぎりだった。水路をまたぐ連絡橋を走った。もう、ちゃぷんちゃぷんと近づいてきた水上バスが立てる波が寄せ始めた港区行き桟橋へ。

 水上バスが白い湯気を吐きながら船着き場に入って来るのと同時に、紫色に識別色ラインカラーが付いた改札を走り抜けた。帝都にはたくさんの運河があって、水上バスも結構な数が運行されている。迷子にならないように、水上バスにも駅にも、運河や系統ごとに目印になる色が目立つ場所に塗られているの。


 そうね、南部の商都しょうとティンティウム市がトラムの街ならば、北部高原にある帝都アゼリア市は水路の街なの。官庁街や繁華街はもちろん下町にも、水運用に掘られた水路が網の目のように張り巡らされていた。どこに行くのも水上バスが便利だった。


 私の家、メートレイア伯爵家はくしゃくけは、帝国でも屈指くっし武家ぶけだった。だから、何事にも厳しくって、送り迎えに馬車を用意してもらうなんて甘えたことは、一切、許してもらえなかった。そんな私にとって、水上バスは大切な交通手段だった。だって運賃が市内均一料金で二百リン。乗り継ぎ割引もあるから、お小遣いにも優しい。

 それに、街に暮らすみんなと一緒の席に座って、時には通りすがりの人たちとも水上バスの中で楽しく談笑もしていた。三十分ほどの時間だけど、変に気を遣われたりしない、何気ない時間が好きだった。


 その日も、そうだった。

 外周運河に今年も北の方から水鳥たちが渡ってきたよ……そんな話をしていたと思う。もう、先ほどゴンドラで感じた違和感なんて忘れていた。



♯星歴682年10月11日

  アゼリア市港区甲羅虫通こうらむしどおり12番地


 港区の倉庫や工場の建ち並ぶ区域にある甲羅虫通こうらむしどおり駅で水上バスを降りた。港区っていうけど、アゼリア市は高原にあるから、ここは本物の海にある港じゃない。正確には湖にできた川港かわみなとだった。

 実は……アゼリア直轄領ちょっかつりょうに住んでいる天空貴族は、あんまり海のことを知らない。

 言い訳をすると、天空貴族は天空の海に住んでいるのであって、本物の塩っ辛い海に関する知識はかなり寂しい有様ありさまだった。そう偉そうにいう私も、実はティンティウム市へ留学するまで、港といったら、湖のことだと誤解していた。


 港区は工場や倉庫、造船所といった機械と油の匂いがする雑然とした場所だった。

 甲羅虫通こうらむしどおりはその中でも魔法機械まほうきかい関連の施設が建ち並ぶ、帝都でも最も機械油にどろどろとまみれた場所だった。もちろん魔法機械まほうきかいは嫌いじゃないよ。でもね、できることならば、この一帯はもう少し整理整頓してくれたら良いのに……と、思ってはいるけどね。


 そして、市街の南外れに位置するこの甲羅虫通こうらむしどおりには、魔法機械まほうきかいの制作や修理、研究をしているウルシル魔法機械工廠まほうきかいこうしょうがある。この赤煉瓦造あかれんがづくりの古びた建物が、その頃、私の放課後の行き先だった。


 魔法機械工廠まほうきかいこうしょうに着いたら、広い敷地に広がる入り組んだ回廊かいろう赤錆あかさびた案内標識を頼りにたどり、機械騎士整備棟きかいきしせいびとうに向かった。

 赤い煉瓦造れんがづくりで、いつ行っても機械油の匂いと、天井まで積み上がったガラクタでいっぱいの場所だった。

 本当は天空軍に所属する魔法機械騎士まほうきかいきしを修理するための工場なのに、発掘品のガラクタで埋まりかけている場所。たぶん、そう呼ぶのが一番実態に近いと思う。


 そこに、私にとって大切な機械騎士きかいきしが待っていた。

 ガストーリュという名の白亜色はくあいろ魔法機械騎士まほうきかいきしで、イル砂漠にあるフェリム第4期の遺跡から発掘された機械の欠片だった。ここへ運ばれて来たときは、ボロボロの鉄くず同然の有様ありさまだった。

 けれど、三ヶ月ほどかけて法印魔法ほういんまほうを与え続けた。やっと、六百年も昔の精悍せいかんで美しい姿を取り戻しつつあった。


「ガストーリュ、ただいまっ!」


 詰め込み学習から抜け出した開放感でつい声が大きくなった。煉瓦造れんがづくりの巨大な工廠こうしょうに私の声が反響した。

 太古の魔法機械騎士まほうきかいきしは、座った姿勢でも、工廠こうしょうの二階フロアを越えて見あげるような背丈だった。一階フロアに林立する巨大な石英真空管の群れを抜けて、足下に駆け寄った。

 もう一度、この魔法機械騎士まほうきかいきしの名を呼んだ。まだ、眠り続けている機械騎士きかいきしはもちろん答えないけど。


 立ち並ぶ石英管は、魔法機械騎士まほうきかいきしを修復するための呪文を機械詠唱きかいえいしょうしていた。私が学校で授業を受けている間も、私が予め唱えて封入した魔法符形まほうふけいをこの石英管が代わりに唱え続けてくれる。

 もちろん、機械的な詠唱えいしょうだから、私が直接に唱えるのに比べたら、効果は半分もない。それでも、電源さえあれば、朝も昼も夜も休まず回復魔法を詠唱えいしょうし続けられるのは、疲れを知らない機械力のおかげだった。


 だから、私は、こうして毎日のように工廠こうしょうへ通って、石英管に込めた魔法符形まほうふけいを新鮮なものに交換していた。私が込めた法印魔法ほういんまほうを石英管はずっと循環詠唱じゅんかんえいしょうしているんだけど、時間が経つとどんどん魔法符形まほうふけいが溶けてしまう。現在の技術では、完全な無限循環詠唱むげんじゅんかんえいしょうはムリだった。


 法符ほうふ劣化のない完全な循環機械詠唱じゅんかんきかいえいしょう――これは、魔法機械まほうきかい製作の基盤技術だった。だってね、どんな魔法機械まほうきかいを作るにしたって、封入した魔法符形まほうふけいが時間経過ともに劣化してしまうんじゃ、全然、だめだめでしょ。

 太古の時代、漆黒しっこく貴姫様きひめさまなら当然、簡単にできたことだったはず。それなのに、六百年後の私たちの技術力では、お手あげだった。魔法機械まほうきかい製作を支える基盤技術なのに、六百年の間に失われてしまったの。

 だから、魔法機械騎士まほうきかいきしの復元を急ぎたいのなら、毎日ここへ通って、新鮮な私の魔法力を石英管に与え続けるしかなかった。

 オレンジ色の魔法符形まほうふけいを眺めて、状態を確認して気づいた。


 あっ……!


 嬉しくて口元を押さえた。ほんの少しだけど、石英管の中に揺れる符形ふけいが変化していた。それは劣化とは違う変化だった。魔法機械騎士まほうきかいきしの状態が変わると、魔法符形まほうふけいが変化するように予めプログラムしてあったの。


 待っていたように、後ろから声がした。

沙夜法印皇女さやほういんこうじょ様、昨夜、復元魔法が次のステップに進みました。来週にはガストーリュは再覚醒さいかくせいしそうですよ」

 振り返ると、この魔法機械騎士まほうきかいきしの復元作業を担当してくれたラファル技巧官ぎこうかんがファイルを片手に、にっこり満足そうな笑みを揺らしていた。

「昨夜にステップが進んだのならメールで知らせてくれても良かったのに……」

「これは、すみません。昨夜は徹夜作業だったので、つい……」

 言いすぎたことに気付いて、ごめなさいと詫びた。でも、ラファル技巧官ぎこうかんはそんなこと気にしなかった。この魔法機械騎士まほうきかいきしが技術的な視点から特別な存在であることに、夢中だったの。


「この機械騎士きかいきし魔法機環まほうきかん、凄いですよ」

 瞳をきらきらさせたラファル技巧官ぎこうかんが、数値だらけの炭酸紙たんさんしを私に突き出した。解析に使った解析機械からの打ち出しデータだけど……

「これ、数値、振り切っている?」

 電磁ピンで描かれた文字の列にいくつも、上限値越えを表す記号が付いていた。

「復元作業が進捗したので、外部接続でデータを取ってみたのですが……さすがにプロテクト符形ふけいに未知のコードが含まれていまして」

 統合指揮所だけでなく、帝国公文書館にある古文書アーカイブまで参照したけど、該当する魔法陣まほうじんが見当たらなかったらしい。

「失われたプロテクト魔法の一種かも知れません。早くも大発見ですよ」


 電磁ピンで打ち出したドットの組み合わせで書かれた数字に小首をかしげた。魔法機械騎士まほうきかいきしを稼働させるための魔法機環まほうきかんの特性には思えなかった。あまり詳しくないから自信ないけど、天空船てんくうせん向けの魔法機環まほうきかんに似ている気がした。そんな疑問を何気なく口にした。

「良く気がつきましたね。この魔法機環まほうきかんの出力特性は、そうですね……機甲要撃艦きこうようげきかんに積まれる魔法機環まほうきかんの出力特性に酷似こくじしています」

 そこまでしゃべって、ラファル技巧官ぎこうかんは苦笑いの混じった、でも無邪気な笑顔になった。

「そうは言っても、真銀特殊鋼しんぎんとくしゅこうの囲いの中に仕舞われている魔法機環まほうきかんを見たわけじゃないですよ」

 このときラファル技巧官ぎこうかんは、異常値だらけのデータを見て、判断を保留していた。プロテクト魔法が作った幻影を観測したにすぎないかも知れない。そう、考えていたの。


 常識的に考えるならば、魔法機械騎士まほうきかいきしの胸部に収まるサイズに、天空艦船てんくうかんせんの中でも大食いで知られる機甲要撃艦きこうようげきかん魔法機環まほうきかんを詰め込むなんて無理だった。

 魔法機械騎士まほうきかいきし天空船てんくうせんとは違う。剣を振り回して敵の機械獣魔きかいじゅうまと直接に斬り合い、殴り合うこともある。姿勢が頻繁に変わるし、衝撃もあれば瞬発的に大出力を絞り出すこともある。

 魔法機械騎士まほうきかいきしの限られた躯体の中で、魔法機環まほうきかんを安定した状態に保つのは、大変な技術が必要だった。


 もっとも、この魔法機械騎士まほうきかいきし漆黒しっこく貴姫様きひめさまが作り出したものならば……絶対にあり得ないとは言い切れないかも知れない。

 少しずつお話ししようと思うけど、漆黒しっこく貴姫様きひめさまは六百年前にこの世界に侵攻した妖魔ようまのお姫様だった。それなのに……いくつかの理由から侵略軍のお姫様であるはずの貴姫様きひめさまは、畏怖いふの他に、天空騎士てんくうきしたちの敬意をも集めている。


 その理由のひとつに挙げられるのが、卓越した魔法機械まほうきかい製作技術。現在の技巧官ぎこうかんたちは、貴姫様きひめさまのあまりに高い技術力に心酔してしまったの。複雑な機構や高度な術式を駆使するだけじゃなく、基礎魔法さえも使い方の勘所を良く押さえていて、機械好きな技巧官ぎこうかんたちを唸らせる不思議な魅力が貴姫様きひめさま魔法機械まほうきかいにはあるらしいの。ラファル技巧官ぎこうかんからの受け売りだけどね。


 そして、魔法機械騎士まほうきかいきしガストーリュの右肩には朝顔の紋章が刻印されていた。貴姫様きひめさまが率いた天空艦隊てんくうかんたいでは、朝顔が紋章として用いられていた。つまりガストーリュは貴姫様きひめさま魔法機械騎士まほうきかいきしだった可能性がある……と推測されていた。


 えっと、もうひとつ説明しないといけないよね。

 魔法機環まほうきかんというのは、天空船てんくうせん魔法機械騎士まほうきかいきしの心臓部や核にあたるとても高度な技術で作られた魔法機械まほうきかい基幹部品キーデバイスのことなの。


 法印皇女ほういんこうじょである私が法印ほういんを施す相手が、この魔法機環まほうきかんだった。つまり六百年前にこの世界に侵入した漆黒妖魔しっこくようま魔法機械まほうきかいを封印するためには、その中心核である魔法機環まほうきかん法印魔法ほういんまほうをかける必要がある。

 逆に言うと、魔法機械まほうきかいを平伏させて管理下におくためには、その中心核である魔法機環まほうきかん法印魔法ほういんまほうで鍵をかけてしまうしかないの。

 法印ほういんを施されたら、どんな魔法機環まほうきかんでも、発揮可能な能力も機械詠唱きかいえいしょうできる魔法も、全部、法印皇女ほういんこうじょの言いなりになってしまうから。


 それから、ひとくちに魔法機環まほうきかんといっても実際には、作られた用途や技術、作成者によって、色々な種類や特性がある。

 例えば、地上の街にも天象局てんしょうきょくが天気予報を出しているでしょ。明日は北西の風、晴れのち曇り――っていうあれは、各地に派遣された観測船が集めた気象データをもとに、天象局てんしょうきょくのある魔法機環まほうきかんが計算した結果なの。

 他に良く知られているのが、帝都中区桜通の国立公文書館の地下にある古文書アーカイブ。太古の時代から現在まで、二十万点を超える魔法符形まほうふけい妖魔ようま呪法じゅほうをファイルした文書や魔法陣まほうじんの検索システムだけど、これを管理している実体は、三十個を超える巨大魔法機環きょだいまほうきかんの複合体だっていわれている。


 それにね、魔法機環まほうきかんを利用しているのは、帝都だけじゃない。世界中で様々な用途の魔法機環まほうきかんが運用されている。

 確か、ティンティウム市芸術学院の教務棟にも中規模な魔法機環まほうきかん複合体があって、学園での研究成果を蓄積しているはず。

 陶芸科とうげいかだったら釉薬ゆうやくの発色と焼き温度の関係を伝える古文書が収められている。音楽科だったら、大昔の失われてしまった楽器の奏法そうほうが記憶されているらしい。調理科だったら、二百年前のお姫様の結婚式で振る舞われたケーキのレシピが保管されているとか。教務科の場合は、私たちの成績や出欠席日数や提出物や忘れ物の回数まで……


 えっと、話を戻すと……魔法機環まほうきかんには普通の文書や記録を処理するだけの図書館みたいなおとなしい魔法機環まほうきかんの他に、天空軍や漆黒軍しっこくぐんが使う戦い向きの魔法機環まほうきかんがあるといった方が良いかな。


 天空軍船てんくうぐんせん魔法機械騎士まほうきかいきし機械獣魔きかいじゅうまが核に持っている魔法機環まほうきかんは、活性状態にある魔法符形まほうふけいを記憶し、自己詠唱じこえいしょうしているの。

 つまり、魔法の呪文を記憶するだけじゃなくて、いくつも同時に機械的に唱え続けることもできる精巧な機械だった。

 機械詠唱きかいえいしょうという技術を備えていることが、魔法機環まほうきかんをまるで生き物のように魅力的で厄介な存在にしているといえた。


 ガストーリュみたいに高度な魔法機械まほうきかいの場合は、内蔵された魔法機環まほうきかんは、巨大な重機械である機械騎士きかいきし体躯たいくを駆動するエネルギーを生み出す魔法を唱え続けている。

 もちろん力だけじゃない。ガストーリュは言葉を話せないけど、私の言葉に従って、私の想いを形に変えてくれた。ガストーリュは、ただの機械じゃないの。体こそ真銀特殊鋼しんぎんとくしゅこうの塊だけど、ちゃんと心と呼べる物を宿していた。その高次機能こうじきのうも、その巨大な体躯たいくのうちに宿された魔法機環まほうきかんのおかげだった。


 太古の昔にこの世界へ侵入した妖魔ようまたちが遺した魔法機械まほうきかいたちは、残念だけど、ガストーリュみたいに良い子とは限らない。乱暴をする悪い子もうんざりするほどにいる。繰り返しになるけど、だから、魔法機械まほうきかいの中心核である魔法機環まほうきかんには、法印ほういんが必要だった。


 ラファル技巧官ぎこうかんは次の記録紙を差し出した。高揚こうようのあまり手当たり次第にお話ししたいらしい。今度は、感熱紙だった。魔韻投影法まいんとうえいほうという、魔法機械まほうきかいが放つ微量の魔法音韻まほうおんいんを写真みたいに写し取った物だった。その感熱紙には、ノイズ混じりの中に、ほぼ球形の魔法機環まほうきかんのシルエットが映っていた。

「直径百六十二エタリーブの魔法機環まほうきかんを一基、体幹部に持っていますが、プロテクトされているうえに特殊な物らしくデータが取れないのです」

 そう話すラファル技巧官ぎこうかんは嬉しそうだった。第一級の発掘品に間違いないガストーリュを触れるっていうこと自体に高揚こうようしていたの。


「こんな特殊機械を弄れいじるチャンスが廻ってくるなんて、沙夜法印皇女さやほういんこうじょ様のおかげですよ」

 茶化して言われて、ちょっとむっとした。

「ガストーリュは私付きの魔法機械騎士まほうきかいきしです。変に弄らいじないでください……それに、私、まだ、法印皇女ほういんこうじょじゃないですよ」


 正確には、この時点では法印皇女ほういんこうじょのたまご扱いだった。だから、先ほど従者役を務めた天空騎士てんくうきしたちは、生真面目に別の言い回しを使って、私を「沙夜姫さやひめ」と呼んでいた。

 それにね、ガストーリュは私付きの機械騎士きかいきしなのに、すっかりこの技巧官ぎこうかん玩具おもちゃにされている感じがした。ちょっと膨れて見せた。


「あはは…… お詫びにこれをどうぞ。寒いからお腹空いてませんか」

 ラファル技巧官ぎこうかんが工具箱の何か隠していた紙袋を取り出した。とたんに小豆の甘くて良い匂いがした。お腹が鳴った気がした。

 お礼を言って、お饅頭まんじゅうの包みを両手で受け取った。まだ、金穂月シュス・イズエなのに夕暮れは急に冷え込んできたから、暖かくて甘い食べ物は幸せな匂いがした。


 単管パイプで組まれた足場を上った。

 せっかくここへ来たんだから、ガストーリュの左掌ひだりてのひらの中に座り、美味しそうな湯気をまとったお饅頭まんじゅうをかじった。壊れた魔法機械まほうきかいには、私の法印魔法ほういんまほうの治癒力が一番に効果がある。

 実感が薄いけど、私が楽しい気持ちの時は、この子、魔法機械騎士まほうきかいきしガストーリュにも、その気持ちが伝わるって――ラファル技巧官ぎこうかんは微笑んくれた。


 ……ガストーリュ、早く良くなって、目を覚まして。


 甘いお饅頭まんじゅうを頬張りながら心の中で呼びかけた。


 そうね、ガストーリュの紹介がまだだったよね。大切な魔法機械騎士まほうきかいきしだから、少しだけお付き合い下さいな。


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